まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

クイズ王子

2022-10-31 | イギリス、アイルランド映画
 歓喜と戦慄のニュースに心乱れた昨日今日…
 日本シリーズ、激戦を制したオリックスが優勝し日本一に!おめでとうございます!👏オリックスファンの皆さま、心からお祝い申し上げます!ヤクルトも頑張った!燕ファンの皆さまが流す悔しい涙も、3連覇が遠い昔の夢まぼろしに思えるカープファンからしたら羨ましい幸福です。思えば両チームとも、今となってみれば信じがたいけど、カープ3連覇時代には鯉のエサな存在でした。特にオリックス、忘れもしない。鈴木誠也の神ってるを生んだ、あの交流戦。あの時のオリファンの屈辱や傷心が、今は特大ブーメランのようにわしの心に突き刺さっています。カープは最強!人気独り占め!なんて調子ぶっこいてたあの楽しすぎた3年間。ああ、あの幸せにまた酔いたい。でも今のカープはどうでしょう。弱くなっただけでなく、恥ずべき醜聞まで噴出してるありさま。野球選手に品行方正さなんて求めてないし、女遊びに目くじらなんか立てないけど、GのS本やカープのN村のやったことは、卑劣で薄汚すぎる。才能があればあんなことしてもOKだよ(^^♪なんて、とても子どもたちには言えません。

 ↑ オリックス、いやパリーグ、いや日本野球界で今No.1のイケメンだと思う福田周平くん抱いて!
 心肝を寒からしめた、韓国のソウルで起きた惨劇…梨泰院クラスならぬ梨泰院地獄…現場の映像、怖すぎてニュースがまともに見れません。最近の都会での軽佻で物騒なハロウィンの風景に、何だか不吉な予感を抱いていたのだけど、まさかあんな悲惨な形で的中してしまうなんて…先日の夜、K市の神社であった秋祭りに行ったのですが、例年とは違う異様な人込みに恐怖を覚え、すぐに帰ってしまいました。自分の安全や命を守れるのは、結局自分だけ。あらためてそう肝に銘じる私です…

 「Starter for 10」 
 幼い頃からクイズが好きだったブライアンは、入学した大学でクイズサークルに入会する。恋や友情に悩みながらも、仲間たちと共にTVの人気クイズ番組に出場し優勝を目指すブライアンだったが…
 この作品が日本未公開だなんて!イギリス映画&ドラマファンからしたら信じられない、ありえないこと。ジェームズ・マカヴォイ、ベネディクト・カンバーバッチ、ドミニク・クーパーが共演してる映画ですよ!現在は男盛りの3人が、わ、若い!若き日の彼らが同じ画面で元気いっぱいにわちゃわちゃしてる姿はすごく貴重かつ新鮮で可愛く、見ていて思わず頬が緩んでしまいました。
 

 まず、主役のブライアン役のジェームズ・マカヴォイ。か、可愛い!佳作「ペネロピ」と同年の作品。当時すでにもう27歳ぐらいなのですが、すごい童顔&チビっこなので高校生にしか見えん!同級生の女の子ふたりといい感じになるのですが、マカぼんが少年っぽすぎて年下にしか見えませんでした。小柄なので動きがチョコマカしてて、それもまた可愛いんですよ。オクテでウブな童貞感もよく出していて、上目遣いとかはにかみ、悲しくなって涙を流したり、あざといまでに母性本能をくすぐったりキュンとさせたりするマカぼんでした。古びた感じのマフラーやジャケットなど大学生ファッションも、ブリティッシュなトラッドさでオシャレに見えました。

 マカぼんは可愛いのですが、ブライアンのキャラがちょっと…甘ちゃんすぎるというか。みんなから愛され助けられ、何やっても許されたり慰められたり、彼自身が誰かを支えたり励ましたりってのは全然なくて、いろんなことがあって成長したな~と思えるラストになってなかったのが残念。女の子ふたりとの関係も、ほとんど二股だったし。周囲が優しすぎる善人ばかりだと、人間って成長できないのかもしれないと思った。
 クイズ部の部長パトリック役のベネディクト・カンバーバッチも若い!そして珍妙!

 バッチさん、ほんと独特の顔してますよね~。シリアスなイメージがあるバッチさんですが、コメディの才能もズバ抜けてます。アカデミー賞授賞式や出演作のプレミアなどでのバッチさん、いつもノリのいいおもろい人って感じですもんね。この作品の彼は見た目も演技も漫画チックで、完全にお笑い担当。昔の漫画に出てくる、エラソーだけど滑稽な優等生そのもの。ちびまる子ちゃんの丸尾くんとちょっとカブるキャラでした。学生パーティーでスペンサーとケンカになり、こんちきしょー!と殴り掛かる姿がギャグ漫画みたいで笑えた。
 ブライアンの親友スペンサー役のドミニク・クーパーも若い!そしてカッコいい!秀作「ヒストリー・ボーイズ」と同年の作品。

 チョイワル風なローカルヤンキーな役だけど、ドミ公なので全然ダサい田舎者には見えません。ワイルド&セクシーなイケメン!なにげない目線や仕草が、ん・色っぽいby 工藤静香(^^♪マカぼんとの仲良しイチャイチャシーンに萌え~。女好きに見えて、実はブライアンのことが好き?と腐の妄想を甘くかきたてるドミ公でした。可愛いマカぼんと男らしいドミ公が、あまりにもお似合い、理想的なBLカップルに見えて♡


