まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

息子をたずねて三千里

2015-07-26 | イギリス、アイルランド映画
 お松の独りアイルランド映画祭①
 「あなたを抱きしめる日まで」
 英国で娘と暮らす元看護師のフィロミナは、少女の時にアイルランドの修道院で産み、無理やり引き離された息子のことを忘れられずにいた。ジャーナリストのマーティンは、恰好のネタとしてフィロミナの息子探しに協力することになるが…
 「危険な関係」「クィーン」などの名匠スティーヴン・フリアーズ監督作品。
 にわかには信じがたい衝撃的な、悲しい、そして憤りを感じずにはいられない実話。「マグダレンの祈り」でも描かれた地獄の尼さん。望まない妊娠をした少女を修道院に監禁し奴隷のようにコキ使い、ふしだらな罪深い淫売女扱い。生まれた子供は金持ちのアメリカ人に売り飛ばすとか、非道い!神の名のもとに横行する人権蹂躙、精神的肉体的虐待、人身売買!こんなことがフツーにまかり通ってたなんて…アイルランドに行くのが怖くなってきました
 でもこの映画、まったく悲惨さや陰惨さがなく、ベタベタしい辛気臭いお涙ちょうだいでもなく、むしろ人情とユーモアにあふれた優しい温かい映画なんですよ。ヒロインのフィロミナが、超がつくほどの好人物だからでしょうか。フィロミナさん、悲しい過去を背負い、癒えない傷を抱えていても、決して他人を恨んだり憎んだりせず、人の悪いところではなく良いところしか見ない、まさに聖女のような女性なんです。でもフツーのおばちゃんでもあって、ミーハーだったり無知だったり庶民的なキャラに好感。彼女みたいな善い人が、どうしてあんなむごい、悲しい目に遭わなければならないのか。私だったら、神なんか誰が信じるか!と、恨みつらみで暗くトゲトゲしい人生を歩んでしまうことでしょう。でもフィロミナは、他人への思いやりを失わず、信仰心さえ厚いまま。人一倍の苦しみや悲しみを味わったからこそ、フィロミナは誰よりも優しく強くなれたのでしょうか、すべてを許すことができたのでしょうか。息子を探してはるばる渡ったアメリカで、フィロミナが知ることになる息子の行方には、しんみりとさせられます。神さまは、どれだけフィロミナに悲しみを与えるのだろう、と憤慨してしまいました。でも、ここでも優しく強いフィロミナの運命の受け入れかたは、崇高で感動的です。

 フィロミナ役は、泣く子も黙る英国の大女優ジュディ・デンチ。重厚で冷厳なイメージのある彼女ですが、今回はフツーの市井のオバチャンを好演。ちょっとトボけた天然キャラ演技が可愛くもありました。悲しみに対峙するシーンも、大げさに嘆いたりしない、静かに万感こもった演技が圧巻。オスカーにもノミネートされるなど、この映画でも高い評価を得たデンチ女史です。
 フィロミナを手伝うジャーナリストのマーティン役は、イギリスではコメディアンとして人気のスティーヴ・クーガン。この映画の企画は、彼の持ち込みなのだとか。知的インテリのマーティンと無教養なフィロミナのアメリカ珍道中、噛み合わない会話、やりとりが笑いを誘います。

 それにしても…ほんと当時の修道院、罪深いことをしてましたね。真実を隠蔽しようと、虚偽とか証拠隠滅とかもしたり。死産した赤ちゃんや出産で死んだ少女の墓を、罪人だから!と荒れ放題にしてたり。ほんま腹立つわ~あの修道院、放火したくなった。やってたことは残酷で醜いけど、修道院のあるアイルランド郊外は、目を洗う美しさ、清らかさでした。やっぱアイルランド、行きたくなりました♪
コメント (2)
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