まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

幸福の王子を探して

2023-11-27 | イギリス、アイルランド映画
 秋の夜長の国際BL映画祭⑤ イギリス
 「さすらいの人 オスカー・ワイルド」
 人気作家としての華やかな暮らしから一転、男色の罪で投獄され、富も名声も失ったオスカー・ワイルドは、パリで孤独な日々を送っていたが…
 オスカー・ワイルドの人生は、彼が書いた小説に負けず劣らずな数奇と波乱に満ちていたようで、映画化にはもってこいな題材です。この作品は、刑務所から出た後にオスカー・ワイルドがたどった、没落と失意の日々を描いています。

 それにしても。当時のイギリス、「モーリス」とかでもそうでしたが、同性愛が犯罪だったなんて、今では考えられない理不尽さ、非道さです。作家としてみんなからチヤホヤされてたのに、同性愛者と知れると手のひら返しの迫害。人権なんかあったもんじゃない仕打ちに戦慄。今でも芸能人や野球選手など、身の処し方を誤った人気者があっという間に転落、袋叩きに遭う怖さは不変ですが、彼らの才能や活躍同様、スキャンダルで堕ちていく姿もまた関係ない一般人にとっては、面白おかしい話題でしかない。ちょっと調子に乗ってる?と感じられる有名人には、あまり驕慢にならず油断せず活動してほしいです。一寸先は闇、その闇も一般人より深いだろうから…

 オスカー・ワイルドの堕ちた没落の闇も、なかなか深くて痛ましかったです。病身だったのもですが、お金に困ってたのがイタかった。元ファンの女性や旧友、元恋人のボジーにまでお金をたかる姿がみじめ、なんだけど、本人はそんなに気にしてなさそうで、もらうのが当たり前、みたいな感じなんですよ。これが凡人との違いなのでしょうか。自己嫌悪とか自己憐憫とは無縁な自信と超然とした態度。たかりなんて卑しいマネできない、と考えてしまうところがもう卑しい凡人な証拠なのかなと、ワイルドを見ていて思いました。多くの人同様に、もっと卑屈ままでにへりくだったり忖度したりして生きてたら、きっと静かで清い晩年を送れたかもしれないけど、そんなつまんない性格や人生じゃないからこそ、歴史に残る作品を生み出せたんでしょうね。出所後は断筆してたのが惜しまれます。

 天才あるあるですが、敵も多いけど味方も多いワイルド。みじめな没落生活や病床の中でも、献身的に支えてくれる人たちがいる。不幸にした奥さんや子どもたちも、離れ離れでも変わらずに愛してくれている。厄介で迷惑なおっさんだけど、一緒にいたら楽しいし、放っておけない危なっかしさもご愛敬で、確かに憎めない魅力的な人物ではありました。才能にも魅力に愛にも恵まれた幸福な人に、私には思えました。

 オスカー・ワイルド役は、80年代に英国美青年ブームを牽引したルパート・エヴェレット。主演と監督を兼任しています。そのキャリアと私生活が、オスカー・ワイルドと何となくカブる部分があるエヴェレット氏、なかなかの入魂の演技と演出でした。見た目はグロテスクな怪人っぽいけど、ふとした瞬間に往年の美麗さが垣間見える、うらぶれても誇り高く知性は研ぎ澄まされている、それでいてどこか浮世離れしていて、皮肉めいたお気楽さがあるエヴェレットasオスカー・ワイルドでした。落剝しても結構楽しそうに遊んでる姿には、ユーモアと不屈さがあってチャーミングでした。語学が堪能なことで知られるエヴェレット氏、フランス語の台詞もまるでネイティヴのように流暢に。
 ワイルドの友人役で、コリン・ファースが出演してます。エヴェレット&ファースって、伝説の「アナザー・カントリー」コンビじゃん!アナカンファンには感涙ものなツーショット。 

 二人が一緒のシーンは、どうしてもアナカンと比較してしまうので、二人ともじいさんになったな~と隔世の念。気難しそうだけど実はとっても善い人な英国紳士、というコリンといえばな役でしたが、出番は少なく友情出演っぽかったです。ワイルドの妻役はエミリー・ワトソン。彼女も少ない出演シーンながら、印象に残る好演でした。
 ワイルドを囲む若い男たちは、みんなイケメン!さすがエヴェレット氏、お目が高いボジー役のコリン・モーガンは、「ベルファスト」にも出てましたね。ベネディクト・カンバーバッチを優しく可愛くした感じの顔?友人(元カレ?)ロビー役のエドウィン・トーマスも、優しく誠実そうな好男子でした。ワイルドがパリで親しくなる花売りの少年ジャン役は、何と!「Summer of 85」前のバンジャマン・ヴォアザン!

 可愛い!当時22歳ぐらいなので、まだ少年って感じ。底辺社会でたくましく生きてる、スレてるけど優しい男の子役で、チョイ役かなと思ったけど結構出番は多く、なかなか美味しい役をもらってました。ちゃんとお金払って彼と援助交際してるところが、さすがワイルドでした。バンジャマンくん、堂々としたすっぽんぽん姿も披露。男たちの全裸シーンは多いけど、性的なシーンは全然ないです。

 ↑ アナカンの頃のルパート&コリン

 ↑ アナカンから34年後

 両手にイケメンでご機嫌なエヴェレット氏

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惨劇の降霊会!

