(この記事は記事投稿日を列車乗車日に合わせた過去ログ投稿です)
MAKIKYUが7月に訪中した際に乗車した列車の中で、数年前まで主流を占めていた客車列車(今でも運行本数や比率はかなりのものですが…)への乗車は2回だけ、それも客車列車の座席車への乗車はT5325次だけと言う有様でした。
その代わり2007年に運行を開始し、その後急速に勢力を拡大している高速動車・動車組列車(CRH)は幾度も利用し、これらの列車に乗車する事が、7月の訪中における最大の旅行目的になったと言っても過言ではないのですが、その第1弾として乗車したのが、瀋陽→北京間を運行するD12次・動車組列車です。
D12次はCRHの中でも、高速専用線のみを走る高速動車(G~次)よりは一つ格下の種別で、在来線を200km/h程度で走行、また高速専用線を250km/h程度で運行する動車組列車(D~次)の一派です。
動車組列車の運賃は、客車列車に比べると大幅に高く設定されていますが、高速動車に比べると割安に設定されており、主に在来線区間を走る動車組列車の中には、1等座(グリーン車相当)と2等座(普通車相当:設備的には客車列車の軟座並みかそれ以上を誇ります)の価格差がさほど大きくない列車も多数存在します。
D12次をはじめとする北京~瀋陽・瀋陽北間を走る動車組列車も、1等座と2等座の価格差が比較的小さい列車の一つで、同区間での2等座は207元・日本円に相当すると約3000円程度になります。
現地の物価を考案すると、決して安い運賃設定とは言い難く、空調車が充当される同区間の快速列車寝台(客車列車・硬臥)よりも高い運賃設定ですが、それでも運行距離約700kmで200元強の運賃設定は、日本の馬鹿高い物価に慣れたMAKIKYUにとっては、激安運賃に感じます。
(瀋陽では市内公交汽車(路線バス)の運賃は、大半が非空調車ながらも1元均一、このバスの車中から目撃した食堂の招聘(求人)告知では、月給が概ね1500~1700元程度となっていました)
またこの列車の1等座は、2等座よりも41元高い248元に設定されており、この価格差も中国の物価としては決して無視できないレベルですが、日本円に換算すると、新幹線や特急列車の普通車自由席と指定席の価格差(指定席料金)程度となります。
そのためMAKIKYUは1等座が確保できるのであれば、この程度の価格差なら…と思い、第1希望をD12次の1等座にして、乗車前日に瀋陽站の乗車券売場に出向いて購入に挑むと、あっさりと第1希望の乗車券が入手でき、そこそこの本数が確保されている北京~瀋陽間であれば、乗車券の確保も比較的容易な印象を受けたものでした。
(ただ乗車当日の直前ともなれば、さすがに満席となっている確率も高いかと思いますし、北京~東北方面も瀋陽以北の長春やハルピンと
なると、現段階では列車本数も限られて確保も厄介、D12次乗車後に北京站の乗車券売場で見た残席案内でも、数日先まで満席御礼の表示が出ている状況でした)
瀋陽では一応動車組列車が発着しているとはいえ、まだ自動改札機を稼動させていない事もあってか、動車組列車の乗車券にも関わらず、自動改札機には対応していないピンク色の乗車券で発券されたものでした。
MAKIKYUが7月に訪中した際、このタイプの乗車券が発券されたのは、大連站と瀋陽站の瀋陽局管内のみ、現在徐々に自動改札機対応の新タイプ(青緑色)に切り替わっていますので、パスポート番号が入力(外国人の場合)される実名制乗車券で、動車組列車のピンク色地紋乗車券を手にする機会は、今後もあるのだろうか…と感じたものでした。
D12次乗車券を入手した後は、瀋陽市内の地鉄や市内公交汽車などを視察し、夜には瀋陽站近くのホテルに投宿して翌日の乗車に備えますが、北京・天津~瀋陽間を結ぶ動車組列車は、列車によって瀋陽站を発着する列車と、瀋陽北站を発着する列車に分かれ、両站間の移動は地鉄乗り継ぎや公交汽車(直通便あり)で30分程度を要します。
動車組列車の発着は、現段階では大半の列車が瀋陽北站となっており、特に瀋陽以北の長春方面へ直通する動車組列車は全て瀋陽北站発着ですが、運行本数が上下で異なっています。
特に瀋陽~北京経由~太原間を運行する列車は、太原行は瀋陽北站発なのに対し、太原発の列車は瀋陽站行となっていますので、乗車站間違いに要注意です。
ちなみにMAKIKYUが乗車するD12次は、瀋陽~北京間を運行する動車組列車の中では、少数派の瀋陽站発着で、瀋陽站舎は満鉄時代に建造され、東京駅によく似た風貌でも知られていますので、瀋陽を訪問する機会があれば、同站発着の列車を利用する機会がないとしても、是非一度はその姿を見ておきたいものです。
