都知事選から一週間ほど。様々な余韻は漂うものの、地方政治をめぐる問題としては「兵庫県知事問題」が大きくなってきた。この問題は前からくすぶっていて、その話は聞いていた。しかし、地元の都知事選ならともかく、全然縁のない地域の話を書くのもなあと思って触れないでいた。しかし、重大な問題が幾つもあると思うので、ここで書いておきたい。
2024年3月に「西播磨県民局長」(播磨=はりま=兵庫県南西部の旧国名)を務めていたW氏(本名も判明している)が、兵庫県の斎藤元彦知事の「パワハラ疑惑」などを告発する文書(「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」)をマスコミ、県議などに送付した。斎藤知事は告発を「嘘八百」と否定して、「業務時間中なのに嘘八百含めて文書を作って流す行為は、公務員としては失格。被害届や告訴などを含めて法的手段を進めている」と激しく反発した。W氏は3月末で定年退職だったが、「懲戒処分の可能性がある」として退職辞令が取り消された。そして5月になって「停職3か月」の懲戒処分が下された。
(内部告発を否定する斎藤知事)
細かいこと(疑惑の内容など)は書かないが、その後県議会で「百条委員会」(自治体の疑惑や不祥事があった際、事実関係を調査するため、地方自治法100条に基づいて地方議会が設置する特別委員会)が設置され、来週にはW氏も委員会に出席して証言することになっていた。しかし、それを前にW氏は7月7日に亡くなった。「自殺」とされる。(遺書もあると言われるが、現時点では公表されてない。)ところで、この問題をちょっと調べて驚いたのは、死者は1人ではなく2人だったのである。先の文書で「セ・パ優勝パレードにおけるキックバック強要」が告発されていた。その担当の総務課長が大阪府との調整などに悩み「ウツ」状態だと告発されていたが、その課長が4月に「自殺」していたというのである。
(斎藤知事は辞職せず)
兵庫県ではおよそ半世紀にわたって現職知事引退後に、副知事が出馬して当選してきた。2021年の知事選では、3期務めた現職の井戸敏三氏が引退を表明し、井戸氏は金沢副知事を後継に指名した。しかし、県政の刷新を求める声もあり自民党県議団は分裂し、斎藤元彦氏が自民党と維新の支持で立候補して、金沢氏らを破って当選した。斎藤元彦氏(1977~)は神戸市生まれで、地元小学校、愛媛県の中高一貫校を経て東大を卒業、総務省に入省した。総務官僚(旧自治省系)は全国各地に出向するが、Wikipediaを見ると斉藤氏は三重県、新潟県、福島県に出向している。直前は大阪府財務部財政課長だった。
コロナ禍の真っ最中で「従来の発想の県政を脱却するべき」という方向性はあると思うが、こうして「大阪維新」の薫陶を受けた総務官僚が若くして知事になったわけである。権力者のふるまいは「大阪に学んだ」との声もあるようだ。パワハラ問題の具体的状況は知らないが、いろいろと検索すると「県職員なら誰でも知っている」という証言が多い。副知事は「厳しい叱責」と表現しているが、命に関わるようなケース以外で厳しく叱責することを普通は「パワハラ」と受け取るんじゃないだろうか。
そもそも告発者が3月末で定年だと聞いた時点で、「告発は事実なんだろう」と僕は思った。今後もずっと生活のために辞めるわけにはいかない人は告発出来ない。もうすぐ退職する人間だから、最後に言うべきことを言わなければ無責任な終わり方になると思ったんだろう。ところが、退職自体が差し止められた。この退職差し止め自体がパワハラっぽい。多くの自治体に「定年延長」の仕組みはあると思う。しかし、それは「余人をもって代えがたい」場合の話で、「処分の可能性」で辞めさせないという措置はあり得るのか。普通は「退職金支給差し止め」はあっても、定年年齢になったら退職になるはずである。
(職員組合は知事の辞職を求めた)
この退職差し止めは大きな重圧になったと思う。そして5月に「停職3ヶ月」となるが、それが仮に妥当な処分内容だとしても、「懲戒免職」事案ではなかった。わざわざ定年を延ばした上で「停職」など全く無意味である。在職時に問題があれば、その分の退職金を削減すれば済む話で、退職させないなんて聞いたことがない。この問題の県調査に「第三者機関」は関わらず、逆に「県が調査の協力を依頼した弁護士が、告発文書で知事の政治資金に関連して指摘された県信用保証協会の顧問弁護士だった」という。