2023-10-15 | イギリス、アイルランド映画
 「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」
 終戦直後のヴェネツィア。探偵を辞め隠棲生活を送っていたエルキュール・ポアロは、旧友の作家アリアドニに誘われオペラ歌手ロウィーナの屋敷で催される降霊会に参加する。超常現象を信じないポアロは、ロウィーナの亡娘の霊を呼び出すという霊媒師レイノルズを詐欺師と見なすが…
 ケネス・ブラナ監督・主演の名探偵ポアロシリーズの第3弾。前作の「ナイル殺人事件」から間を置かずしての公開。精力的なブラナ監督です。原作はアガサ・クリスティの「ハロウィーン・パーティー」。クリスティ女史の推理小説は中学生の時にハマって読破したはずなのですが、ハロウィーン・パーティーは読んだはずだけど全然記憶にないこの映画を観てビツクリしました。こんなオカルトホラーな内容だったっけ?!と。ミステリじゃないじゃん!?いわくありげな古い洋館で、この世に恨みや未練を残す亡霊が人間に襲いかかるといった、よくあるパターンのオカルト映画になってたのが、ちょっと期待外れというか残念でもありました。まさにイギリス!なミステリ映画やドラマが好きで、どんなホラーやオカルト映画を観ても失笑するだけの恐怖不感症な私なので…

 ケネス・ブラナ監督の斬新でスタイリッシュな演出やセンスは、「ベルファスト」とかでは素晴らしい!と感嘆したけど、ポアロシリーズでは何だろう?違う違う、そうじゃないby 鈴木雅之、それじゃない感が否めなくて。ブラナ氏はもともとシェイクスピア俳優として名をはせた人だから、ミステリ映画もシェイクスピア風の悲劇的な人間ドラマにしたいのでしょうね。それはそれでユニークだとは思うのですが、アガサ・クリスティのミステリとはちょっと合ってないのではとも。殺人の話なのに優雅で洒脱な楽しさがあるところが、私にとってはアガサ作品の魅力なんです。あと、意外な真犯人と殺人トリックも。この映画、それらがかなり疎かで雑な扱いになってたような。とにかく面妖な雰囲気と恐怖の演出、舞台劇のような容疑者たちの相克に重点が置かれていて、ミステリの部分は二の次三の次っぽかったです。

 ポアロのキャラと容貌が、原作や有名映画・ドラマとかなりかけ離れているところも、このシリーズの特色です。ここの部分が受け入れられない人って多いのではないでしょうか。私もシリーズ第1弾の「オリエント急行殺人事件」を観た時は、かなり戸惑いました。ポアロの人柄や過去を深掘りしすぎてるところも、それ必要?と首を傾げたし。でも今はもう、一般的なイメージのポワロとは別物、ブラナ氏が創造した新型ポアロ、として魅力も感じています。生真面目で内省的なブラナ氏のポアロはイギリス人っぽくて、本来の高慢で気どったオネエおじさんみたいなベルギー人ポアロより好きかも。

 その他のキャストは、豪華ではないけど通好みの顔ぶれ。霊媒師レイノルズ役は、今年「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」でアカデミー主演女優賞を受賞したばかりのミシェル・ヨー。すごい高速でグルグル回る椅子に座ったヨー姐さんのイタコ演技、あれは笑いを狙ってたのでしょうか。無惨な串刺し姿も何か滑稽で、ほとんどイロモノ扱いでした。医者の父子役は、「ベルファスト」から連投出演のジェイミー・ドーナンとジュード・ヒル。同じ父子役でも、ジェイミーは神経衰弱なパパ、ジュードはパパを支え庇う健気で賢い息子、というベルファストとはまったく違う二人の役と演技でした。ポアロの用心棒役はリッカルド・スカマルチョ。最近は英語圏の作品でよくお見掛けしますね。
 ゴンドラや古い建物、街の様子など、水の都ヴェネツィアの風景も趣深かったです。美しいけど、湿気とか水害とか衛生とか考えると、わしヴェネツィアにはよう住まんわ。古めかしくも壮麗な事故物件である、殺人の舞台となる屋敷にも。ハロウィンの亡霊よりも、ハロウィンの梨泰院のほうがはるかに怖いです。それはそうと。どうでもいいけど日本表記、ポアロなのポワロなの?
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蜂蜜と鮮血!

2023-07-09 | イギリス、アイルランド映画
 夏のホラー映画祭①
 「プー あくまのくまさん」
 大人になったクリストファー・ロビンは、都会から恋人を連れ少年時代にプーやピグレットたちと幸せな時間を過ごした森へ戻ってくる。しかしプーとピグレットは、血に飢え人間を憎悪する凶獣と化していた…

 ちょっと気になってたトンデモ映画、やっと観ることができました(^^♪こんなん作って大丈夫なの?著作権に関してはディ〇ニーって怖い会社なんでしょ?訴えられないの?と思ったけど、著作権って年月が経つとなくなるみたいですね。なので堂々と製作できたようです。世界中で愛されてる可愛い〇ィズニーキャラが、恐ろしい殺人鬼となってアノ手コノ手で残虐な殺戮を繰り広げる、なんてファンには受け入れがたい冒涜、暴挙かもしれませんが、特に思い入れのない者にとっては、そのユニークな発想に苦笑いです。最近は世界的有名キャラの魔改造が流行ってるみたいで、ハイジやピーターパンもマッド化。ディズ〇ーの看板キャラであるあのネズミも、いつか?

 トンデモなパロディとしては面白いのですが、何もかもが明らかに低予算なチープさです。どう見てもゴムマスクした人間の大男なプーとピグレット。車の運転してたのが笑えた。人里離れた場所に集まった若者たちが一人一人惨殺される、という設定はほとんど13日の金曜日。殺し方もジェイソンみたいでした。ギャルたちをミンチにしたり車で頭部を轢いて潰したり、口から頭部に刃物を貫通させたりetc.ゲロゲロ(死語)すぎる残虐シーンはなかなか手が込んでましたが、私はホラー不感症なので全然怖くなかったです。笑いを狙ってるとしか思えなくて、むしろプっと吹いてしまったわ。

 ギャルたちは躊躇なく容赦なく惨殺しまくるけど、クリストファーは殺さず生け捕りにして拷問してたプー。自分を見捨てたクリストファーを憎みつつも、幸せだった頃の愛情もまだ残ってる、という設定をもうちょっと丁寧に描いてたら、切なく悲しいホラー映画になってたでしょう。B級ホラー映画にそんなん要らん!ホラーのお約束が守れていれば十分!な人なら楽しめる映画です。
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海に葬る愛

