尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「見事な走り」ー動詞の名詞的使用法について

2023年01月25日 22時31分12秒 | 気になる言葉
 新年になると「駅伝」のシーズンになる。ニューイヤー実業団駅伝箱根駅伝全国都道府県駅伝(女子、男子)と続く。今年は特に箱根駅伝になんと立教大学が出るという快挙があった。箱根駅伝出場を目指すプロジェクトが進んでいることは聞いていたが、来年の「100回大会」を目標にしているとの話だった。監督を務める上野裕一郎は佐久長聖高校から中央大学に進み、学生時代には箱根駅伝で区間賞を3回取っている。今年の都道府県駅伝でも長野県チームのアンカーで出場して、トップでゴールした。
(長野県チームで走る上野裕一郎)
 一方、男子の前週に開催された女子の都道府県駅伝でも、一躍注目を浴びた中学生選手が現れた。岡山県の津山市の中学生、ドルーリー朱瑛里で、中学生区間に起用されて17人抜きの快走を見せて区間新記録を達成した。父親がカナダ人ということで、近年よく見られる外国にルーツがあるスポーツ選手の一人だ。中学生で注目されたことが今後に悪影響にならないと良いけれど…。それにしても最近「岡山県」に注目が集まっている。高校サッカーでは「岡山学芸館」、男子高校駅伝では「倉敷高校」が優勝である。
(ドルーリー朱瑛里選手)
 さて、陸上競技の話をしたいのではない。駅伝やマラソンなどの中継を聞いていると、「見事な走りを見せています」なんて解説者が言っている。いつどこで誰が言ったかをメモしているわけじゃない。だけど皆が聞いたことがあると思う。「走る」という動詞の名詞形は「走り」である。だから聞いていて特に違和感を持つ表現じゃない。でも昔は言ったんだろうか? 

 僕が疑問を持つのは、陸上競技は中長距離走ばかりではないからだ。走り高跳びとかやり投げなんかもある。じゃあ、「見事な跳びでした」とか「見事な投げでした」とか言うだろうか。普通言わないだろう。野球なら「見事な打ち」、サッカーなら「見事な蹴り」とか言わないだろう。それは何故なのだろうというのが疑問なのである。

 幾つか考えられるが、野球だったら「ただ打つのではない」ということがある。投手が球を投げるが、それは直球とかカーブとかの球種がある。また、初球を打つとか一球見逃すとか様々である。打った結果はヒット、ゴロ、フライなどがあり、ヒットでもセンターヒットとか二塁打、三塁打、ホームランなどがある。だから解説の用語が複雑で、打者が見事に打ったとすると、「難しい変化球を見事にホームランにしました」なんて話になって、単に「見事な打ち」では伝えきれないのである。

 また野球やサッカーは外国発祥のスポーツだから、「見事」なときは「見事なバッティング」「見事なシュート」と使うことが多い。これは他の競技、バスケットボール、バレーボール、テニス、ゴルフなど皆同じで、主に英語で見事さを表現することが多くなる。そういうことがすぐ思いついたが、一番の理由は他にあるだろう。それは「走り」は3音で、「打ち」「投げ」「蹴り」などは2音だということだ。「見事な走り」だと「4+3」で7音になる。俳句、短歌じゃないけれど、やはり日本語表現は5音、7音が聞く方に安定感を与えるのだと思う。

 一般的にも動詞の名詞形で「2音」というものは少ないと思う。「狩り」「荒れ」「空き」などはあるが、これらはもう単なる名詞として認識していると思う。やはり「痛む」の名詞形「痛み」とか、「祈る」の名詞形「祈り」のように3音の方が耳になじんでいる気がする。全部の動詞を調べたわけではないので、これが一般的なルールとまで言えるのかは判らないけど。

 なんでこのことを書いたかというと、今までは名詞化しなかった動詞を名詞で使用する表現が多くなっている気がするのである。例えば、「ヨガの教えに通っているんだけど、やってるうちに体に気付きがあったんだよね」とかである。「教え」とか「気付き」なんて、昔は使っただろうか。こういう表現をするタイプは大体似た感じがする。言葉の使い方が雑だとかいう問題ではなく、なんかよくいるでしょう、自分が「意識高い」みたいに見せるときの新しい表現みたいな使い方。ぼくはそもそも動詞は動詞として使えば、その方がずっと耳に快いと思っている。「気付きがあった」なんて言わずに、単に「気付いた」と言えば良いのではないか。
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