元興寺からならまちを過ぎて、町並みを見下ろす形の新薬師寺に着く。手前にある奈良市写真美術館の建物が立派で、その裏にひっそりと建つ形の寺である。
山門といっても小ぶりなものがちょこっとあるくらい。以前は受付だった小屋もあるが、受付は本堂へとある。門に柵があるのは鹿の侵入を防ぐためという。この辺りにも鹿はやって来るのかな。
境内に入る。正面に本堂があるが、これまでの寺のように正面から拝むようではなく、あっさりしたものである。また境内には小ぶりなお堂や石仏もあるが、何か特筆すべきものがあるわけでもない。新薬師寺はあっさりと通り過ぎる形になるのかな。
拝観、納経は本堂の左手の扉から入る。ここで拝観料と朱印代を納めて、中に入る。朱印が順番待ちなので先に受付をして、後で受け取る方式だ。
中に入って、アッと驚いた。まずは正面に安置される薬師如来に手を合わせるのだが、その阿弥陀如来を囲むように十二神将が立ち、外部ににらみを利かせている。
薬師如来、日光・月光菩薩、そして十二神将は「チーム薬師」を形成しているのだが、多くの寺院では十二神将も薬師如来の両側で正面を向いて安置されているところ、ここでは円状に、それぞれの方角を向いている。
いつからこういう配置にしているのだろうか。初めて見る構図で、薬師如来よりもむしろ十二神将たちにスポットライトが集まっているようである。
新薬師寺が建てられたのは奈良時代。大仏建立を発願した聖武天皇が病気になり、その平癒を願って薬師悔過(けか)が行われ、薬師如来像が造られた。この薬師悔過とは、身を清めて薬師如来の前で罪を懺悔し、心の穢れを取り除くことで福を招く行いである。これにともなって光明皇后が建てたのが香山薬師寺で、後に新薬師寺となった。
創建当初は巨大な伽藍を持ち、先ほど通った奈良教育大学の敷地からも当初の跡地が見つかるほどだったが、平安以降、落雷や台風、そして南都焼き討ちでその規模も縮小された。その中で唯一、奈良時代から生き残った建物が現在の本堂である。当初は修行を行う建物だったと言われている。そこに平安時代の作とされる薬師如来、それを囲むのは当初別の寺にあったとされるが、制作は奈良時代までさかのぼる十二神将である(当然内部は撮影禁止なので、お堂の外にあった絵はがきの見本にて)。
この豊かな表情、肉付き、1300年前にこれだけのものが造られるのも驚きだが、これを造った人たちについての史料は残されていないという。
十二神将は塑像で、現在は粘土の色そのものだが、ところどころに塗色の跡が残っている。創建当初の十二神将がどのような色だったのか、かすかな痕跡を元に分析して、CGで復元したプロジェクトが行われた。その過程を収録した番組の映像を外の庫裡で流しているというので、朱印をいただいた後で見に行った。十二神将の中でもっとも有名な伐折羅大将をモデルとして、さまざまな色合いの模様が施された武具、青い顔に紅い髪を逆立てた表情は活き活きしている。当時は異国の最先端のトレンドとして崇められたことだろう。
ただ、時代の流れによっていつしか色が落ちる。それでも薬師如来を、あるいは世の人たちを護るのだ・・・と自らが盾になって仁王立ち(仁王ではないが)するかのような十二神将。奈良時代にもサムライがいたのか、と一瞬心おどる。
この日(11月8日)、西国四十九薬師めぐりということで4ヶ所回り、それぞれの寺に歴史、見どころ、さまざまあったが、こと本来の薬師如来、十二神将の「チーム薬師」という点でいえば、興福寺の東金堂を抑えて新薬師寺がもっとも見ごたえがあったように思う。
そして、次の札所グループを決めるくじ引きとサイコロである。今回から新たなグループ分けをしたが、その結果は・・
1.高野山(龍泉院、高室院+西国3番粉河寺)
2.南紀(神宮寺+西国1番青岸渡寺)
3.但馬(大乗寺、温泉寺)
4.京都(法界寺、醍醐寺+西国10番三室戸寺、西国11番醍醐寺、西国19番革堂)
5.阪神(久安寺、昆陽寺)
6.亀岡(神蔵寺+西国21番穴太寺)
・・・いきなり、南紀(紀伊半島一周)や但馬(香住、城崎)といったところが出た。まあ、この二つなら年末年始の大阪帰省と絡めることができるかな。ただ、いずれも人気の観光地で、宿が取れるかどうかだが・・。
そして出たのは「6」、亀岡か・・。広島から往復新幹線なら日帰りで行けないこともない。また今回のように大阪、あるいは京都まで夜行バスで出て、朝から亀岡に移動するのもあり。年末年始の帰省に絡めるかどうするか。ただ、初めてとなる神蔵寺は公共交通機関では地元のコミュニティバスを絡める必要があり、ダイヤをどう組むか。
思ったよりも早くに予定が終わったのでこれからどうするか。もうしばらく奈良にいて他の寺社仏閣を訪ねるのもいいが、ここは帰りの新幹線も含めて予定を前倒しして、翌日からまた仕事なので早めに帰ることにしよう。ただその前に、大阪でちょっと昼食代わりのことができるかなと思う。それを楽しみに近鉄奈良駅まで歩く・・・。