2023-07-02 | イギリス、アイルランド映画
 「God's Creatures」
 アイルランドの港町で家族と暮らすアイリーンは、数年ぶりに戻ってきた息子ブライアンとの再会を喜ぶ。しかし、アイリーンの職場の同僚サラを暴行した容疑でブライアンは逮捕されてしまう。息子を救うため、アイリーンは警察に彼のアリバイを偽証。それはやがて、アイリーンの家族や狭いコミュニティの人間関係に亀裂を生じさせて…

 秀作「aftersun アフターサン」でオスカーにノミネートされ、若手最旬の俳優として注目と期待の的となってるポール・メスカルの出演作を観ることができました(^^♪主役ではないけど、物語の核となる重要なブライアン役。素朴で優しい、けどどこか不安定で危険なものを感じさせる役と演技は、「アフターサン」と似ています。アイリーンじゃなくても、この子が婦女暴行なんかするわけない!と信じますよ。どこからどう見ても善人なのに、別に怪しい言動をするわけではないのに、だんだん信じる自信がなくなってしまうような闇と歪みを感じさせる怖さ、その曖昧さやさりげなさが凡百な狂ってます、サイコです演技とは違うな~と、今回も感嘆させてくれたポールでした。

 いかにもアイルランド人的な、ポールの朴訥でマイルドだけど強靭そうな風貌も好きです。農夫とか漁師とかいった、田舎の肉体労働者の役が似合うルックス。農夫や漁師のファッションって、着る男を選びますよね~。顔だけキレイなモデルみたいなイケメンとかだと、すごい違和感だし全然カッコよく見えない。逆に、顔は少々ブサイクでも屈強な体躯の男だと超イケちゃう。ポールもイケメンとか美男ではないけど、すごくガッチリして逞しいので働く姿がセクシー某有名ブランドのモデルもしてるポール、洗練されたファッションでキメてる彼も素敵ですが、この映画でのカキの養殖作業中の防水合羽や長靴のほうが、スーツより似合っててカッコいいんです

 お話そのものは、狭い世界の人間関係や男尊女卑が陰鬱に息苦しく描かれていて、決して見ていて気持ちのいいものではありません。こんな暗くて娯楽性のない映画、今の日本じゃまず作られないと思うし、誰も観たがらないでしょう。私も好きな俳優が出てなきゃ途中リタイアでした。たいして能もないのに男というだけで女より上だと当然のように振る舞ってる男たち、屈託を鬱積させながらもじっと耐えてる女たち。どっちも時代錯誤だけど、実際にはどこの国の社会もいまだに男女平等なんて絵空事ですよね。ラスト、衝撃的な悲劇をアイリーンは選ぶのですが。母性をも打ち砕くほどの、積もり積もった女の怒りと憎悪、怨嗟に戦慄

 アイリーン役のエミリー・ワトソン、久々に見ましたがすっかりおばさんになって!もう孫もいる役!彼女の鬱々しく険しい表情も怖いです。荒涼とした寒々しい海、暗鬱な雨空もかなり鬱。あんな所で私は暮らせない!ちなみにオイスター、広島県民のくせに苦手な私
 
↑ 高く評価されたTVシリーズ「ノーマル・ピープル」も鑑賞中(^^♪いい役者だわ彼ほんま!日本の20代の俳優も、もうちょっと頑張ってほしいわ~。何とかリベンジャーズとかなんとかダムとかいったオコチャマ漫画映画もいいけどさ~
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追憶の日焼けあと

2023-06-22 | イギリス、アイルランド映画
 「aftersun アフターサン」
 もうすぐ11歳になるソフィは、別れて暮らす父カラムとトルコのリゾートにやって来る。二人は仲良く夏休みを楽しむが…
 追憶映画ってたくさんありますが、そのほとんどは甘ったるいノスタルジーや湿っぽいお涙ちょうだいもの。でもこの作品は、そんな類ではありませんでした。想定外の独特な作風でした。若い女性が幼かった頃にパパとすごしたひと夏を思い出して…な内容は、結構ありきたりなのですが、その描き方と父娘の関係性がなかなか斬新でした。

 まず、父娘についての説明がほとんどないんですよ。パパはどういう人なのか、こんな若い男に11歳の娘がいる事情とか、ママとなぜ別れたのかとか、パパが何でギブスしてるかとか、情報はまったくなし。見ず知らずの他人のホームビデオを観てる感じ。二人のバックボーンについては、観客の想像に委ねられています。最近の映画やドラマって余計な台詞やシーンで説明過多なので、こういう意味不明じゃない程度の謎や曖昧さは、返って心地よかったです。

 父娘が仲良くリゾート滞在を楽しんでる、しばらくはただそれだけみたいな流れなので、始めは何なのこれと戸惑いました。危うく眠ってしまいそうになりましたが、中盤あたりから何となく不穏な、何か引っかかる言動や場面が目に入ってくるようになり、眠りは妨げられました。特に事件とか恐ろしい秘密が判明なんてことは全然なくて、ずっと父娘は仲良しで楽しそうなままなのですが、パパが何かおかしい…?

