まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

名松線に乗る

2016年05月05日 | 旅行記D・東海北陸
5月1日、ホテルでの朝食を済ませて名松線に乗車する。朝の松阪駅は雲もほとんどない晴天で、これからが楽しみである。雨なら雨で風情を感じるところだが、やはり出かけた時は晴れていたほうがうれしい。

日曜日の朝ということで駅にいる人もそれほどではないが、早くにホームに出る。名松線の松阪からの始発は7時32分とのんびりしたものである。この列車は途中の家城行きで、家城で終点の伊勢奥津行きに接続している。そのまま折り返してもいいのだが、せっかくなのでどこかで途中下車するとかしてみたい。帰りの近鉄特急の時間もあるが、折り返し列車から2本までは落とせるようにしている。

待つ間、ホームには参宮線の伊勢市行きが到着する。その姿を見てありゃりゃと思う。JR東海型の気動車・キハ25だが、東海道線などを走る電車を含めて、外観がどれも同じ、無個性・無表情に見えるあのタイプである。そして中を見るとオールロングシート。今年3月のダイヤ改正でJR東海から国鉄型の気動車は全て引退したのだが、次に来たのがこの車両とは、地元の人たちもびっくりだろう。まあ、きれいな都会風の「電車」はある意味サービス向上と言えるが、ただこれが紀勢線や高山線の長距離列車として使われているのかと思うと、今後青春18きっぷなどで鈍行の旅をするのもしんどいなと思う。下手したら、新宮から西の区間と合わせて紀伊半島一周も大半がロングシート車両での移動となるわけで・・・。

さて名松線、家城からの列車がやってきた。こちらはJR東海型でもキハ11の第二次タイプ。これはボックス席とロングシートが並ぶ車両。意外にも2両での運転である。運転再開後、連日多くの乗客が利用しているということもあるのかな。発車時にはボックスに1~2人が埋まるくらいの乗車率だったが、私と同じように「乗りに来た」様子の人が多い。

並走する近鉄、紀勢線と分かれ、平野を行く。周りではちょうど田植えの時季。水を張った田んぼに周りの景色が映し出される。一志に到着すると部活動の高校生の他にハイキング姿の人も見え、2両の座席も8割ほどが埋まる。この旅の初めの記事でも書いたが、一志は近鉄の川合高岡駅からすぐの場所にあり、近鉄の始発の特急に乗れば大阪からでもこの列車に乗ることができる。高校生が多いのも家城にある白山高校の生徒たちで、普段もこの時間は通学でで利用しているのだろう。だとすると、やはり2両はいるか。

一志から雲出川が近づいてきて、周囲も少しずつ森が増えてきた。遠くに風力発電の風車が回るのを見ることもできる。

8時11分、家城に到着。高校生はここで下車し、乗り鉄やハイキング客は反対側のホームに移る。そこで目にしたものは・・・先ほど松阪駅で見た伊勢市行きと同じキハ25。まさかこんなところで初めてこの車両に乗ることになるとは思わなかった。でも新しい車両だし、開放的な感じで路線のイメージもがらっと変わるのではないだろうか。

鉄道の旅ではロングシートは否定されがちだが、名松線は全線でも1時間半ほどの行程なのでまだ耐えられる。空いていれば座るだけで反対側の窓に映る景色を広く見ることもできる。20人ほどが乗車して出発する。ここからが3月に運転再開となった区間である。

気動車は急ぐわけでもなく、運転再開区間を慎重な感じで走る。雲出川もずっと寄り添うようになり、ちょっとした渓谷美も広がる。また山の斜面、川沿いに広がるのは茶畑。伊勢茶の中でも美杉茶として知られている。5月はちょうど茶の収穫時期で、車窓も鮮やかな緑で彩られている。

こうした車窓が続くと、乗客たちも立ち上がって窓に貼りつくようになる。こうしたことができるのもロングシートならではだろう。

名松線の中でも「秘境駅」として位置づけられている伊勢鎌倉を過ぎ、伊勢八知が近づくと周囲には廃墟のような建物。ウォータースライダーのあるプールと、少し離れてホテルがある。この辺りは美杉リゾートというのがあり、確か「魚九」だったかな、大阪でも広告を見たことがある。ただ後で見たところでは「魚九」は倒産、ホテルも閉鎖となっていた。それでも「美杉リゾート」の名前はあり、名松線の反対側のホテルは日帰り入浴も含めて営業はしているようで、今回途中下車して入浴というのも考えていた。ただ、こうした景色を見ると途中下車の気持ちが削がれる。

ここから先が、2009年10月の台風で大きな被害を受けた区間である。途中には今でも倒木の跡が残るし、法面を補修した跡も見られる。路盤も一部新しいものに造りかえられている。台風被害の後で、JR東海は今後も同様の被害が発生する恐れがあるとして廃止~バス転換の方針を打ち出したが、地元の運動もあって存続させることとなった。ただし復旧には雲出川の治水対策も必須であるとして、JR東海が4.6億円負担したのに加えて、三重県と津市とがそれぞれ5億円を負担したという。このそれぞれ5億円の費用を高いと見るか安いと見るかは人それぞれだろう。この区間を走る列車は1日7.5往復。

小さな集落が開けて終点の伊勢奥津に到着。到着した列車にはテレビカメラが向けられ、改札口では地元の人たちがパンフレットとクリアファイルを配っていた。折り返しならおよそ30分後に出るが、さてどうしようか。

駅前にはマイクロバスが2台停まっている。地元の人が呼びかけているのが、駅からおよそ5キロほど離れたところにある北畠神社まで往復する臨時の無料バスという。この連休期間中の運転だそうで、名松線の列車の発着に合わせたダイヤとなっている。名松線はこれまで2回乗車したことがあるが、いずれも折り返しの列車ですぐに伊勢奥津を後にしていた。今回は折り返しを含めると2本列車を落としながら松阪に戻ればいいので、せっかくなら行ったことのないところ、という以前にそういう場所があることも初めて聞いたところに行くのも面白いだろう。ここまで名松線に乗ってきた20人ほどの乗客の半数はそのまま折り返し列車に乗り、後はレンタサイクルを利用する人もいたが、残った数人がバスに乗り込む。数人で2台というのもぜいたくだと思うが、バスは走りだし、峠をトンネルで越えて北畠神社のある多気(たげ)という集落に向かう・・・。
コメント