そして乗車当日、駅近くのホテルをチェックアウトして瀋陽站に向かうと、瀋陽站は候車室も仮設の様な雰囲気、そして検票(改札)を済ませて站構内に入ると、構内の至る所が工事現場の如く…と言う有様です。
站構内では無駄に遠回りを強いられ、階段を上がって降りての繰り返し、列車に乗るだけでも少々疲れる状況で、これでは幾ら早くて快適な列車を走らせても…という感があり、乗車券購入の厄介さとあわせ、中国鉄路の旅客への配慮はまだまだと感じざるを得ない気がします。
そしてようやくD12次列車が待機する一番端のホームに到着すると、8両編成の車両を2編成併結した16両編成の車両が待機し、乗車扱い中でしたので、一旦列車の最後尾へ出向いて記念撮影した後、指定された号車へと向かいますが、指定された車両は中ほどの9号車、8~9号車の間は通り抜けが出来ない状況です。
充当車両はCRH5、イタリアの高速列車「ペンドリーノ」ベースのアルストーム製高速車両を、中国内で技術移転によって製造した車両で、CRHシリーズでは唯一酷寒地対応となっている車両という事もあってか、現在東北3省(遼寧省・吉林省・黒龍江省)方面で運行している動車組列車は、基本的にこのタイプのみとなっています。
ペンドリーノは元々車体傾斜を装備し、曲線の多い線区などの運行に対応させた車両という事もあってか、車体断面はやや傾斜していますが、車体傾斜機能を省いた中国仕様では、車内空間を狭めるだけでメリットはなく、設計共通化の弊害と感じます。
車幅を拡張したCRH5ではさほど狭さを感じませんが、本家イタリアのペンドリーノは、多少圧迫感を感じるという評もある様です。
また車高が高い割には、窓の上下サイズが小さくなっており、窓下に細い青帯が入る以外は真っ白な装いですので、見た目は少々不恰好な印象があります。
車内に足を踏み入れると、JR九州で活躍するこだわりのデザイナーが手がけた一般型ワンマン電車の如く、注意喚起を兼ねて黄色1色に塗られた客扉が目を引きます。
客室に足を踏み入れると、乗車した車両は回転式リクライニングシートを装備しており、CRH全体ではこのタイプが主流派になっていますが、CRH5の中にはヨーロッパ式の一方向固定座席(座席回転不可)を装備した車両も結構な比率で存在している様で、逆向き座席が嫌いなMAKIKYUとしては、回転式リクライニングシートの方に当って良かった…と感じたものです。
指定座席に辿りつくと、列車は程なく瀋陽站を出発して北京へ向かいますが、瀋陽站を出発した直後はノロノロ運転で、瀋陽站~瀋陽北站間の路線と、瀋陽北~山海関方面高速線(客車列車などの在来列車と動車組列車が混用:最高速度200km/h)の間を短略する線路と思われる単線区間も走るなど、高速列車らしからぬ雰囲気です。
瀋陽北站方面からの複線と合流すると、列車は速度を上げ始め、瀋陽の市街地を抜けると、荒涼とした中国北部の典型と言った車窓が延々と続きます。
自席を離れ、車内の様子を視察に出向くと、9~16号車の8両中で1等座は、MAKIKYUが乗車した9号車と、最後尾の16号車の車端2両、他は2等座になっています。
座席は日本の新幹線と同様に、1等座が2+2列、2等座が2+3列となっており、個人的には2等座で瀋陽~北京間を乗り通しても、設備的には客車の軟座以上の水準に達しており、充分許容範囲という印象を受けたものです。
一部の車両には、通路が片隅に寄っており、ガラスの様な仕切りで仕切られた向かい合わせのセミコンパートメントと言った印象を受ける区画や、8両と言うさほど長くない編成ながらも、車両半室程度のブッフェが設けられているのも特徴です。
車内を視察した後は自席に戻り、東北地方の車窓とCRH5の乗り心地を堪能しますが、CRH5の1等座席は横幅こそそれなりに確保されており、座席の座り心地も決して悪くないものの、前後間隔やリクライニング角度は日本の新幹線や在来線特急の普通車レベルという印象です。
設備的にはグリーン車と言うよりは、山陽・九州新幹線直通用N700系や、山陽新幹線700系「ひかりレールスター」の普通車指定席区画(2+2列)に近い印象があり、2等座との運賃格差もさほど大きくありませんので、日本のグリーン車レベルを期待すると、少々ガッカリかもしれませんが、過大な期待を抱かず、2等座よりやや高級な空間と捉えて乗車すれば、決して悪い車両ではない気がします。
そして昼食時に差し掛かると、MAKIKYUは一応軽食類を持参して乗車した事もあってか、特に車内で販売している飲食物は購入しなかったものの、服務員が車内を巡回し、弁当の注文受付に回りますので、食料を持参せずに乗車しても空腹に耐えて…という心配はなく、また車内に給湯器の設備もありますので、方便面(カップラーメン)を持参して食べる事も出来ます。
MAKIKYUの隣に腰掛けていたビジネスマン風の乗客も、車内販売の弁当を注文していましたが、この弁当は食堂車で調製した弁当をワゴンなどで販売する客車列車とは異なり、レトルト食品を電子レンジで加熱したものとなっており、MAKIKYUが目撃した限りでは、この列車では25元と40元の2種類が存在している様でした。
街中の安食堂や露天の弁当販売を利用すれば、昼食は10元程度で済ませる事も可能な状況では、かなり強気で割高な価格設定と言う印象があり、ある程度所得水準の高い乗客が集まっている事を見越した雰囲気ですが、MAKIKYUの隣に腰掛けていた乗客以外にも、この弁当を買い求めている乗客の姿を散見し、そこそこ繁盛している様な印象を受けたものです。
ちなみにMAKIKYUが乗車したD12次は、瀋陽~北京間で途中、葫芦島北(Huludao-bei)と唐山北(Tangshan-bei)の2站に停車し、他列車も同区間で1~6站程度を千鳥停車する事で、北京や瀋陽と途中站間の利便を図っているものの、途中各駅に停車する新幹線「こだま」号の様な列車設定はなく、途中駅間での利用は余り想定していない様な印象があります。
多数の乗客が昼食を済ませた頃には、2つ目の停車駅・唐山北站に到着しますが、同駅はCRH停車駅にしては珍しく、ホームが低床となっているのが大きな特徴です。
(CRHシリーズの動車組各種は主に高床ホームに発着、特に高速専用線の各駅は、日本の新幹線の如く全て高床ホームとなっており、それ以外の停車駅もCRH停車駅の大半は高床ホームになっています)
車両も新幹線E2系ベースのCRH2などは、ベース車と同様に高床ホームでの乗降しか想定していない構造になっていますが、CRH5だけは客車と同様に乗降扉付近にステップを装備し、ステップを塞ぐ昇降式のフタ(?)が設けられ、低床ホームでの乗降に対応しているのも大きな特徴です。
そして低床ホームの唐山北站を発車すると、1時間程で北京の市街地に差し掛かり、程なく終点の北京站に到着、7月の訪中では初の動車組列車乗車となったCRH5・D12次の5時間弱の旅も終わりを迎え、MAKIKYUが乗車したCRH5は折り返し吉林行として、1時間も経たずに東北へ折り返し運行となります。
延々と乗り続ける事が当り前、そして終着地に着いてからの折り返し整備にも結構な時間を要する事が多い客車列車とは大きく異なる運行形態は、著しい発展を遂げる激動の中国を象徴している様にも感じられ、北京~瀋陽間約700kmを5時間弱で結ぶ動車組列車が頻繁に運行される現状も、数年前に特快(客車列車)の硬座で両都市間を移動した事もある身としては、画期的に感じたものでした。
(現在北京南~上海虹橋間約1400kmを、約5時間で結ぶ高速動車が頻発している事を考えると、瀋陽へのアクセスはまだ不便と言わざるを得ないのかもしれませんが…)
また主に東北方面で運用されるCRH5も、運行開始当初に初期故障が頻発するなど、余り良い評判を聞いておらず、デザイン的にも新幹線(CRH2)やICE(CRH3)などに比べると…という印象がありましたので、余り期待していなかったのですが、同じアルストームが絡み、狭い車内空間や、方向転換・回転不能の座席などで不評を買っている韓国の高速列車・KTX(TGVベースの動力集中方式車両)などに比べると、はるかに良好な居住性を誇る車両と感じたものでした。
酷寒地対応だけでなく、CRHシリーズの動車組で唯一低床ホームにも対応するなど、CRH5は意外と有用な車両と感じ、東アジアの島国・日本に住むMAKIKYUとしては、遥か遠くのイタリア(列車と船を乗り継いで行くと、一体何日かかるのやら…)まではるばる足を運ばなくても、その気になれば鉄路や海路の乗り継ぎでもさほど苦労せず、足を運べる中国でペンドリーノに乗車できるという点でも、注目の車両と感じたものです。
CRH5は高速動車としての活躍こそありませんが、その気になればベース車のイタリア・ペンドリーノの如く車体傾斜装置を装備させ、山岳線区におけるスピードアップなどにも活用できる車両かと思いますし、CRH2→CRH380AやCRH3→CRH380Bの如く、今後CRH5にも進化系車両が登場するのか否かも気になる所です。