 兄妹と間違えられるのも頷けるほど若くて、優しく明るい素敵なパパなんだけど、ときどき観客を当惑させ不安にさせるようなこと、表情をするんですよ。まず、娘を置いて独りで絨毯を買いに行ったこと。ソフィは気にもせず若いイギリス人の観光客たちと仲良しになって遊んでたけど、このパパ大丈夫なの?と思った。今度は夜に、ソフィがカラオケに申し込んでたことに腹を立てて、また置き去りにしてどっかに行っちゃったり。ソフィは夜道を独り歩いてホテルに戻り(途中で男に襲われて!?かとヒヤっとなるシーンあり)しかもカギがなくて部屋に入れず、という完全にアウトなダメ親父っぷりに戦慄。

 波が激しい真っ暗な真夜中の海に入っていったり、ベランダの手すりに上がって飛ぼうとしたりetc.何の説明もないけど、パパがかなり情緒不安定な男であることがだんだん明るみになってきて、それがサスペンスでもありました。少年のように無邪気で可愛いんだけど、大人になりきれない、現実と折り合えない未熟さと傷つきやすさを抱えて絶望している…そんな姿が痛ましく悲しく、見ていて切なくなりました。

 そんな可愛くイタいパパを責めることもなく、何事もないように接するソフィのほうが大人のようでした。なので見た目が幼くても、若いパパとあまりにも親密にしてるとまるで恋人同士にも見えたり。とても父と娘とは思えぬような危うさ。11歳の女の子って、フツーならあんな風に父親とイチャイチャしないでしょ。父親と二人きりで旅行とか、しかも同室とか、日焼け止め塗ってもらうとか、想像しただけでゾっとします

 明るいんだけど、幸せそうなんだけど…淡い陽光に滲むような、透き通った水に浮かぶような痛みと苦しみが、観終わってから胸を衝く…そんな映画でした。劇中時おりサブリミナルに挿入される、現在の(と思しき)ソフィが見つめる明滅するディスコシーンも印象的なのですが、そこに繋がるラストも謎めいていて、いろいろ考察してしまいます。私なりに、カラムって実は…とか、カラムはきっとあの後…と、その時は不思議に思ったシーンや言動の意味を解釈して(説明は一切ないので、あくまで推察ですが)切なくなってしまいました。

 カラム役で今年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、アイルランドの若手俳優ポール・メスカルが素晴らしいの一言!早くも今年のmy best俳優(彼か、「イニシェリン島の精霊」のコリン・ファレルか迷う~)かも!イケメンとか美男子ではないけど、素朴で飾り気のない男らしい風貌に好感。笑顔が可愛い!かと思えば、不意に見せる鬱々しいメンヘラ顔が怖くもあって。屈強で健康そうな肉体とアンバランスな不安定さ、ガラス細工の心の表現力が高度でハンパない!まだ27歳って!神木隆之介より年下!日本のアラサー俳優も、もうちょっと頑張ってよ!ガタイのよさも魅力のポール。ムキムキマッチョではないけど、ガッチリムッチリした肉体(特にデカくてキレイなお尻!)は私好み。印象的なシーンはたくさんあるのですが、ホテルの部屋で裸で慟哭してる後ろ姿は特に圧巻でした。体を張った熱演!じゃない、演技巧いだろ?な小賢しいわざとらしさもない、ナチュラルだけど強烈に訴えるものがある演技は、ポールの稀有な才能と将来性を確信させるものでした。ソフィ役のフランキー・コリオも演技とは思えぬ自然さで驚嘆。シャーロット・ウェルズ監督の才気にも感嘆。トルコのリゾート地も目に楽しかったです。私も泥風呂に入ったり素敵な絨毯を買いたい!

 ↑ アカデミー賞授賞式ではやたらと姿がカメラに抜かれてて、その若さとフレッシュさが目を惹いたポール。リドリー・スコット監督の「グラディエーター」続編の主演に抜擢されるなど、ハリウッドでテッペン獲りそうな勢い!

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ソーホーで娼年

2023-05-11 | イギリス、アイルランド映画
 「Postcards from London」
 田舎からロンドンのソーホーにやって来たジムは、路上で所持金を奪われ無一文になる。そんな中スカウトされ生活のため男娼になったジムは、その美しさでインテリや芸術家たちを刺激し魅了する。ジムには素晴らしい芸術作品を見ると気を失うという持病があった…
 「キングスマン ファースト・エージェント」や「ザリガニの鳴くところ」そして「逆転のトライアングル」など、最近売れっ子のイギリス俳優ハリス・ディキンソン主演作です。ちょっと、いや、かなりユニークな作品でした。ハリディキは田舎からロンドンに出てきた青年役で、スカウトされてソーホーで男娼になるのですが、男娼といっても男相手にセックスするというより、芸術家やアート好きのおじさん相手にコスプレやモデルをするのが仕事、みたいな感じでした。なので、「娼年」や「エゴイスト」みたいな男同士のラブシーンやラブストーリーを期待するとガクっとなります。


 BLちゃうやん!でも、ハリディキはすごくカッコカワいかったです。顔だけだと高校生みたいです。撮影当時は21、2歳ぐらいなので、26歳の現在よりさらに幼く見えるのも当然か。イケメンなんだけど、何だかすごくトボけた顔で、どんな時もだいたいキョトンとしてるのが可愛い。そしてハリディキといえば裸。この映画でもガンガン脱がされてました。ほぼ半裸といっていいほどに。男性キャラの美しい裸体が必要な監督にとっては重宝する俳優なのでは。最近は女優だけでなく男優まで、おいそれとは脱いでくれなくなってますからね~。そんな味気ないポリコレ風潮などどこ吹く風、キョトンと脱ぎまくるハリディキが好きです。服着てるとスラ~とした細身なのですが、脱ぐと胸は厚く腕は太いマッチョな肉体美はまさに眼福で、劇中でアートなおじさんたちを虜にするのも納得の芸術的な完璧さ。

 どの出演作でもだけど、ハリディキの裸体ってセクシーだけどエロさは全然なく、地味で色白なためかすごく清潔感があります。見た目は地味で薄いけどクセが強い役が多いハリディキですが、どんな役でも汚らしくならないのはその透明感ある風貌のおかげでしょうか。あと、彼のファッションがおしゃれでした。色白&スマートな長身長足だからこそ似合う個性的な型や色のシャツやパンツ、あれキムタクとかが着たら大事故になりますよ。

 ハリディキのアートコスプレも楽しかったです。カラヴァッジョの「聖セバスティアヌス」と「奏楽者たち」の再現シーンが特に好き。ソーホーでの現実と、スタンダールシンドロームを起こして気絶したジムの夢?の中のシーンが交錯する構成になってるのですが、夢の中でカラヴァッジョがジムたちイケメンをモデルにして絵を描くシーンと、カラヴァッジョの怒りっぽいキャラが面白かったです。カラヴァッジョについて無知な私、あの有名なメデューサの絵も彼の作品なんですね!

