尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

選挙区の事情、沖縄、京都、東京の検討ー2022参院選③

2022年07月22日 22時49分42秒 |  〃  (選挙)
 参議院選挙の結果検討が2回で切れているので、続き。比例区票は見たので、次に選挙区の事情を検討したい。今回は28ある「1人区」で自民党が圧勝した。野党系が勝ったのは4つだけである。そのうち山形県は国民民主党舟山康江だから、予算案に賛成した「事実上の与党」みたいなものである。この結果は安倍氏の死去の同情票ではなく、事前の予測情報通りの結果である。また、野党の分立が理由でもなく、野党系が束になっても自民党に届かないところがほとんどである。

 立憲民主党が議席を持っていた岩手新潟山梨三重でも自民党候補が勝利した。このうち三重県は現職引退による新人候補に議席を引き継げなかったが、他の3区は現職が敗れたのだから深刻である。しかし、いずれも調査報道で自民有利がはっきりしていた。新潟県の場合は直前にあった県知事選の影響が大きいと当時から言われていた。

 立憲民主党が勝った青森では2期目の田名部匡代(たなぶ・まさよ)の知名度が強かった。自民の斉藤直飛人は、大相撲の元関脇追風海(はやてうみ)で、引退後故郷で町議、県議を務めていた。今まで選挙に追風海の名で立候補していたため、全県規模選挙の初挑戦で知名度に難があったのではないか。長野は自民の松山三四六が追い上げて、追いついたという予測もあったが、投票日直前の「週刊文春」にスキャンダルが報道された。その結果、立民の杉尾秀哉が43万3千対松山37万6千と思った以上の差が付いたわけである。松山は長野で長く活動するローカル・タレントで県民が皆知っていると言われていた。

 沖縄もむしろ自民が一歩抜けたかという報道もあった。結果は野党系の無所属伊波洋一(元宜野湾市長)が自民の古謝玄大を27万4235票対27万1347票という僅差で振り切った。僅か2888票差得票差0.49%である。6年前の2016年参院選では、伊波が35万6355票、自民の現職島尻安伊子が24万5999票と、10万票以上の差が付いていた。3年前の2019年参院選では、野党系の高良鉄美が29万8831票、自民の安里繁信が23万4928票だった。今回の票の出方を見ると、「オール沖縄」体制が崩れて野党系の票が相当減ったことが判る。それでも伊波が辛うじて勝ったのは、参政党が2万2585票、NHK党が1万1034票、さらに幸福実現党も出て、合わせて6.72%を得たからだと思われる。特に参政党が自民票を浸蝕したのではないかと言われている。
(沖縄選挙区のポスター掲示板)
 続いて、2人区の京都選挙区を見る。ここは立憲民主党の福山哲郎前幹事長が1998年に無所属で当選以来、4回連続で当選していた。その時は橋本内閣時の自民大敗選挙で、何と福山が1位、2位に共産党で、自民党が落選した。京都は昔から全国で最も共産党が強いところで、福山が出ていない3年前、9年前の選挙でも共産党が当選している。今回は国民民主党の前原誠司が「日本維新の会」候補を推薦し、長い協力関係が崩壊した。立憲民主党の泉健太代表は京都選出だから、過去の民主党幹部によるし烈な選挙戦が展開された。「維新」にとっては、大阪の「地域政党」性を脱却するためにも、京都を最重点に位置づけていた。
(議席を守った福山哲郎)
 結果的には、吉井章(自民党)が29万3071票、福山哲郎(立憲民主党)が27万5140票で当選。維新の楠井祐子は25万7852票、共産党の武山彩子は13万0260票だった。さらに参政党が4万票、維新政党・新風が2万千票、NHK党二人で1万6千票ほどを獲得している。過去の福山の得票をザッと見てみると、39万6千、48万4千、37万4千、39万、27万5千となっていて、今回およそ12万票近く減らしたのは立民の不振もあるだろうが、前原票の影響が大きいと思われる。