 ブライアンがアリスに恋していることを知ってるのにアリスとエッチし、ブライアンを怒らせ傷つけるスペンサーですが。これってBL漫画でよくあるパターンですよね。女から愛する男を引き離したかったからとか、自分を差し置いて勝手に女と恋愛しようとしてる男を罰するためとか、切ない屈折BL!なら最高だったのにな~。でもスペンサーはアリスのことが好きになったわけではなく、何となくノリでヤっちゃっただけで、ブライアンとケンカ別れした後に悲しそうに後悔してる様子が、やっぱ友情以上の感情をブライアンに抱いてる感じでキュンキュンしちゃいました(^^♪

 とにもかくにも、若かりしマカぼん、バッチさん、ドミ公がチャーミングでした。いい男いい俳優になった40代の彼らの再共演が見たい!ブライアン、パトリック、スペンサーがどうなったか気になるので、この映画の続編できないかな~。
 お嬢様ギャルのアリス、活動家の男前女子レベッカ、二人とも素敵な人柄で好感度が高かったです。マカぼんがあまりにも可愛いちびっこなので、二人とは姉弟にしか見えなかったけど。キャンパスライフも楽しそうでした。大学の校舎やパブ、街路、鉄道、クリスマスなど、イギリスいいな~行きたいな~と思いました。肝心のクイズが、あまり話に活かされてなかったような。もっとスポ根っぽくしてもよかったのでは。
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メンヘラ妃殿下

2022-10-26 | イギリス、アイルランド映画
 「スペンサー ダイアナの決意」
 1991年のイギリス。夫チャールズ皇太子との破綻した結婚生活に悩むダイアナ妃は、重い気鬱を抱えたままロイヤルファミリーがクリスマス休暇を過ごす離宮サンドリンガム・ハウスにやって来るが…
 ダイアナさんが亡くなってから、もう25年も経つんですね。彼女の衝撃的な事故死のニュースを聞いた日のことは、よく覚えています。それよりさらに前の、彼女とチャールズ皇太子とのロイヤルウェディングも、日本に来日した時のダイアナフィーバーも、鮮明に記憶してます。美しく咲いて無惨に散ったバラのような女性でした。あまりにも人々に愛されるのも、人気者になるのも悲劇だな~と、何だかみんなに寄ってたかってグチャグチャにされてしまったような彼女の最期に、今も胸が痛みます。今やエリザベス女王も亡くなり、チャール皇太子が王になるなど、隔世の念を禁じ得ません。
 
 ダイアナさんの華麗なる人生と悲劇は、まさに映画のヒロインにはぴったり。イギリス王室や貴族ものの映画やドラマが大好きなので、この作品もずっと気になってました。やっと観ることができたのですが、ちょっと思ってたような内容と違ってたのが驚き、かつ面白かったです。ロイヤルファミリーと最後に過ごすことになるクリスマス休暇の間、彼女がどう苦悩し葛藤したかを描いているのですが。ダイアナさんの懊悩、惑乱や錯乱ぶりがかなりニューロティックで、精神病院に入院レベルなんですよ。奇行や妄想、過食と嘔吐、徘徊に幻覚・幻聴、自傷行為など、そのメンヘラぶりはほとんどホラー。周囲のロイヤルファミリーやお仕えする人々が、それを目の当たりにしながらも冷たい目でスルーしてるのも、これが上流社会の冷酷さなのねと戦慄。愛と悲しみのプリンセス物語ではなく、追い詰められて精神を病んでいく女のサイコロジカルドラマでした。

 社会や環境に馴染めない、どうしても適応できない。欺瞞と偽善に満ちた冷ややかな人間関係。自由のない窮屈な暮らし。常に監視、品定めの目線にさらされている息苦しさやプレッシャー。自分を押し殺して迎合、服従。王室と平民という違いはあれど、心が病んでしまうほどの不安や絶望は理解できます。ダイアナが勝ち気で感受性と自立心が強い女性だったのも、返って不幸だった。ダイアナが気の弱い鈍感な、何でもハイハイと従うほうが楽と思える受け身な女だったら、彼女にとっても王室にとっても幸せだった(都合がよかった)だろうし。劇中のダイアナを見ながら、適応障害やマスコミ報道に苦しまれた雅子さまのことを思い出しました。当時の雅子さまや皇室の方々のことを映画にするとか日本では絶対ありえないので、ヘレン・ミレンの「クィーン」とかドラマの「ザ・クラウン」とかが許されるイギリスって、いろんな意味でスゴいと感嘆。それはそうと。籠の鳥生活と言いつつダイアナ、割と自由に動き回ってたような。迷子になったのと突然フラっとカフェに入ってきて、客の一般人たちを驚かせたり。息子二人とケンタッキーでテイクアウトとか。雅子さまがもし同じことやったら、映画のイギリス人みたいなリアクションは日本人にはできないのでは。


 イギリス王室・貴族もの映画&ドラマファンにはおなじみ、お楽しみの優雅で美しい上流階級の暮らしぶりにも感嘆。アメリカや韓国の金にあかせた成金とは、やっぱ全然ちがうんですよね~。壮麗なサンドリンガム・ハウスの高雅かつ重厚な内装や雰囲気、上品かつ贅沢な食事、優雅かつ厳格なマナー、一日に何度も着替える衣装、ほんと憧れる~けど、一瞬も気が抜けない休まらない。ダイアナじゃなくても疲労困憊します。それにしても。国民の税金で優雅に贅沢に暮らししている!と、厳しい目で見られることもある英国の王室や日本の皇室。国民が誇れる、大切に敬愛できる高貴な存在なら、国の力にも財産にもなれるので税金も惜しくはないのですが、こんな連中に我々の血税が!と顰蹙や嫌悪感を抱かせるようになっては、その存在意義を疑わざるを得なくなります。特権や何不自由ない生活は、国民の願う神さまのような清く正しい生活や行い、というパフォーマンスのギャラのようなもの、と思うのは不敬でしょうか。
 アカデミー賞主演女優賞ノミネートも納得の、クリステン・スチュワート渾身の熱演が鮮烈です。

 ダイアナ妃には似てないけど、そっくりさんモノマネ演技ではなく、クリステンの個性と魅力で創造したダイアナって感じでした。「セバーグ」でも精神ブッコワレてましたが、今回はイタさもヤバさも増してました。でも哀れな弱い女ではなく、壊されそうになっても屈しない戦う強い女。オンナオンナしてない媚びないシャープな演技や美しさで、キレイカワイイではなくカッコいい女優として独自のポジションを固めてるクリステン、ほんといい女優になりましたね。王室の保守的で古めかしいファッションも、クリステンが着るとモダンでスタイリッシュに。スタイル抜群で、特に足がきれいで長い!ロイヤルな装いやイギリス英語でプリンセスに化けてたけど、たまに吐く下品で口汚い台詞がアメリカンで笑えた。


 ダイアナの息子たち、ウィリアム王子とヘンリー王子役の男の子たちが可愛かった!本物に何となく似つつも、本物よりかなり可愛い。特にウィリアム王子役の子。品があって優しそうで賢そうなイケメン。将来が楽しみな子です。ベテラン侍従役のティモシー・スポール、侍女役のサリー・ホーキンスも印象的な好演。サンドリンガム・ハウスがあるノーフォークの風景も、神秘的なまでに清澄で美しかったです。イギリスにますます行きたくなりました。

 

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死刑台の情痴!

2022-10-12 | イギリス、アイルランド映画
 「ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー」
 50年代のロンドン。ナイトクラブの雇われママでシングルマザーのルースは、名門出身の美青年デイヴィッドと出会い彼との情事にのめり込む。不誠実なデイヴィッドに傷つき憤りながらも、彼との関係を断ち切れないルースだったが…
 イギリスで最後に絞首刑となった女性の物語。イザベル・ユペール主演の「主婦マリーがしたこと」のヒロインは、フランスで最後にギロチン処刑された女性でしたが、どっちも奔放で愚かで男運が悪すぎる、自業自得なんだけど哀れな女たち。それにしても。死刑になるような女性の人生、映画や小説の題材にはぴったりな濃密さ、激しい濁流のようで憧れはしないけど畏怖はしてしまいます。でもこの映画のルースも「主婦マリーがしたこと」のヒロインも、やったことは罪深いが死刑はさすがに厳しすぎて理不尽。ルースの場合、被害者は一人で彼にも非があるので情状酌量の余地があり、殺害時には明らかに心神喪失状態で精神鑑定コース、日本だと懲役10年ぐらいで片付けられそうなケース。時代が悪かった。まさに悪運の星のもとに生まれた女。

 死刑はあんまりだけど、ルースの人格や生き方には共感も同情もできません。運もないけど思慮も分別もなさすぎ、自分勝手すぎ。まだ幼い息子をほったらかして男に入れあげるとか、あまりにも女であることを優先しすぎでしょ。息子が可哀想だった。自分だけ身を滅ぼすのは自由だけど、子どもを不幸にするのは許せません。でも誰かを狂おしいほど愛してしまうと、そんなことどうでもよくなるのでしょうか。そんな愛には無縁な私からすると、もうそこで男はあきらめようよ、生活立て直そうよと、デイヴィッドとの爛れた腐れ縁を断ち切れないルースに何度も言いたくなりました。でもデイヴィッドと出会わなくても、あの下半身のユルさと不安定なメンタルで、ルースはまともな人生を歩めなかったのでは。でも、まともって?ルースとは真逆な私はまともなの?女の性と業についても考えさせられました。

 これぞダメ男!クズ男!なデイヴィッド。ルースを翻弄し傷つけ蔑ろにする彼の言動、すべてが非道すぎて最低なんだけど、計算ずくとか手練手管とかではなく天然なのが魔性の魅力。もちろん絶世の美貌も。あんな若く美しい男に優しくされたり甘えられたり追いかけられたりしたら、たいていのことは許してしまうのは理解できる。もちろんルースみたいな悪い男中毒者には、たいていの女性はならない。裏切りも暴力も愛!DV被害に遭っても我慢してる女性の多くが、そんな精神状態なんだろうな~。美しき害虫のような男デイヴィッドを演じたのは、若き日のルパート・エヴェレット。「アナザー・カントリー」の2年後の作品です。

 宇宙人的な独特の美しさが気持ち悪くもあったアナカンのルパートですが、この作品の彼はすごく可愛い!アナカンの時より顔があどけなく見えた。甘えん坊で寂しがり屋な笑顔や傷ついた捨て犬のような瞳で、おんな心を見事にたらしこみます。スラ~っとした長身は何を着ても似合ってて、どのシーンでも雑誌のグラビアみたいなカッコよさ。ルパート級の美しい男には、いい人な役よりも悪い男、クズゲス野郎の役のほうが相応しい。ブサイクなクズゲスなど言語道断ですが、美しすぎる男は卑劣さや下劣ささえも魅力にしてしまう。イケメンと美男は違う、この作品のルパートを見てあらためてそう思いました。ラブシーンで見せる裸も、細いけど硬く引き締まっていて美しかったです。日本の若い人気男優にも、ぜひデイヴィッドみたいな役に挑戦してほしいんだけど。
 ルース役のミランダ・リチャードソン、大好きな女優。この頃は「クライング・ゲーム」や「ダメージ」など、傑作秀作で好演した絶頂期でしたね。激情的かつガラス細工な繊細さ不安定さ、狂気の淵に堕ちた目つきのヤバさ、白い肌の美しさ、大胆かつ自然な脱ぎなど、ほんと女優の鑑のよう。彼女みたいな女優、日本にもほしいです。ルースを愛し支える中年男デズモンド役、イアン・ホルムの好演も忘れがたいです。デズモンドのドMな献身愛も、ある意味異常に思えました。
 愛憎まみれな情痴ドラマなんだけど、ドロドロとはしていません。「フォー・ウェディング」などのマイク・ニューウェル監督らしい、重くなりすぎないライトな感じが秀逸。深い霧に包まれた夜のロンドンや、郊外の美しい風景なども、イギリス好きには魅力的でした。
 