そこで県議会が「百条委員会」設置ということになったわけだが、自民党県議団は設置に賛成した。一方、維新と公明が反対したのである。維新や公明は普段は政治倫理に厳しいようなことを言っているが、やはり自分の支持する場合は違うのだ。それも大きな教訓である。そして、噂レベルだが、維新の県議は百条委員会で告発当事者の元県民局長を追求する構えを示していたという。3月末に副知事と県人事課長が突然県民局を訪れ、局長が使用していたパソコンを押収したという。局長にもまさかの油断があったのだろうが、どうも職場のパソコンで告発文書を作成していた。そしてパソコン内には個人的な情報も保存されていたらしい。
「自殺」の真相は不明だが、このような百条委員会で予想される「追求」が大きな心理的負担になっていたのではないか。片山副知事は上記画像で職員組合からの辞職要求文書を受け取った人だが、辞任の意向を表明した。知事に一緒に辞任するよう求めたが拒否されたという。しかし、県庁で一人ならず二人も死者が出ている事実は重く、このまま最高責任者が居座ることが出来るとはとても思えない。何にしても「上司にしたくない」人物が間違ってトップに立ってしまった場合、下の者はどうすれば良いのか。
僕は東京都の教員として、都教委(の都立中学教科書採択)に反対する運動をしてきた。従って、「身を守る」ためにはそれなりに気を付けていた。職場のパソコンで職務以外の文書を作ったり、有給休暇を申請せずに集会に参加するなど、避けなければならない。どこから難癖を付けられるか判らないからだ。裁判になれば、当局者はどこまでもウソをつき続ける。それを前提にして、不当な罠に陥れられないように「内部告発者」も注意が必要である。
*その後、W氏は音声データを遺していたことが判り、百条委員会に提出された。なお「死をもって抗議する」と言っていたという。「告発」内容の問題は今後しっかりと検証するべきだが、それ以上に告発以後の知事の対応に大きな問題があり、責任を免れないと考える。(7.17追記)
2024年3月に「西播磨県民局長」(播磨=はりま=兵庫県南西部の旧国名)を務めていたW氏(本名も判明している)が、兵庫県の斎藤元彦知事の「パワハラ疑惑」などを告発する文書(「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」)をマスコミ、県議などに送付した。斎藤知事は告発を「嘘八百」と否定して、「業務時間中なのに嘘八百含めて文書を作って流す行為は、公務員としては失格。被害届や告訴などを含めて法的手段を進めている」と激しく反発した。W氏は3月末で定年退職だったが、「懲戒処分の可能性がある」として退職辞令が取り消された。そして5月になって「停職3か月」の懲戒処分が下された。
(内部告発を否定する斎藤知事)
細かいこと(疑惑の内容など)は書かないが、その後県議会で「百条委員会」(自治体の疑惑や不祥事があった際、事実関係を調査するため、地方自治法100条に基づいて地方議会が設置する特別委員会)が設置され、来週にはW氏も委員会に出席して証言することになっていた。しかし、それを前にW氏は7月7日に亡くなった。「自殺」とされる。(遺書もあると言われるが、現時点では公表されてない。)ところで、この問題をちょっと調べて驚いたのは、死者は1人ではなく2人だったのである。先の文書で「セ・パ優勝パレードにおけるキックバック強要」が告発されていた。その担当の総務課長が大阪府との調整などに悩み「ウツ」状態だと告発されていたが、その課長が4月に「自殺」していたというのである。
(斎藤知事は辞職せず)
兵庫県ではおよそ半世紀にわたって現職知事引退後に、副知事が出馬して当選してきた。2021年の知事選では、3期務めた現職の井戸敏三氏が引退を表明し、井戸氏は金沢副知事を後継に指名した。しかし、県政の刷新を求める声もあり自民党県議団は分裂し、斎藤元彦氏が自民党と維新の支持で立候補して、金沢氏らを破って当選した。斎藤元彦氏(1977~)は神戸市生まれで、地元小学校、愛媛県の中高一貫校を経て東大を卒業、総務省に入省した。総務官僚(旧自治省系)は全国各地に出向するが、Wikipediaを見ると斉藤氏は三重県、新潟県、福島県に出向している。直前は大阪府財務部財政課長だった。