 ソーホーでの現実さえ何だかファンタジー?思えるほど、男娼たちがたむろするクラブや屋上、路地も異空間のような構造と色彩のセット。ロケ撮影は全然なく、演技も演出もまるで舞台劇みたいでした。せっかくロンドン、ソーホーが舞台ということになってたので、イギリス好きとしては残念。ほとんど男しか出てこないボーイズ映画で、ハリディキを囲む男娼仲間や(帽子の子が可愛かった。誰?とチェキってみたら、ジョナ・ハウアー・キングくん、近日公開のハリウッド実写版「リトル・マーメイド」の王子さま役に抜擢されてた!)美術ディーラーの黒人など、ブサメン厳禁なイケメン映画でもありました。なのでやっぱBLじゃなかったのが惜しまれます。男娼たちも妖精?実在しない妄想?みたいな不思議さでした。あと、芸術を語る台詞が私には高尚すぎてワケワカメでした

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絶交宣言!“おまえが嫌いになった”

2023-02-09 | イギリス、アイルランド映画
 「イニシェリン島の精霊」
 1920年代、激化するアイルランド本土の内戦をよそに、平和な日常を保っていたイニシェリン島。気のいい独身男パードリックは、親友のコルムから突然絶縁を宣告され…
 数年前に絶賛された「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督待望の新作。早くも2023年マイベストかもしれぬ映画を観てしまった!現在アメリカの賞レースを席捲中で、来たるアカデミー賞でも多部門でノミネートされてるなど、絶賛の嵐に高まった期待を裏切らぬ、いや、期待を上まわる秀作でした!いや~ほんま面白かったです!こういう滑稽で狂ってる映画、大好き!いちおうコメディ映画ということになってますが、笑えると同時にゾっとするような人間関係の歪みや心の暗い深淵、狂気が描かれていて、とにかく奥が深い内容。それをすごく面白い話にしてるところが驚異。マクドナー監督の洞察力と脚本家としての才能には畏怖あるのみです。決して貶めるつもりはないのだけど、この映画が最高級の食材(脚本、演出、演技)で作られた絶妙な、世にもまれな珍味の料理だとすれば、キムタク主演の某時代劇大作は糖分と脂肪が多いジャンクフード、に思えて仕方がないです(ジャンクフードも好きですが(^^♪)。

 昨日まで仲良くしていた親友から突然、おまえのことが嫌いになった、もう話しかけてくるな、なんて冷たく言われ相手にされなくなったら…私もパードリックみたいに困惑し周章狼狽、落ち込んだり原因を知ろうとしたりするでしょうけど、あそこまで頑として拒絶されたら怒りや不快感のほうが勝って、何様のつもり?!こっちこそおまえなんか要らんわ!と相手以上の嫌悪で絶縁上等!となるでしょう。さすがにそんな経験はないけど、この映画のキーワードである絶交…大なり小なり、友情にしろ恋愛にしろ血縁関係にしろ、生きていれば誰でもしたりされたりはありますよね。あんなに仲良しだったのに、ふとした言動で相手の本性にハっと気づいてしまい、それが耐えがたくなって距離を置き、いつしか関係はフェイドアウト。同様に、あんなに親密だった人がよそよそしくなり、気づけば連絡もくれなくなり没交渉に。私もどっちもあります。どちらも寂しい悲しいことだけど、人生には築けば崩れるものある、来れば去るのも必定なのよと、私を含めほとんどの人は後ろめたさや割り切れなさと折り合って、他にもいる大事な人や新しい人との関係に目を向けるものですが、パードリック&コルムはそうはならなかった。その人間関係こじらせっぷりが壮絶すぎて笑える、けどサイコちっくで怖い!

 まず、パードリック。ほんとアホみたいに人のいい、愛さずにはいられない男。一方的な絶縁宣告にオロオロする姿が可哀想!なんだけど、見ているうちにコルムの気持ちも理解できてくるんですよね~。こんな奴とずっといたら、こっちまでアホになりそうという恐怖。無知無教養なのはまだいいとして、コルムの心情を察することなど到底できない、何を言っても伝わらない鈍感さが致命的でした。さらにあのしつこいかまってちゃんぶり、執着もヤバすぎる。ほとんどストーカーと化してましたし。救いのない悲惨な状況になっても、この期に及んでまだ友だちに戻れると信じてるの!?な無邪気すぎる言動には、もう笑うしかなかった。愚鈍だけど善良で見た目も悪くないし仕事も真面目だし、恋人か嫁を見つけるとか酪農業を発展させるとか、もっと他にできることあるじゃろ~と呆れつつ、狭い世界に埋没してると愛とか夢とか向上心とか見つかりようがないんだな~と戦慄も。

 次にコルム。話が進むうちに、こんな所でこんなバカと死ぬまで一緒、という人生に対する彼の絶望や焦燥、閉塞感、孤独が伝わってきて、冷たくされるパードックよりも可哀想に思えてきます。善人だけど愚かで退屈なのは、パードリックだけでなく他の島民も同じなのに、コルムがパードリックだけを徹底的に自分の人生から排斥しようとしたのはなぜ。絶交しても、パードリックが非道い目に遭ったりすると、そっと助けてくれたりするコルムの優しさはいったい。考察しがいのある複雑で興味深い心理です。コルムにしろパードリックの妹シボーンにしろ、頭がよく感受性が強い人にとっては、イニシェリン島のような閉鎖的で非文化的な、平和だけど何もない土地は地獄みたいなもの。シボーンのように自由を求めて島を出ることもできない老人コルムは、やはり人知れず精神崩壊してしまったため、あのような常軌を逸した頑なな拒絶、そして狂気的な自傷行為へと至ったのでしょうか。気の弱い人は要注意な血生臭さ、野蛮さです。まったく解かり合えず受け入れられず、どんどん険悪に過激に悪化していく終止符の打てない争いが、アイルランド内戦と重なるところも秀逸な脚本です。