 
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かわいい子ども売られていくよ

2022-09-14 | イギリス、アイルランド映画
 「ロスト・サン」
 ロンドンで探偵をしている元刑事のフランス人グザヴィエは、ある裕福な一家から失踪した息子を見つけ出すよう依頼される。行方を追ううちにグザヴィエは、忌まわしい少年売春組織の存在を探り当てるが…
 ほとんど予備知識なしで観たのですが、掘り出し物的な良作でした。私にとってこの世でいちばん忌まわしい、許しがたいことは、いたいけな子どもを傷つけ苦しめること。幼児虐待なんて、どんな事情があっても酌量の余地なんかない。子どもに性的いたずらとか強姦とか、人間のすることじゃない。畜生以下。即刻死刑ものな万死に値する罪です。でもどんなに世の中が厳しくなっても、子どもを虐げる人々も犠牲になる子どももいなくなることはない。小児愛って病気でしょ?コロナのワクチンよりも先に、子どもに劣情を抱いてしまう人を治す薬を!と思ってしまいます。

 グザヴィエがたどり着く秘密の少年売春組織の実態が、ショッキングでおぞましかったです。欲情でギラつくおっさんがまだ幼げな少年の下着を脱がせ覆いかぶさり、苦痛に顔を歪ませる少年…粗い映像の盗撮ビデオには吐き気がしました。複雑で面倒な手続きや高額の利用料も厭わず少年を買う男たち同様に、組織を運営してる連中も忌まわしい存在。子どもなど家畜同然の商品扱いな非情さ。良心がちょっとでもあれば、あんな商売できないはず。売春用の子どもを家畜のように飼ってるメキシコの子ども牧場とか、こんなこと世界のどこかで実際に行われているのかと思うと、怒りよりも絶望で暗澹となってしまいます。
 グザヴィエがハードボイルドに、独りで子どもたちを救おうとするのですが、早く警察に通報しろよ~とは思った。組織のほうも、慎重に隠密に運営してるはずなのに、グザヴィエひとりに簡単に見つかって壊滅させられたり、派手なアクションとかサスペンス要素を排してリアルなドキュメンタリータッチにしてる作風なので、地味すぎ、物足りない、と感じる人もいるかもしれません。「ワールド・アパート」などのクリス・メンゲス監督らしい社会派映画です。

 グザヴィエ役は、フランスの名優ダニエル・オートゥイユ。彼の全編英語演技って初めて見た。ヨーロッパの人気スターが母国語ではなく、英語で演技するのを見るのが好きです。フランスなまりが強い英語って素敵。男前でも美男でもないけど、独特の悲哀と優しさが魅力的な役者さん。現在はもうお爺さんな風貌になってるオートゥイユ氏ですが、この映画の頃はまだ50歳ぐらい?若い頃のアクがとれて枯れたシブさが出てきた壮年期のオートゥイユ氏、さすがフランス人というかナニゲない姿、煙草を吸ってるシーンとかがカッコいい。でもあまりにもフランスなイメージなので、彼がいるとロンドンなのにパリに見えて脇役で、懐かしの美女ナスターシャ・キンスキーが。若い頃のオーラが消えて、フツーにきれいな女優さんになってました。彼女の夫役のいかついおじさん、どこかで見たことあるなと思ったら、「ベルファスト」の好演でオスカーにノミネートされたキアラン・ハインズでした。闇の深いロンドンですが、いつかまた行きたいです。
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女王ふたり並び立たず

2022-09-09 | イギリス、アイルランド映画
 エリザベス女王が崩御されましたね。御年96歳。大往生なので、悲しみよりも長い間お疲れさまでした、という気持ちのほうが強いです。ロンドンオリンピックでの007との共演は、ほんとノリがよくてオチャメでしたね。それにしても。女王のいないあのスキャンダルまみれなロイヤルファミリーを、イギリス国民は敬愛できるのでしょうか。それは日本も同じ。いろんな悲惨なことだらけで、日本国民の多くは塗炭の苦しみにあえいでいます。そんな中、日本の尊い一族は?存在感、あまりにも希薄ではないでしょうか。K室M子さんの件もあり、国民がいくら皇室を敬愛しても、皇室はそんなに国民を大事には思ってなかったんだな、という悲しみと失望は深まるばかりです。いや、そんな気持ちにもならない無関心な人のほうが今や多いかも。エリザベス女王の訃報は、今やすっかり影が薄くなってしまってる我が国の雲上の方々を思い出させました。

