大山の北側の麓へと一気に下る。この日(4月22日)に宿泊するのは琴浦町で、山陰線の浦安駅近くである。この辺りまで来れば宿泊施設の多い倉吉に泊まればよさそうなものだが、倉吉には以前も宿泊しているし、日本海に近いところということで琴浦での宿泊としている。
国道9号線に出る。ちょうど「鳴り石の浜」が近く、立ち寄ることにした。「鳴り砂(鳴き砂)」というのは他で見たことがあるが、石が鳴るというのも珍しいところだろう。少し前にテレビで紹介されていたのを見て、近くを通るなら行ってみようということで。
海岸には楕円形の石が無数に転がっている。各地で護岸工事が進む中、数少ない自然のままの礫石の海岸である。波が打ち寄せるたびに石どうしがぶつかってコロコロと音を立てる。地元では、この「よく鳴る」を「良くなる」として、縁起のよいパワースポットとしてPRしている。石に水性マジックで願いごとを書いて海に投げ入れ、その石が波の動きに合わせて鳴れば叶うという仕掛けもある。
風は強いが海が荒れているということもなく、波もほどよい高さのようである。そして波が寄せ、引く時にカラコロと音がする。これらの石は大山の火山活動でできた花崗岩質だが、ここまで丸くなるまでにどのくらいの年月がかかったことだろうか。しばらく音に耳を傾ける。
また、先ほどの賽の河原ではないが、これらの楕円形の石があちこちに積まれている。丸くて滑らかな石をいかに積み上げるかのテクニックを競っているかのようで、初級、中級、上級のサンプルのパネルもかかげられている。上級など、物理的に可能なのかと思わせるほどだ。
この「鳴り石の浜」がパワースポットとして知られるようになるには、地元の人たちの地道な活動によるところも大きいそうだ。ボランティアで清掃活動をしたり、海岸にひまわり畑を作るなどして美しい景観を維持しているそうだ。
そのまま国道9号線を東に向かい、浦安駅近くの交差点で駅とは反対の海側に折れる。着いたのは「サンジャインとうはく」。3階建ての小ぢんまりしたホテルだが、玄関前には結構な数のクルマが停まっている。
通されたのは3階の部屋。窓の向こう、50メートルほど先、いくつかの建物と墓地のはもうは海岸である。部屋の窓が二重になっている。防寒対策もあるのだろうが、ずっと波の音が響いており、防音の役目を果たしているようだ。
その海べりに行ってみる。防波堤はあるが、その向こうは先ほどの「鳴り石の浜」と同じように花崗岩質の丸い礫石が無数に転がっている。波打ち際に近づくとこちらでもコロコロという音がする。「鳴り石の浜」は何も1ヶ所だけではないようだ。
ただ、先ほどの海岸と違うのは、海岸がありのままの姿をしているところだ。ありのままとはオブラートに包んだ言い方のようだが、要は海からの流木、ゴミなどが流れ着くままに海岸に打ち上げられているのだ。漂着物の中にはこうしたハングルや簡体字のものもあり、環境面ではあまりよろしくない事象だが、こういうのを見ると日本海に来たと実感するところでもある。南の海から伊良湖岬にたどり着いた椰子の実なら歌にもなるが、日本海を漂流して山陰にたどり着いたペットボトルとは・・。
もっとも、ビン・缶・ペットボトルくらいならかわいいものだが、ハングルが書かれた浮き輪がある小舟については、どう説明すればいいだろうか。まさか北の国からの流れ者・・・?
確かにいろんなものが打ち上げられてはいるが、波の景色というのは見ていて飽きない。冬の荒れた天候でもなく、よい時季に来たなと思う。
さて夕方の一献だが、事前の情報ではこの辺りでふらっと一見で入れそうな店はなかなかないようで(ホテルにはイタリア料理店が併設されているし、現地に来てみるとすぐ裏の海べりに個人経営の居酒屋もあったのだが)、最初から部屋でのんびりするつもりで、近くのディスカウントスーパー「トライアル」で飲食物をいろいろ購入した。海べりということで、刺身の盛り合わせや総菜、にぎり寿司もしっかり揃っていた。
鳥取名物の牛骨ラーメンはカップ麺で済ませよう(結局この夜はいただかず、そのまま自宅に持ち帰ったが)。
図らずも、部屋から海を眺めながらの一献となった。多少風が入るのは我慢して、二重窓を両党とも開けてみる。こうしたひと時を楽しめただけでも、このホテルを選んで正解だと思った(部屋が反対側だったら残念だっただろうが・・)。
夕方からテレビをつけており、ローカル番組も流れる。山陰といえばテレビの民放は3局でテレビ朝日系列はないのだが、こちらのホテルではケーブルテレビに加入しているようで、テレビ朝日系列の瀬戸内海放送、さらにテレビ東京系列のテレビせとうちも映る(ただし、設備がないためBSは映らず)。これで全国5局をカバーしているのだが、それぞれの本局の所在地が日本海テレビ(鳥取)、山陰放送(米子)、さんいん中央テレビ(松江)、瀬戸内海放送(高松)、テレビせとうち(岡山)とバラバラなのが面白い。かえって、広島よりも幅広いネットワークではないかと思う。山陰にいながら瀬戸内、四国の情報も得られるわけだ。
先ほどは海べりでの一献を楽しんだが、その一方、夜になると人通りもほとんどなく、街灯もほとんどない。そのため、夜中に窓の外を見て、あえて部屋の照明を消して目を凝らしていると、満天とはいかないがいくつもの星を見ることができる。さすがは「星取県」である。
ここも札所めぐりだからこそ訪ねることができたとして、翌日のコースも楽しみに眠ることにする。ちなみに、翌朝の琴浦町の日の出時刻は5時24分頃とある。せっかくなので見に行くとしようか・・・。