大川支線から本線筋に戻り、浅野駅に下車。ここは本線筋と海芝浦行きの支線が分かれる駅だが、鶴見方面からの線路が駅に入る前に分かれており、海芝浦行きの線路が右にカーブしているため、中央に三味線のバチのような広いホームがある。ここに駅舎があり、ちょっとした花壇などもある。その花壇の中で、安藤栄作氏によるオブジェを見ることができる。
人間の形やら、らせん状の棒のようなものやらをかたどった木の彫刻が並べられている。魂とか、生命の喚起というものをテーマにしているという。海芝浦行きの列車まで30分近く待ち時間があるが、この待ち時間というのが駅の様子や作品を観察するのにはちょうどよい時間である。
休日の朝、周りに工場しかないこの乗換駅にいるのは「その筋」の人たち。中にはオブジェにカメラを向ける人もいるが、ほとんどは特に目をくれるわけではなく、まったりとした時間が過ぎていく。オブジェそのものよりは、こうした時間の過ぎる空間というのがこのアート展の見どころではないかという気がする。
やってきた海芝浦行き。運河に沿って走り、東芝の敷地に入る。終点の海芝浦は、ホームのすぐ下に海があることや、終着駅なのに外に出ることができない(東芝の敷地内であるため、東芝の従業員や入門許可証を持つ人しか出られない)珍しさで有名である。臨海工業地帯を走る鶴見線らしい駅である。
この駅もアート展の舞台になるのであって、ホームの奥に設けられた海浜公園(この駅にやってきた工場関係者以外の乗客を一時軟禁・・・もとい乗客に一時風景を楽しんでもらおうということで設けられたもの)がその舞台。林武史氏による日干し煉瓦の作品で、終着駅らしく「車止め」をかたどったものという。ただ、「人を止めるものではなく、むしろ受け止めるものである」という意図から、コンクリートではなく土でできた日干し煉瓦という。そこに続く石畳が線路のように見える。
ちょうど日も差し込んできて、対岸に見える鶴見つばさ橋などを眺めながら折り返しの時間を過ごす。残るアートは、国道駅と扇町駅である・・・・。