 「クイン・メリー 愛と悲しみの生涯」
 16世紀。フランス王に嫁いでいたスコットランドの王女メアリーは、夫の死後祖国に戻り女王の座に就く。イギリスの女王エリザベス1世は、英国の王位継承権を持つメアリーを警戒するが…
 イギリス時代劇、とりわけ王室ものが大好きです。王座や権力をめぐる闘争、詐術陰謀、人間関係がとにかく血なまぐさい!王族も貴族も僧侶も学者も、宮廷に出入りしてる小物まで、ちょっとでも油断、足もとをすくわれたり巻き込まれたりしたら、問答無用に断頭台で首チョンパ、を長いこと繰り返してたイギリスですが、中でもヘンリー8世からエリザベス1世の時代が激烈に血みどろで怖い、面白いです。ネタの宝庫なイギリス王室、最も有名な悲劇のヒロインのひとりが、スコットランドの女王メアリー・スチュワートでしょうか。数々の映画、ドラマにもなっており、最近でもシアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビー主演で「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」が製作されました。前から気になってた1971年版も、先日ようやく観ることができました。
 メアリーとエリザベス、二人の女王を演じてるのは、ヴァネッサ・レッドグレイヴとグレンダ・ジャクソン、英国の大女優ふたりの豪華共演です。ハリウッド女優のような華やかさ、美貌で魅了するのではなく、堅実な演技と圧倒的な存在感で惹きつけるところが、さすがイギリスの女優。当時二人ともまだ34、5歳ぐらい(綾瀬ハルカとか石原サトミとかより年下!)ですが、すでに様々な作品でキャリアも積み国際的な名声も得てるので、すでに大女優の貫禄。「ふたりの女王」のシアーシャとマーゴットなんて、まだ小娘と思えるほどに。

 メアリー役のヴァネッサは、悲劇的な運命に流されるように見えて決してそうではなく、自分の進みたい道、欲しい男たちを選んで突き進んだ、みたいな力強さと誇り高さ、奔放さがカッコよかったです。まさに太く短く生きた人生。当時の彼女は細面の美人で、モデルのような長身、闊達で毅然とした演技など、女性が憧れる系の女優。ラストの処刑シーンでの鮮やかな赤いドレスもすごく似合ってて凛然としてて、湿っぽい悲しいシーンにしなかったのも素晴らしかったです。

 エリザベス役のグレンダ・ジャクソンは、もう黙って立ってる、座ってるだけで逆らう者なんかありえない、みたいな威風堂々さと迫力で圧巻です。冷徹だけど感情に流されない現実的な言動がカッコよくて、メアリーとは違う意味で女性が憧れる女王様っぷりでした。実質のヒロインはヴァネッサのほうで、グレンダはそんなに出番は多くない助演なんだけど、出てくるたびに場面をさらう強烈な存在感。たまにプっと笑えるイギリス人らしい皮肉を軽やかにかましたり、おちゃめな面もあるところも魅力的でした。メアリーに対して、女の嫉妬や羨望!みたいなありがち描写、設定は特になかったのも、ベタベタしい凡下の女と同レベルに堕さずにすんでよかったです。

 90年代に政治家に転身したグレンダが、最近政界を引退し女優復帰したのは喜ばしいニュースでした。メアリーの2番目の夫となるヘンリー・ダーンリー卿役は、4代目007として有名なティモシー・ダルトン。若くてイケメン!ダメ男を好演してました。ヴァネッサ・レッドグレイヴとはかつて恋人同士だったダルトン氏、この映画で出会ったのかな?
 衣装、お城、スコットランドの緑や海など風景も美しい。スコットランド、ますますまた行きたくなりました。もしまた海外旅行するなら、次は絶対イギリス&スコットランド再訪です!
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BL告解!

2022-08-18 | イギリス、アイルランド映画
 夏のBL映画祭⑥
 「司祭」
 リヴァプールにある小さな村の教会に赴任した若き司祭グレッグは、誠実な人柄と熱心な仕事ぶりで村民に慕われる。グレッグには夜な夜なゲイバーに通い、セックスの相手を探すというもうひとつの顔があった…
 レンタルDVDで観た時はまだ汚れなき青少年だったので、神父さま?牧師さま?があろうことか男とチョメチョメ(死語)を!と強い衝撃を受けたことをよく覚えてます。この映画、28年も前の作品なんですね~。すっかり腐った老人と化した今あらためて観ると、スキャンダラスでショッキングな映画に狎れてしまってるせいか、あの頃のウブだった自分を懐かしく思うだけです。今やBLはそんなに禁断でも罪悪でもないので、グレッグ司祭の苦悩や苦境、周囲の人々の反応など、かなり時代錯誤に映りました。別に男同士じゃなくてもいいような、ハッピースウィートでライトなBLに物足りなさや違和感を覚えてる私なので、グレッグ司祭を襲う過酷な試練はこれぞBL!な醍醐味でした。

 それにしても。グレッグ司祭、苦悩してるわりには脇が甘いというか、ほんとにゲイであることを隠す気あるの?な大胆さ、不注意さに呆れてしまいます。こっそりゲイバーに通うのも危険だけど、男と浜辺でデート&キス、あげくは白昼の路上でカーセックス未遂、お巡りさんに現行犯逮捕されるとか、おいおい~な迂闊さじゃないですか。フツーの男女のカップルだってもっとわきまえてますよ。厚い信仰心でもっても性欲は抑えられないんですね。

 この映画、観たらBLに萌える代わりに宗教や信仰について考えさせられることになります。私はまったくの無神論者なので、ほんとこういう映画を観ると戸惑うばかりです。敬虔であることは、時に人間らしく生きることを否定してるようにも見えて。若くて真面目でイケメンなグレッグ司祭を、村人たちは大歓迎して親切にしてたのに、グレッグがゲイだと知ると冷たくなる手のひら返しが怖かったです。すべての人が平等ではなく、排除していい人もいるという冷厳さは、地下鉄サリン事件や同時多発テロなどキリスト教に限らず、宗教というものには不可欠なのでしょうか。
 神の教えに背く同性愛者は汚い存在として差別偏見OKみたいな考えだけでなく、告解の内容を他言してはいけないという守秘義務も何だか狂ってるとしか思えなかった。女の子が実の父親から性的虐待を受けてると知りながら黙ってるとか、ほとんど犯罪ですよ。苦しんでる人たちを救うどころかもっと苦しめる宗教って、ほんと何なん?狭量な村人たち、忌まわしい近親相姦親父、そして無力なグレッグにイライラムカムカするばかりでしたが、救えなかった少女にグレッグが逆に救われるラストは崇高で感動的でした。

 グレッグ司祭役は、「鳩の翼」での好演も忘れがたいライナス・ローチ。優しそう真面目そうなイケメンで、誰からも好感をもたれる司祭役にぴったり。司祭服?もよく似合ってて、それでいてイケメン俳優のコスプレっぽさがなく自然。現在はすっかり枯れた熟年となってるローチ氏は、ハリー・スタイルズがBL!と話題の新作「僕の巡査」に出演してるようです。グレッグと恋に落ちる若い男役は、後に「トレインスポッティング」や「フル・モンティ」で有名になるロバート・カーライル。イケメンではないけど可愛いです。二人のラブシーンは、エロくも過激でもないけど、人気俳優がBLやるならこれぐらいはと思う適度さです。グレッグの先輩司祭役の名バイプレイヤー、トム・ウィルキンソンがいぶし銀の存在感、そして最も人間味のある役でした。
 BL映画祭、これにて終了(^^♪お目汚しありがとうございました
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週末のBL

2022-07-27 | イギリス、アイルランド映画
 夏のBL映画祭①
 「WEEKEND ウィークエンド」
 ラッセルはゲイバーでグレンと出会い、一夜を共にする。週末を一緒に過ごすうちに、二人の関係は体だけのもの以上になっていくが…
 秀作「さざなみ」のアンドリュー・ヘイ監督作。カミングアウトしてるヘイ監督のパーソナルなエッセンスを感じさせる、小粒ながらも珠玉のBL映画でした。近年すっかり市民権を得て人気ジャンルとなってるBLですが、そのほとんどは妄想好きの腐女子やイケメン好きの女性受けを狙った、非現実的なファンタジーっぽいものばかり。監督や脚本家など作り手がノンケ男性や女性だと、やはり味付けやデコレートが過剰なケーキみたいになってしまいます。その点、ゲイであるヘイ監督が描くBLは、変にドラマティックでもスウィートでもないゲイの日常生活や会話で成り立っていて、ああゲイの人たちってこんな風に関係を築いたり失ったりしてるんだな~と、その自然さ奇をてらわなさが腐には返って新鮮に映ります。リアルだけど決して生々しくはなく、フツーの男女の恋愛と変わらぬときめきや駆け引き、戸惑いもあるけど、やはり堂々ともスムーズにも進展させない葛藤や壁もある。そんなところも女性受けを狙った作り物めいたBLとは違う。きっとゲイの方々の共感も得られる映画です。

 同性愛を特別視しない人たちも増えてきてるけど、昔ながらの偏見や嫌悪を抱く人もまだ多い。そんな社会の中で絶望したり嘆いたりもしないけど、肩肘はって声高に反発したり抗ったりもしない、開き直りでも虚勢でもない、コソコソもしないけど堂々ともしない、ラッセルとグレンはイマドキの若いゲイって感じでした。ほぼ二人だけの会話劇で、特に小粋だったり心に刺さる映画的な台詞があるわけではないのですが、淡々と静かながらも二人の距離が近くなったり、価値観の違いで嚙み合わなくなったりする会話は、微笑ましくさりげなくも奥深かかったです。

 主演の俳優二人も魅力的でした。地味だけど腐にもゲイにも受けそうなイケメン。ラッセル役のトム・カレンは、キット・ハリントン主演の「ガンパウダー」では野性的で猛々しい感じでしたが、今回はすごく優しそうで可愛い!クマさんみたい!濃ゆく男らしい風貌だけど、一緒にいたら癒されそうなぬくもりが。シャイで無垢な笑顔、そしてヒゲ面だけど童顔、ツルツルな肌が若者らしかったです。グレン役のクリス・ニューは、カミングアウトしてるオープンゲイ俳優で、たまにポール・ウォーカー+ライアン・ゴスリングを地味にした顔に見えた。

 男性同士のラブシーンも、それでセックスしたことに?!な稚拙で雑な手抜きではなく、かつヘンに煽情的で生々しいものでもなく、全裸で絡み合うこともキスすることも性欲や愛があるならフツーでしょ?な自然さで好感。日本の俳優もBLやるならせめて、この作品の二人ぐらいはチャレンジしてほしいものです。ラッセルの住んでる団地?の生活感、質素だけどインテリアや食器がおしゃれなラッセルの部屋、ゲイバーでのナンパ、異性愛者の人たちとのやりとりなど、イギリスの庶民ゲイの生活風景も興味深かったです。
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はるばる来たぜヴェトナムへ

2022-04-27 | イギリス、アイルランド映画
 「MONSOON モンスーン」
 幼い頃、家族と共に戦火のヴェトナムを逃れイギリスへと亡命したキットは、亡き両親の散骨のため30年ぶりに祖国に戻るが…
 佳作「追憶と、踊りながら」のホン・カウ監督の新作。前作同様ゲイの主人公が、失われたものへの喪失感と追憶を通し、新たな自分と人生を見出す物語でした。前作は恋人でしたが、今回の主人公が失ったものは祖国、そしてアイデンティティでしょうか。戦争や政変から逃れるために生まれ育った母国を離れ、外国で生きねばならなくなった人々の苦境や郷愁は、私のような平和ボケした日本人には察するに余りあります。今なお世界のどこかで祖国を去らざるを得ない人々が後を絶たない現実に、ただもう暗澹となるしかありません。