 パードリック役のコリン・ファレル、キャリア最高の名演かも!大好きなコリン、もう長いことファンやってますが、ついにキター!!って感じ。オスカーにも初ノミネート!👏受賞すればファンは感涙の欣喜雀躍!今コリンの受賞のため、願掛けの酒断ちしてますハリウッド的な大ヒット狙い作品ではなく、才ある気鋭の映像作家作品で個性と演技力を深め、年齢を重ねてじわじわといい役者へと進化していったコリン。マクドナー監督にも寵愛され、「ヒットマンズ・レクイエム」「セブン・サイコパス」に続いての主演。いや~演技も見た目もコクが出てきたというか、味わい深くなりましたね~。故郷アイルランドが舞台だったためか、素朴な田舎者っぷりが自然すぎる。あの見事なまでの八の字眉、傷ついた子犬のような瞳、デカい図体で男くさい風貌なのに、頑是ない少年みたいで可愛すぎる!私なら、くだらない話しかできない粗末なオツムでも、コリンみたいな男なら邪険にするどころか溺愛しますよ。じゃれてくる大型犬みたいで可愛いじゃん!

 可哀想なんだけど、確かにイラっとさせウンザリさせる、でも憎めない男を可愛く、そして何かやらかしそうな不穏さも漂わせながら、珍妙・絶妙に演じたコリンに喝采あるのみです。
 コルム役のブレンダン・グリーソンも、「ヒットマンズ・レクイエム」に続いてのマクドナー監督作出演。恬淡と頑迷な、静かなる狂気の演技には何度も息をのみました。神父への教会での告解シーンが笑えた。シボーン役のケリー・コンドンも、アホの子ドミニク役のバリー・コーガンも、オスカー候補も納得の好演。神父やドミニクの父である警官、噂好きな雑貨屋のおばはん、死神ババアなど脇キャラも、笑えるけど身近な人や自分自身ともカブる凡庸さ性悪さ卑小さで、そういう人間の描写にも唸らされる作品でした。

 俳優たち同様、ロバや犬、馬など動物たちの名演も驚異的で素晴らしかったです。特にパードリックが可愛がってたロバのジェニーが可愛い!赤いリボンつけてたり、パードリックと散歩や仲良くしてるシーンにはほっこり。イニシェリン島は架空の島で、ロケはアイルランドのアラン諸島で行われたとか。現代社会から隔絶された原始的な生活、荒涼とした清冽で神秘的な風景。その素朴な美しさに心洗われ、そして圧倒されます。数年前に行ったイニシュモア島を懐かしく思い出しました。また行きたくなりました。パプの黒ビールも美味しそうでした。

 ↑ コリン、ゴールデングローブ賞受賞おめでとう!次はオスカーだ!ブラピとのツーショット。若い頃は似非ブラピなんて揶揄されてたコリンも、今やブラピと肩を並べるまでに。共演NGではなさそうなので、ぜひW主演作を!
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家政婦は着た!

2022-12-19 | イギリス、アイルランド映画
 「ミセス・ハリス、パリへ行く」
 1950年代のロンドン。夫を戦争で亡くした家政婦のミセス・ハリスは、勤め先の家でクリスチャン・ディオールのドレスに魅せられる。一念発起しお金を貯め、ディオールのドレスを買うためにパリへと向かうミセス・ハリスだったが…
 期待してた以上に佳い映画でした!夢と希望とロマンにあふれた楽しい映画!若い人よりも、わしのような貧乏高齢者にとってキラキラワクワクな内容かも。わしも貧乏高齢者だけど、ミセス・ハリスのように優しさと勇気をもって生きていけたら、と思いました。お金のあるなし、社会的身分、年齢も関係ない!夢に向かって軽やかに爽やかに、大胆不敵に猪突猛進するミセス・ハリスの冒険が愉快痛快。もちろん彼女のマネなんかできないし、あんなにラッキーな展開になるほど世の中は甘くないとは知ってるけど、他人への思いやりを忘れず、ちょっとでも前向きに行動すれば、何かいいことがあるかも、あるはず、と思うことができました。

 とにかくミセス・ハリスがチャーミングな女性!出会う人がみんな彼女に魅了されるのも理解できる。優しく明るく元気いっぱいで、おひとよしだけど正義感が強く、いざという時は剛毅で果敢な彼女を見てると、ちょっと「はいからさんが通る」の紅緒を思い出しました。単身パリのディオールに乗り込んでいくミセス・ハリス、私ならすぐ不審者扱いされて追い出されるか通報されるかですが、ミセス・ハリスは持前の天然さと豪胆さで、あっという間にディオールで働く人々の心を掴むんですよ。それは、当時のパリの世相のおかげでもあったようです。労働者を搾取し虐げる金持ちどもクタバレ!な、ストライキや暴動で荒れてた当時のパリ、特権階級の連中にヘイコラすることにウンザリしてたディオールのスタッフたちの目には、突如ロンドンからやって来たミセス・ハリスは、まさに格差社会に戦いを挑んでる庶民の女神のように映ったみたいでした。ミセス・ハリスがリストラに抗議し、職員を率いてディオール氏のもとに乗り込むシーンは、なかなか胸アツでした。

