弥山の山頂から下山する。来た道と同じ大聖院ルートを戻ることもできるが、弘法大師ゆかりの弥山本堂へは続いていないので、ロープウェー乗り場がある獅子岩方面に向かう。帰りは素直にロープウェーとゴンドラを乗り継いで下りることにする。
こちらも巨岩がそそり立つ一帯で、くぐり岩という、ちょうど大人の背の高さ分のスペースをくぐるところがある。またその奥には岩の下がちょうど祠になる不動岩があり、不動明王像が祀られている。こうしたところがよく自然のまま残されているなと思う。
下りの坂道や石段が続く。文殊堂、観音堂という小さなお堂の前を過ぎる。こちらのほうが山頂へのメインルートということで多くの人とすれ違うが、一様にしんどそうな顔をしている。「もう限界」「(山頂まで)まだあるん?」というやり取りも聞こえる。山頂への紅葉谷ルートの登山道も、大聖院ルートと同じく所要時間は1時間半~2時間と案内されているが、この辺りも含めての時間ということだろう。麓から歩いて上って来たならば最後の我慢のしどころと言えるが、くぐり岩や不動岩は、こちらから来たほうが出会った時の感動は大きいのではと思う。
三鬼権現堂を経て、すぐ下にある弥山本堂の広場に出る。わずかな人の姿しか見なかった大聖院ルートと比べて、ここは弥山のパワースポットとして多くの人が手を合わせたり、腰を下ろして休憩している。中にはここが山頂だと思い、まだ10~15分は上らなければならないと聞いて悲鳴をあげる人もいたが・・。
唐から帰国した弘法大師空海が修行の地として宮島を訪ね、弥山にこもって百日間の虚空蔵菩薩の求聞持法の修行を行ったとされる。山の上から海を見渡すというのは、四国の室戸岬や足摺岬にも似た修行にふさわしい場を感じたのかもしれない。また一方では、古くから山頂付近の巨石群を磐座として信仰の対象とする山岳信仰や修験道の舞台でもある。そうしたものがいろいろ合わさったものが厳島神社であり、その別当寺である大聖院であるとも言える。
ここでお勤めとして、信仰の島としての宮島霊場めぐりに一区切りである。
本堂の向かいにある黒ずんだ建物が霊火堂である。弘法大師が弥山で修行した時に焚かれた護摩の火が1200年以上消えることなく燃え続けているという。比叡山の「不滅の法灯」は油で燃えているが、こちらは囲炉裏の火だから薪や炭で燃えている。消えることなくというが、消防法的に大丈夫なのかなといらぬ心配をしてしまう。寝ずの番もいるのだろうか。なお、この火は広島の平和公園の原爆慰霊碑にも分けられている。今回の観音霊場めぐりは平和を願う広島という要素が強い。
消えずの火の上に茶釜がかかっていて、この茶釜で沸かされた霊水は万病に効くという。ひしゃくで紙コップに注いでありがたくいただく。
ここからアップダウンとなり、紅葉谷公園に下りる登山道ルートの分岐を過ぎて、最後は緩やかな上りとなる。獅子岩のロープウェー乗り場に到着する。ここの傘立てに杖が何本かあったので、使ってきた杖を返す。
こちらも展望スポットになっており、1キロほど先にある山頂も見ることができる。また山頂とはまた違った角度での瀬戸内海の景色も楽しめる。山頂まで行くことにこだわらなければ、ここまではゴンドラとロープウェーの乗り継ぎだから登山道を歩くこともなく、より手軽に「日本三景の一の真価」の景色を味わうことができる。まあつまりは、宮島に来たら厳島神社だけで折り返すのはもったいなく、弥山に少しでも足を踏み入れることで幅が広がるということで。
ロープウェーは通常15分ごとの運行だが、この日は客も多かったので臨時便が随時出ている。まずは獅子岩から榧谷まで約10分の空中散歩である。
続いては紅葉谷へのゴンドラだが、「循環式ロープウェー」という方式である。定員8人のゴンドラが一定の間隔で次々にやって来て、係の人が何人かずつに振り分けて客を乗せていく。総延長が1100メートルと長い区間で、通常のロープウェーなら始点と終点で同時にスタートして交互に往復となるため、運転間隔が結構空いてしまう。しかし循環式だとゴンドラが常に動いているため、長い距離の輸送でも輸送力を一定に保つことができるという利点があるそうだ。私の乗ったゴンドラは5人で出発したが、紅葉谷から上って来てすれ違うゴンドラを見ると、8人いっぱいのものもあれば、2人だったり無人だったりとバラバラである。
無事に下山して、厳島神社の裏手を通って桟橋に向かう。途中の料理店の店頭で焼きかきとかきポン酢のスタンドが出ていて、かき祭りの会場はすぐそこだが、それでも待てないとばかりにまずはここでかきポン酢を一皿いただく。
この後で厳島神社の参拝入口の前を通るが、参拝前に行列ができていて、さらにツアー団体が加わるところだった。やはり朝のうちにお参りしておいてよかった。
桟橋に着くとかき祭りの最中で、それぞれのテントには長蛇の列ができている。これから広島の冬の味覚を楽しむことに・・・。