 この映画のキットは幼い頃にヴェトナムを出たので、悲痛な記憶も強い望郷の念もなく、祖国に対しての思い入れとか好奇心は薄く、どちらかといえば30過ぎの男女によくある自分って何?これからどうやって生きよう?な、自分探しの旅っぽかったです。出生に秘密があったとか、両親がヴェトナム戦争の暗部に関わっていたとか、事件に巻き込まれるとか、そういったドラマティックな要素は皆無で、何かモヤモヤした気持ちを抱えながらサイゴンやハノイを放浪するキットの自分探しが静かに淡々と、いくぶん緩慢に描かれているため、観る人によっては退屈な映画かもしれません。「追憶と、踊りながら」のほうが、人間ドラマとしてはかなり上質です。

 ドラマとしては薄口ですが、旅好きには楽しめる映画かも。ヴェトナムの今、光と影がリアルかつ美しく映し出されていました。冒頭の交通風景、まさにカオス!これでよく事故起きないよな~なメチャクチャっぷり。ミャンマーもワイルドでしたが、ヴェトナムはさらに危険!都市部はかなり近代化されてるとはいえ、人々の生活風景などやはりまだすべての面において発展途上国。街の活気や自然の素朴な美しさ、伝統や風習など、アジアならではの異国情緒で旅心をそそられます。キットとルイスが川沿いのカフェで語らうシーンや、蓮茶を作ってるシーンなど、とてもフォトジェニックでした。ヴェトナムにも行ってみたいな~。

 キットはゲイで、ヴェトナムでも現地在住のアメリカ人ルイスや若い男娼などと色っぽい関係を結ぶのですが、ゲイだからって特に困難とか苦悩に直面するわけではなく、性欲処理も恋もノンケと変わりない感じなのが現代的。もうLGBTを特殊なものとして扱ってないのは、喜ばしい反面ちょっと物足りないというのが、正直な私の気持ち。異国で素敵な出会いがあるとか、もうそれだけでも私からしたら映画的。私もキットみたいなイケメンだったら、もっと違った海外旅行にできるんだろうな~でも異国で見知らぬ異人さんとチョメチョメ(死語)とか、恐ろしくて私には無理!

 キット役のヘンリー・ゴールディングは、小澤征悦似?オザユキを優しく薄くした感じ?「クレイジーリッチ」や「ジェントルメン」など、最近よく見ますね。実際にもマレーシア人とイギリス人のハーフで、幼い頃に英国に移住し成人して母国に戻ったという彼、見た目はアジア人ですが雰囲気や挙措は完全に西洋人。キット役にぴったりですね。ずっとポロシャツかTシャツ&短パンというカジュアルな恰好をしてるのですが、すごくおしゃれに見えました。一般人ならただの手抜きファッションになるところですが。BLシーンも頑張ってました。決して過激でも煽情的でもなく、それでいて程よくディープで濃厚な男同士の求め合い。BLやるならこれぐらいは、と思える適度さでした。ルイス役の黒人俳優さんもイケメンでした。やっぱBLはイケメンマスト
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愛怨の川くだり

2022-04-24 | イギリス、アイルランド映画
 「ナイル殺人事件」
 莫大な遺産を相続した美貌のリネットは、親友ジャクリーンから彼女の婚約者サイモンを奪い結婚。ジャクリーンは二人につきまとい、新婚旅行先のエジプトにまで現れる。偶然居合わせた名探偵ポワロの不安は的中し、ナイル川を下る客船でリネットは何者かにより射殺されてしまう。乗客全員がリネットと因縁があり、ポワロは彼らを容疑者として捜査するが…
 1978年の旧作も観たくなり、さっそく(^^♪新版も悪くないけど、やっぱこっちのほうが私は好きです。新作が失っていたブルジョア階級の優雅さやリッチさ、そして一堂に会した大物俳優や名優たち、彼らの余裕たっぷりで楽しそうな演技は、まさに娯楽ミステリー映画の見本のようです。アガサ・クリスティのシェイクスピア風アレンジとか、斬新だとは思うけど何か違う感は否めないんですよね~。

 そして何より、旅好きにはたまらないエジプトロケ!新版の最も残念な点は、もろにCGだったこと。どんなに精巧に精緻に作っても、やはり本物には及びません。エジプトの異国情緒がたっぷり味わえるだけで、この映画は一見の価値ありです。本物のピラミッド、スフィンクス、砂漠、ラクダ、そして悠久のナイル川。その神秘と壮大さ、ああ行ってみたい!リネットとサイモンが砂漠を馬で疾走するシーン、ジャクリーンが神殿に現れるシーン、ホテルでポワロたちがタンゴを踊るシーンが特に好きです。

 ポワロたちの旅は優雅でリッチでしたが、実際にはエジプト旅行って大変なんだろうな~。灼熱の暑さや不衛生さ、不便な生活環境、怖い生物など、キャストもスタッフもさぞや苦労したことでしょう。エジプトは夜間は電力不足となるので、夜のシーンはロンドンで撮影したとか。過酷な環境でも、きちんとした服装やマナー、ディナーやサロンでは正装。上流階級の人たちって大変!でも憧れます。身軽な旅ができる下級階級に生まれてよかったとも思うが
 エジプトロケと並んで魅力的なのが、俳優たちが着こなす30年代のブルジョアファッションです。登場人物たちの個性や身分に合わせた衣装の独特さと美しさは、まさに華麗なるファッションショーで楽しい!この年のアカデミー賞衣装賞受賞も納得。巨匠ニーノ・ロータの音楽も壮麗です。

 ↑ 女優たちのファッションも見どころ!
 アガサ・クリスティ映画といえば、やはりオールスターキャスト。この作品もなかなかゴージャス&シブいメンツを揃えてます。ポワロ役は、2度のオスカーに輝く名優ピーター・ユスチノフ。ポワロといえば彼、なイメージの人は多いのではないでしょうか。どっしりと恰幅のいい巨体は頼もしく親しみやすく、エキセントリックな探偵というより知的で温厚な紳士って感じなのも好感。ポアロの友人役はデヴィッド・ニーヴン、リネットの弁護士役はジョージ・ケネディと、やはり往年のオスカー俳優が豪華に配されてます。

 ベティ・デイヴィスとマギー・スミス、やはり2度のオスカーに輝く大女優二人が愉快なコメディリリーフを担当してるのも、この映画の贅沢なところ。毒々しくもオチャメな大富豪の老女ベティと、使用人なのに超エラソーでカリカリしてるマギー、二人のクセがありすぎ、かつ軽妙な珍コンビぶりが笑えます。ベティ&マギーの事件簿、みたいなスピンオフ映画作ってほしかったかも。

 リネット役のロイス・チャイルズは、高慢で冷酷な金持ち女役が似合う美しさ。ジャクリーン役のミア・ファローは、宮崎あおい似?メンヘラなストーカー女にぴったりな神経症っぽい風貌と演技。アンジェラ・ランズベリーのホゲホゲ酔っ払い演技もインパクトあり。可憐なオリヴィア・ハッセー、メイドなジェーン・バーキンも、若かりし時代の美しさで印象的。
 殺人トリックは何度見ても驚きの荒技。かなり一か八だよな~。第二の殺人とか、とりあえず脅迫者を金で黙らせておいて、船を降りてから決行しとけばよかったのに。
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でもこの国が好きよ生まれた国だから

2022-04-05 | イギリス、アイルランド映画
 「ベルファスト」
 1969年の北アイルランド、ベルファスト。9才の少年バディの家族は、貧しいながらも愛と絆で結ばれていた。だが、宗教の対立による紛争が激化の一途をたどり、子どもたちの命も危うい状況に。バディの父は移住を決意するが…
 ケネス・ブラナ監督、アカデミー賞脚本賞受賞おめでとうございます!受賞も納得の佳作です!ケネス・ブラナは俳優としては大好きなのですが、彼の監督作って正直そんなにスゴいとか面白いとか思ったことない「マイティ・ソー」は好きだけど。この半自伝的だという新作が、マイ・ベスト・オブ・ケネス・ブラナ監督作かも。すごい感動!とか、何という衝撃!とか、かつてない斬新さ!とかいった映画ではないけど、奇をてらわない真摯な演出、の中にもなにげにブラナ監督らならではの舞台的なシーンが独特でもあったり、何より憤怒と憎悪に満ちた内容になりがちな北アイルランド紛争ものを、不穏な緊張感を漂わせつつも心温まる優しい家族ドラマに仕立てていたのが秀逸でした。全然お涙ちょうだいじゃない、明るくユーモアあふれる爽やかな、干し草のぬくもり的な人情が心地よかったです。

 モノクロ映像、政治不安で物騒な社会状況の中で明るく逞しく生きる人々、監督の半自伝的な物語など「ROMAローマ」とカブるところがあります。ローマもでしたが、いつどこでテロや暴動が起こるかわからないなんて怖すぎる。私には到底、あんな危険な日常茶飯事に慣れて生きる自信はありません。愛する家族が毎日命の危険に晒されてるのに、頑なにベルファストから出ることを拒むママにイラっとしました。郷土愛や、知らない土地で暮らす不安は理解できる。私だって広島が大好きだし、できれば広島にずっといたいし、今さら県外で暮らすのはしんどい。でも、自分だけならともかく愛する子どものことを考えると、あんな状態のベルファストで陽気に気丈に生きるなんて無理。北アイルランド紛争といい、ロシアVSウクライナといい、日本に生まれてよかったと心の底から思ってしまいます。

 登場人物たちも、それらを演じた俳優たちも、みんな好感度が高くてチャーミング。主役のバディが無邪気で元気!いい子!演じたジュード・ヒルくんも、美少年ではなくフツーっぽいところがよかった。いかにも天才子役です!な鼻につく演技ではなく、すごく自然だったのが返って恐るべし。走り方が独特すぎて可愛かった!バディを子分扱いする年上のツインテール娘(バディの従姉?)もいい味だしてました。

 バディの両親役、ジェイミー・ドーナンとカトリーナ・バルフは、オスカー候補にならなかったのが不思議なほどの好演。失礼ながらジェイミーが、いい男だとは知ってたけどこんなにいい役者だとは思わなかった。超庶民のパパママ役にしては、ジェイミーはイケメンすぎ、カトリーナは美人&スタイルよすぎ、だけど、どんなシーンも絵になって素敵なカップルでした。ラスト近くの歌ってダンスする二人、若い美しい恋人同士のようなアツアツスウィートさ。見とれてしまいました。

 バディの祖父ちゃん祖母ちゃん役は、バイプレイヤーのキアラン・ハインズと泣く子も黙る大女優ジュディ・デンチ。オスカー候補になったのは、こっちのジジババのほうでした。二人とも怖らしい厳めしい見た目だけど、それとギャップのある明るく優しい演技。デンチ女史のアップと台詞で映画は終わるのですが、厳しくも哀切な表情が深い強い余韻を残します。上映時間が1時間半ぐらいなのも、長い映画が苦手な私にはありがたかったです。当時のベルファストの再現もお見事でした。ブラナ監督のポアロシリーズはCGだらけですが、こっちはリアルな生活感、ノスタルジー漂わせるセットが素晴らしいです。

 ↑ ケネブラ氏とジェイミーは同じベルファスト出身だとか。ケネブラ氏がもしポアロ第3弾を作るなら、ジェイミーも起用してほしいです。役者として一皮抜けたジェイミーですが、だからって演技派ぶった仕事せず、セクシー路線は今後も続けてほしいものです
コメント (4)
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