 それにしても。ミセス・ハリスを取り巻く人々が、みんな超絶いい人ばかり。ちょっと意地悪、セコい、という人は出ても悪人は誰ひとり出てきません。みんなまるで魔法にかけられたかのように、ミセス・ハリスに親切に惜しみなく応援と協力。ありえない!と思いつつ、それは私が卑しい不徳な人間だからで、ミセス・ハリスみたいな周囲をも善に変えてしまうマジックのような人徳の持ち主って、確かにいますよね。ラスト近く、落ち込むミセス・ハリスに届くパリからの贈り物が感動的でした。日頃の善き心と行いが、不運や悲しみの後に思いがけない幸運をもたらす展開は、何だか日本昔話みたいでした。
 この作品、キャストも素晴らしいです。ヒロインのミセス・ハリス役は、「ファントム・スレッド」でオスカーにノミネートされたイギリスの名女優、レスリー・マンヴィル。

 見た目も演技も可愛い!こんなおばちゃまになれたら!気持ち悪い美魔女系高齢女優と違い、ヘンに若くキレイに見せようとしてないナチュラルさも好き。可愛いけどブリッコではなく、女を捨てたサバサバ男前きどりでもない、好感と共感しか抱けないヒロインを軽快に好演。ドレスにときめいてる表情が秀逸でした。ディオールの辣腕マネージャーであるマダム・コルベール役は、フランスの大女優イザベル・ユペール。


 慇懃無礼でカリカリしててイヂワルな今回のユペりん、ちょっと「8人の女たち」の彼女を思い出させました。イヤミな役でもコミカルなので、悪役とか敵役といった感じではありません。すごく楽しそうに演じてるユペりんでした。クールにすっとぼけた毒は、コメディでも活きます。シンプルかつフェミニンなスカートも、すごくエレガントなところがさすがフランス女優。マンヴィルVSユペール、英仏の素敵熟女対決がトレビアン。
 ディオールの会計士役アンドレ役は、いま注目のフランス俳優リュカ・ブラヴォー。


 イケメン!フランス男なのにスカしたところが全然なく、大柄で立派な体躯や、優しそうで素朴なお人よしっぽい雰囲気は、何となくアメリカ人っぽい。女たちに振り回されてオロオロする様子が可愛かった。ミセス・ハリスと親しくなる侯爵役のランベール・ウィルソンが、相変わらず美熟年!優雅な貴族役にぴったり。侯爵が飼ってる犬がカッコカワいかった。ディオールのトップモデル、ナターシャも超いい娘で好感。演じたポルトガル女優のアルバ・バチスタ(クリス・エヴァンズの今カノだって!)も、きれいで可愛かった。フランス俳優たちの、フランス語と英語がちゃんぽんな演技もカッコよかった。駅のホームレスまで上手な英語を喋ってましたが、フランス人ってみんなあんなに英語を喋れるんですね。

 ディオール全面協力のファッションも見どころ。素敵な衣装が次々とお披露目されるファッションショーが、ドリーミーで眼福でした。でもファッションには疎く興味も薄い私、服に大枚はたくとか無理!ユニクロで十分アナーキーな世情のため、花の都どころかゴミの都と化してたパリですが、セーヌ川岸の散歩道とか花市場とか、美しい場所もちゃんとあって安心。パリよりもロンドンのほうが好きなので、ロンドンのシーンがもっと見たかったです。

 ↑ ハリウッドの大物スター二人が共演した某コメディ映画にも出てたリュカ。英語圏のコメディで脇役のイケメンフランス男役ばかりでなく、本国のシリアスな作品で主役な彼が見たいです
コメント (6)
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男色の脅迫者!

2022-12-08 | イギリス、アイルランド映画
 「Victim」
 弁護士として成功し、美しい妻ローラと幸福な結婚生活を送っていたメルヴィルは、警察の拘置所でバレットという青年が自殺したと知りショックを受ける。メルヴィルは同性愛者で、バレットとはかつて深い関係にあった。バレットは生前、何者かに脅迫されていたが…
 60年代のモノクロのイギリス映画が好きです。それらの多くは冷たく乾いた映像と雰囲気で、シビアな社会や人間関係を描いているのですが、この1961年の作品もそうでした。同性愛が違法とされていたイギリスにおけるゲイの生きづらさや苦悩は、酸鼻を極めるものがあります。現代ではありえないような人権無視、人権蹂躙の非道さ。バレたら身の破滅になるほどの命がけの秘密。カミングアウトなど自殺行為。同性愛者は公然と攻撃と蔑みの対象になっていた時代。そんなに昔のことじゃないってのが信じがたい。まるで隠れキリシタンのように、ビクビクしながら息を潜めるように、本当の自分を抑圧して生きねばならない人生。まさに絶望しかありません。怯えながらも男を求めずにはいられず、危険をおかしてしまうゲイの心と体の懊悩が悲痛です。

 この映画の怖いところは、同性愛者の弱みに付け込む連中の卑劣さや残忍さや、狭隘で歪んだ憎悪や嫌悪の醜さです。金目当て、もしくは独りよがりで狭量な信条の持ち主に脅迫の標的にされてしまう同性愛者たちは、まさに社会に鬱憤を抱く人たちへのはけ口にされた犠牲者。この映画を観て、同性愛を禁じていた法律がどれほど人間を貶めていたか、あらためて痛感しました。偏見や差別に毒されず、公正公平な目を失わない人や、愛が揺るがない人が、少数派だけどいたことは救いになりました。ゲイの男性を愛してしまった女性の苦しみも、また悲痛ですよね~。メルヴィルが同性愛者と知っても、彼を愛することを止められないローラの選んだ道は、悲壮かつ峻厳。脅迫者の正体は、ちょっと意外でした。
 メルヴィル役は、ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」と「地獄に堕ちた勇者ども」での名演も忘れがたい英国の名優ダーク・ボガード。

 保身と罪悪感にがんじがらめになる男を、デリケートにデスパレートに演じてるダーク・ボガード。ほの暗い男色の悲哀を常にまとっている彼にとって、隠れゲイ役なんて適役過ぎる。実際のボガードは同性愛者だったのか、そうでなかったのか、定かでないミステリアスなところも彼の魅力で、演技に深みや陰影を与えていたように思われます。深く暗い洞のような大きな瞳が美しくも怖いです。エレガントな仕草や英語のアクセントが、まさに英国のエリート紳士って感じで素敵。モノクロで撮影された当時のロンドンも風景も興味深いです。ゲイ映画ですが、男性同士の性愛シーンなどはいっさいなし。リメイクされるなら、切ないラブシーンはマストですね。メルヴィル役はコリン・ファレルかリチャード・マッデンにやってほしいかも(^^♪
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BLおまわりさん

2022-11-13 | イギリス、アイルランド映画
 「僕の巡査」
 50年代のイギリス南部ブライトン。教師のマリオンは、恋人の警察官トムから博物館で働くパトリックを紹介される。トムはパトリックとの秘密の肉体関係に溺れていた…
 イギリスの人気アーティスト、ハリー・スタイルズがBL演技に挑戦!恥ずかしながら私、彼のことはあまり存じ上げなかったんですよ。人気アイドルグループ出身で、今はソロとして活躍、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」で俳優デビューもし話題になるなど、常に華やかな脚光を浴びてるハリーくんですが、彼の音楽活動は全然知らないし、「ダンケルク」もどこに出てたっけ?な存在感のなさだったし、ルックスもそんなにイケメンとは思えないし、私にとっては魅力がいまいち理解できない、歌手でも俳優でもなく派手なセレブって感じだったハリーくん。そんな彼が何か思うところがあったのか、本気モードで演技に挑んだのがこのBL映画です。世界的人気アーティストが本格的初主演作に選んだのがBLもの、というのが驚喜な選択。しかも男同士のラブシーンや全裸、好感も共感も抱けない役など、アイドル的スターにしてはリスキーとも言える果敢なチャレンジ。この作品でハリーのことがいい役者だと思えたし、それより何より、すごく可愛かった

 イケメンとか美男とかじゃないのですが、ちょっと猿顔なのが愛嬌があってキュート。たまにマーク・ウォールバーグに似て見えたのは私だけ?マーくんをソフトに可愛くした感じ?意外だったのは、すごく背が高くて体格ががっちりしてたこと。なので警察官の制服がよく似合っててカッコよかった!イギリスのおまわりさんの制服って、ちょっとおしゃれですよね~。実生活では超セレブなハリーですが、映画では素朴な庶民青年って感じをよく出してました。おまわりさん姿のシーンはそんなに多くなかったのが、ちょっと残念だったけど。

 そして、ハリーくんのBL!かなり頑張ってましたね~。男同士のディープキスや全裸セックスシーン、なかなか見ごたえありました。大胆だけど全然イヤらしくなく、甘く切ないラブシーンでした。攻める時も攻められる時もハリーくん、いい表情してました。ばっちり見せてるハリーの可愛いお尻も見どころ。禁断の愛にビクビク、でもワクワク。ないまぜな感情に揺れるハリーの若さあふれる、ピュアでどこか不器用なところもある演技が魅力的でした。

 BLといえば、やはり禁断と苦難。男女の恋愛と大して変わらないハッピーBLもいいけど、やっぱ過酷な運命と試練こそ、BLの醍醐味なんですよね~。同性愛は犯罪だった当時のイギリス、隠れキリシタンのように逢瀬を重ねるトムとパトリック、どんなに愛し合ってもそこに幸せな未来が重ならない、けど秘密が重ければ重いほど心も体も深く求め合うようになるのが切ない。現代なら、勇気さえあれば堂々と幸せになれたはずの二人。彼らが秘密の恋を続けるためにとった方法が、うう~ん、こいつらクズだなとさすがの私も思った。
“”
 パトリックと同性愛関係にありながら、マリオンと交際し結婚するトム。マリオンのことが好きだったのは真実でしょうけど、結果的には彼女を騙して利用して社会的に祝福される“まっとうな既婚者”の立場を得て、それを隠れ蓑にしてパトリックとの情交を続けようとするなんてズルくて卑劣な二股、ゲス不倫でしょ。同性愛がバレないようにマリオンともセックスする時は苦痛そうなのに、パトリックとの時は身も心も歓喜の快楽、その差が残酷すぎる。マリオンが可哀想すぎ。バレれてないとタカをくくり、二人でイタリア旅行に行ってマリオンに絵葉書を送るとか無神経すぎ、いくら何でも女をバカにしすぎでしょ。マリオンへの仕打ちが非道すぎて、そのバチが当たったかのような悲惨な恋の終わりにも同情できませんでした。甘くて弱く可愛い男と違い、女はやっぱ辛くて強い、そして怖い。でもマリオンって聖女。結局は男たちを憎悪できず、年老いてからの彼女の決断も善い人すぎ。フツーなら即離婚&慰謝料請求、二度と顔も見たくない、ですよ。マリオンにはパトリックと、トムをめぐって嫉妬や憎しみの火花を散らしてほしかったです。
 パトリック役のデヴィッド・ドーソンは、カルロス・ゴーンを細くして端正にしたような顔?年下の男への愛執や独占欲、絶望に揺れるインテリ隠れゲイを痛ましく熱演していました。マリオン役のエマ・コリン、清楚で可愛いのでハリーとお似合いのカップルでした。老トム役がライナス・ローチ、老パトリック役がルパート・エヴェレットという配役は、「アナザー・カントリー」と「司祭」の彼らを知る映画ファンにとっては感涙ものです。二人ともお爺さんになったけど、美老人です。

 ハリー・スタイルズのことが大好きになってしまった私。可愛いですよね~。独特すぎるファッションセンスも、日本人や韓国人がやると気持ち悪いけど、ハリーだとおしゃれ。シンガーなハリーにも興味がありますが、今後は俳優業にもっと本腰を入れてほしいものですとりあえず「エターナルズ」と「ドント・ウォーリー・ダーリン」観ねば!
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