コロナ禍の真っ最中で「従来の発想の県政を脱却するべき」という方向性はあると思うが、こうして「大阪維新」の薫陶を受けた総務官僚が若くして知事になったわけである。権力者のふるまいは「大阪に学んだ」との声もあるようだ。パワハラ問題の具体的状況は知らないが、いろいろと検索すると「県職員なら誰でも知っている」という証言が多い。副知事は「厳しい叱責」と表現しているが、命に関わるようなケース以外で厳しく叱責することを普通は「パワハラ」と受け取るんじゃないだろうか。
そもそも告発者が3月末で定年だと聞いた時点で、「告発は事実なんだろう」と僕は思った。今後もずっと生活のために辞めるわけにはいかない人は告発出来ない。もうすぐ退職する人間だから、最後に言うべきことを言わなければ無責任な終わり方になると思ったんだろう。ところが、退職自体が差し止められた。この退職差し止め自体がパワハラっぽい。多くの自治体に「定年延長」の仕組みはあると思う。しかし、それは「余人をもって代えがたい」場合の話で、「処分の可能性」で辞めさせないという措置はあり得るのか。普通は「退職金支給差し止め」はあっても、定年年齢になったら退職になるはずである。
(職員組合は知事の辞職を求めた)
この退職差し止めは大きな重圧になったと思う。そして5月に「停職3ヶ月」となるが、それが仮に妥当な処分内容だとしても、「懲戒免職」事案ではなかった。わざわざ定年を延ばした上で「停職」など全く無意味である。在職時に問題があれば、その分の退職金を削減すれば済む話で、退職させないなんて聞いたことがない。この問題の県調査に「第三者機関」は関わらず、逆に「県が調査の協力を依頼した弁護士が、告発文書で知事の政治資金に関連して指摘された県信用保証協会の顧問弁護士だった」という。
そこで県議会が「百条委員会」設置ということになったわけだが、自民党県議団は設置に賛成した。一方、維新と公明が反対したのである。維新や公明は普段は政治倫理に厳しいようなことを言っているが、やはり自分の支持する場合は違うのだ。それも大きな教訓である。そして、噂レベルだが、維新の県議は百条委員会で告発当事者の元県民局長を追求する構えを示していたという。3月末に副知事と県人事課長が突然県民局を訪れ、局長が使用していたパソコンを押収したという。局長にもまさかの油断があったのだろうが、どうも職場のパソコンで告発文書を作成していた。そしてパソコン内には個人的な情報も保存されていたらしい。
「自殺」の真相は不明だが、このような百条委員会で予想される「追求」が大きな心理的負担になっていたのではないか。片山副知事は上記画像で職員組合からの辞職要求文書を受け取った人だが、辞任の意向を表明した。知事に一緒に辞任するよう求めたが拒否されたという。しかし、県庁で一人ならず二人も死者が出ている事実は重く、このまま最高責任者が居座ることが出来るとはとても思えない。何にしても「上司にしたくない」人物が間違ってトップに立ってしまった場合、下の者はどうすれば良いのか。
僕は東京都の教員として、都教委(の都立中学教科書採択)に反対する運動をしてきた。従って、「身を守る」ためにはそれなりに気を付けていた。職場のパソコンで職務以外の文書を作ったり、有給休暇を申請せずに集会に参加するなど、避けなければならない。どこから難癖を付けられるか判らないからだ。裁判になれば、当局者はどこまでもウソをつき続ける。それを前提にして、不当な罠に陥れられないように「内部告発者」も注意が必要である。
*その後、W氏は音声データを遺していたことが判り、百条委員会に提出された。なお「死をもって抗議する」と言っていたという。「告発」内容の問題は今後しっかりと検証するべきだが、それ以上に告発以後の知事の対応に大きな問題があり、責任を免れないと考える。(7.17追記)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます