まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

「汽車旅放浪記」

2009年07月03日 | ブログ

タイトルからして「どこかに行きたい」とそそられるものがある。

『汽車旅放浪記』関川夏央著、新潮文庫版。

関川夏央といえば近代から現代を取り上げたルポのイメージがあり、私が気に入っている作品には『海峡を越えたホームラン』というもの。これは、発足したばかりの韓国プロ野球に自らの夢を託した日本のプロ野球選手たち(その実は、在日韓国人選手)の姿を追いかけることで、日韓の比較文化、あるいはその狭間で揺れ動く在日韓国人の心理を描いたもので、韓国プロ野球の初期の様子もうかがえる深い一冊である。

51rvai6j4xlさて『汽車旅放浪記』に目を向けると、まずこの著者が汽車旅好きであるという事実から始まる。新潟出身の著者が子どものころに母親とともに上越線の上り列車に乗り、「トンネルの向こうは雪国だった」とは逆の「異界」体験に驚いたというもの。その比較で出た川端康成の『雪国』を初めとして書き進められる。

文学の中ではしばしば鉄道が取り上げられる。先の『雪国』をはじめ、松本清張の『点と線』、林芙美子の『放浪記』、太宰治の『津軽』、夏目漱石の『坊っちゃん』『三四郎』、そして内田百閒の『阿房列車』など。『阿房列車』はさておき、鉄道が旅の最速の手段であったこと、人々の出会いや別れの場面、一期一会の世界を描き出すのに格好の舞台であったことが挙げられるだろう。

中でも、この一冊の特徴というのか、「鉄道に乗ること」をテーマとした作品を数多く残した宮脇俊三に多くの部分を割いている。やはり、鉄道を通した情景の描写や人間観察、日本史の一面というのが著者の気になるところであったと思われる。

テーマは、それらの作品となった日本の各地を、実際に列車を乗り継いで回り、作品の当時の情景や人間模様を現在のそれと比較するという試みである。単なる乗車記や歴史スポットの散策にとどまらないところがよく、その一方で著者の鉄道好きの一面がところどころにちりばめられている。文化に関するルポライターらしい観点というのかな。

こういう「フィールドワーク」的な旅行、汽車旅というのは私も憧れるところで、「○○へ行ってきました。ビールがおいしかったです。面白かったです。また行きたいです」という作文からどうしても抜けられない者(私のことです)としてはうなるところが多い。

Dscn0399まあ文章の練習はさておき、読む中で気になったのが、夏目漱石の作品群。『三四郎』、『それから』、『門』といったあたり。これらは当時の「現代社会」を描いた作品として知られているのだが、恥ずかしながらまだ読んだことがない。どこかで手にするとしようか。長い鈍行列車の旅のお供には、こうした文学作品をバッグにしのばせるのも乙かもしれない・・・・な。

コメント