 6年前は今回出馬せず引退する二之湯国家公安委員長が42万2千、福山が39万、共産党候補が21万1千だった。3年前は自民の西田昌治が42万1千、共産の倉林明子が24万6千、立民候補が23万2千だった。これを見ると、最近2回は40万票を獲得していた自民党が今回30万にも達しなかったのは、明らかに維新に浸蝕されたと見られる。一方で過去21世紀の選挙で(民主党政権時代の2010年を除き)共産党が20万票を得ていたのが、今回は13万票に止まった。これは「弱い支持層」が反維新を優先して福山に流れたと考えられる。いずれにせよ、「京都のことを大阪に決めさせるな」「維新の東進を京都で食い止める」が一定の支持を得るところに維新の弱点がある。また、今後参政党の伸び方次第では自民も安泰とは言えない可能性がある。しばらく三つ巴か。
(東京で6人目に当選した山本太郎)
 続いて、東京選挙区。ここは34人も立候補して、事前に用意したポスター掲示板30人分では足りなくなって、後から継ぎ足した。しかし、貼らない候補もいるので矛盾も感じる。結果は公示直前に書いた「参院選、東京はもう決まってる?を検証」(6.16)通りだった。まあ蓮舫の4位は意外だったが、これは立民不振もあるだろうが、蓮舫安泰の調査結果を読んで当落線上と伝えられた山添拓山本太郎、あるいは立民のもう一人松尾明弘に多少流れたと考えるべきだろう。1位の朝日健太郎、2位の竹谷とし子は予想通りだが、朝日は前回より28万票近く伸ばしたのに対し、竹谷は80万、77万、74万と漸減している。4位の蓮舫は過去2回100万票を越えたが、今回は67万票。5位の生稲晃子は62万票弱、山本太郎が最後に56万5925票で当選。次点の維新・海老沢由紀は53万0361票で、3万5564票差だった。この6人の当選は常識で判る範囲だから、当たっても別に嬉しくもない。
(維新で落選した海老沢由紀候補)
 8人目以後は立民の松尾明弘=37万2千、無所属の乙武洋匡=32万3千、「ファーストの会」、国民民主推薦の荒木千陽=28万4千の以上10人が法定得票数に達した候補。11位が参政党の川西泉緒で13万8千票弱だった。ここでは特に「山本太郎」と「海老沢由紀」を見てみたい。7位の海老沢としては、取りあえず山本太郎票を上回らないと当選出来ない。そして地区によっては上回っているのである。それが千代田、中央、港、新宿、文京、江東、品川、目黒、大田、北の10区である。多磨地区では稲城市で200票ほど海老沢が上回っているだけである。東京の土地勘がある人なら判ると思うけど、この区名には意味がある。

 ほぼ山手線に沿った東京都心部に偏っているのである。そこから外れた北区は3年前に維新の参院議員に当選した元都議音喜多駿の地盤、大田区もやはり3年前に比例区で当選した元都議柳ヶ瀬裕文の地盤である。江東区だけが山手線外の東京東部に位置するが、ここは近年高層マンションが立ち並んで都心部に近い住民構成なのではないかと思う。東京では都心部に高所得層が住み、東部とは所得格差がある。西部の多磨地区も中央線沿いは高いだろうが、平均すれば都心部より低いだろう。つまり、東京では高所得者の住む地域で維新の支持が強い傾向がある。それは何を意味するのだろうか。
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1 コメント

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Unknown (匿名希望)
2022-07-23 09:01:31
興味深い分析ありがとうございます。
海老沢候補の得票は90年代後半頃の民主党が新自由主義的な政策で1区現象を起こした時と似ていると思います。
その後、小泉純一郎総裁が新自由主義的政策に転換し、自民党が取って代わった流れもあり、コロナ禍後の諸政策に少々不安を感じます。
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