まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

ひとりゲリラ 悲しみの皆殺し

2019-03-10 | フランス、ベルギー映画
 「追想」
 ナチス占領下のフランス。医師のジュリアンは、愛する妻のクララと一人娘のフロランスを田舎に所有する城に疎開させる。数日後、妻子のもとへ向かったジュリアンを待ち受けていたのは、ナチス親衛隊によって虐殺された村人のむごたらしい姿だった。クララとフロランスは…
 戦争に翻弄された男女の悲しくも美しいラブストーリー…かと思いきや。フランス映画とは思えぬ過激で残虐な暴力シーンてんこ盛りで、観ていて目がテンに、お口もポッカンとなりましたとにかくナチスドイツの鬼畜な蛮行と、ジュリアンの壮絶な復讐劇が、目を背けたくなるほどのエゲツない、エグいヴァイオレンスで描かれています。輪姦した女を火炎放射器で焼き殺したり、いたいけな子どもも容赦なく射殺したり、残忍な殺戮がこれでもか!と。ここまでしなくても、と思わずにはいられない非道さなのですが、特に火炎放射器の禍々しさ!恐怖効果は絶大。小心な人が観たらトラウマになるので要注意です。

 村の教会での惨劇を目の当たりにし、ショックと怒りで錯乱したジュリアンがキリスト像やマリア像を破壊するシーンがあるのですが。クララのような優しい女性が、フロランスのような何の罪もない子どもが、どうしてあのような無残な目に遭わねばならないのでしょう。まさに神も仏もない、神仏を呪いたくなる戦争の悲劇です。ドイツ人にとっては、これも観るのが辛い映画だろうなあ。鬼畜ナチスを演じたドイツ人俳優たちも、仕事とはいえさぞや苦痛だったことでしょう。
 聞けばこの映画、あのクエンティン・タランティーノ監督に多大なる影響を与えたとか。ナチスどもを問答無用に殺しまくるジュリアンは、タラ監督の「イングロリアス・バスターズ」のナチスハンターとカブります。一見フツーのおじさんであるジュリアンが、復讐の鬼と化してゴルゴ13も真っ青な凄腕の殺し屋になって大活躍?する姿が、悲壮なんだけど痛快でもあります。悪人を始末する必殺仕事人を見ているようなカタルシスを得ることができます。

 ナチスを殺しまくる壮絶ヴァイオレンスの中、ジュリアンの回想シーンが挿入されるのですが。クララとのロマンスがあまりにも優しく幸福で、すさまじい血まつりとは真逆でギャップありすぎ。そのコントラストで、戦争と復讐の惨さ悲しさ、幸せの美しさ尊さを互いに引き立たせる構成となっています。「冒険者たち」や「若草の萌える頃」など、瑞々しく叙情的な作品で知られる名匠ロベール・アンリコ監督作品らしく、映像に音楽にも最近の映画にはない詩情の豊かさと甘美さがあふれてます。とても戦争中とは、ナチスの虐殺があったとは思えぬほどの美しく牧歌的な田舎の風景も目に、胸に沁みます。ジュリアンが必殺仕事人となって神出鬼没、縦横無尽に駆け巡る古城も美しく、かつ隠し部屋やマジックミラー、地下迷路など忍者屋敷みたいで面白かったです。

 ジュリアン役は、「ニュー・シネマ・パラダイス」などで知られるフランスの名優フィリップ・ノワレ。美男やイケメンではなく、彼のような親しみやすい風貌のおじさんが演じたからこそ、悲しみもより深まったように思われます。おじさんとは言っても、さすがフランス男。ポケットに手を入れて立ってる姿とか、煙草を吸ってる姿、クララへのキスや抱擁も、サマになってるというか大人の男って感じでカッコいい!
 この映画最大の魅力、見どころは、やはりクララ役のロミー・シュナイダーでしょうか。

 ロミーほど、悲しみが似合う女優、悲しみを美しくする女優はいないかも。代表作のひとつであるこの作品でも、ロミーの美しさは圧倒的かつ切ないです。当時37歳、女としても女優としても最盛期の頃で、今の女優にはない香り高い情感にあふれています。美しいけど、なよなよと儚げな手弱女ではなく、見た目も精神も力強い生命力にあふれていているところがロミーの魅力。この映画のロミーも、悲劇的な運命に翻弄されるヒロインというイメージそのものな役を演じているのですが、自分らしくしなやかにたくましく生きて恋した女としても、神々しいまでの輝きを放っています。
 
コメント (4)
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