まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

おひとりさまも悪くない

2017-07-09 | フランス、ベルギー映画
 お松の独りフランス映画祭③
 「未来よ こんにちは」
 高校で哲学を教えているナタリーは、それなりに充実した日々を送っていたつもりだったが、夫との離別や老母の死などで人生が突然に一変し、想定外のおひとりさまになってしまい…
 傑作(怪作?)「エル ELLE」でアカデミー賞にノミネートされ、アラ還にしてますます燦然と輝く無双の大女優イザベル・ユペール。エル同様に賞賛され、数多くの主演女優賞を受賞した作品を、ようやく観ることができました。気鋭のミア・ハンセン・ラヴ監督、女性ならではの感性も秀逸な佳作でした。

 いや~。イザベル・ユペール、ほんと素敵な女優ですよね~。今回もあらためて彼女を見てて思ったけど、女性の本当の美しさって、若いとか若くないとか、シワがあるとかないとか、スタイルがいいとかよくないとかじゃないんですよね。内面のエレガンスと知性こそ、永遠に色褪せないサファイアのような美。イザベル・ユペールは、そんな最高の美を備えてる数少ない女優です。そんなユペりんが演じたナタリーも、私が常に憧れている心のしなやかさ、軽やかさが魅力的なヒロインでした。

 熟年離婚、老母の介護と死、仕事の行き詰まり、愛する教え子との間にできた埋められない溝etc.いろんなことがコレデモカ!とばかりに突然に、一気にナタリーに降りかかってくるのですが、深刻で悲痛な不幸に狼狽えたり落ち込んだりはするものの、ガクっと絶望して世をはかなんだりせず、かといってシャカリキに戦う女にもなったりせず、淡々と時の流れに身を任すナタリーの姿が、すごく爽やかでカッコよかったです。

 突然おひとりさまになってしまうナタリーですが。ナタリーのような孤独はむしろ理想的に思えました。子どもたちは自立してるけど仲良しだし、老母も長患いなんかせずポックリ逝ったし、別れた夫とも友だちみたいな関係になれたし、彼女の孤独はかぎりなく自由に近いものでしたから。もちろん不安や納得のいかなさも消えないでしょうけど、同時に希望や優しさも失わず生きていける。そんなナタリーとは真逆で、私には悲惨な孤独死しか待ち構えてない

 フツーの女優なら、ナタリーはステレオタイプなヒロインになっていたかもしれません。イザベル・ユペールだからこそ、個性的でチャーミングなヒロインとして成立したのではないでしょうか。「エル」もだけど、今回のユペりんもクールでシニカルなんだけど、どこかシレっとすっとぼけてるんですよ。ユペりんのシレっとすっとぼけ、ほんと好き。エルほどの猛毒はないけど、ナタリーもピリっとした軽めの毒が言動にあって、クスっと笑えます。いつもはほとんど無表情なユペりんですが、今回は笑顔も泣き顔もたくさん見せてくれてるのが新鮮でした。生まれたばかりの孫をだっこしてるシーンの優しそうな彼女とか、レアな姿かもしれません。ボケ気味の老母とのやりとりとか、母のペットだった黒猫のパンドラとの関わりとか、皮肉の効いたユーモアいっぱい。

 ユペりんのファッションも相変わらずトレビアン。趣味が高い、とはまさに彼女のことです。何気ないシャツやジーパンでも、すごくエレガントでオサレに見えるんですよね~。山辺節子だと不気味な露出度の高いサマードレスや花柄のワンピースも、ユペりんだと可愛い!あと、ユぺりんのトコトコした歩き方が何か可愛かった。
 悲しいこと切実なことであふれている人生を、ドライで軽やかなユーモアで描いているところがいかにもフランス映画。家族も必要以上にベタベタせず、ほどよい距離感を保ってるところもフランス的。ナタリーとパンドラの別れもサバサバしてて、ベタベタしいペット愛着が苦手な私にはすごく爽快でした。イケメン愛弟子のファビアンとの、ただの先生と生徒にしては親密すぎる、そこはかとなく男と女の甘い空気感を醸しながらも決して一線は超えない関係も、何だかフランスっぽいカッコよさ。

 「エル」を観た人なら、より楽しめる映画かも。ヒロインの手を焼かせる奔放な老母、そしてペットの黒猫、という共通点が面白かった。エルの猫は可愛いけど何か不吉な存在でしたが、この映画のパンドラはデブだけどホッコリさせてくれました。
 ナタリーの愛弟子ファビアン役は、ミア・ハンセン・ラヴ監督の前作「エデン」にも出演していた注目のイケメン、ロマン・コリンカ。

 ちょっとガエル・ガルシア・ベルナルに似てる?ほっそりスマートになったガエル、みたいな。母親のような熟女に女の顔をさせる、若く魅力的な青年の無防備さ、残酷さも、いかにもフランスな香ばしさ。名優ジャン・ルイ・トランティニャンの孫、という血統書付きのイケメンであるロマンくん。ラヴ監督の最新作では主演だとか。楽しみですね。
 フランスの高校生って、哲学とか政治とか、ほんと早熟で知的だな~。哲学はワケワカメ~。哲学を理解し楽しめる人間に生まれたかった…
 パリ、ブルターニュ、フレンチアルプスなど、うつろう季節の風景が美しく、かつナタリーの心象と重なるように撮られています。音楽もセンス抜群です。

 ↑今年もフランス映画祭で来日してくれたユペりん。ミヒャエル・ハネケ監督の新作や、ギャスパー・ウリエル共演作など相変わらず精力的!

 ↑注目のボーギャルソン、ロマン・コリンカ。ジャン・ルイ・トランティニャンの孫という超サラブレット!異父弟のジュール・ベンシェトリも、「アスファルト」でユペりんと共演してましたね。兄弟そろって今後が楽しみ!
コメント (5)
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