まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

ご長寿犯罪!

2019-03-15 | 北米映画 15~21
 「運び屋」
 ないがしろにした妻子とは絶縁状態、事業にも失敗して何もかも失った老人アールは、荷物を運ぶだけの仕事を持ち掛けられ引き受ける。運んでいるものがマフィアの麻薬であることを知ったアールは…
 詐欺の被害や生活苦などで追いつめられた高齢者が、心ならずも犯罪に手を染めてしまうシリアスな社会派ドラマ、かと思いきや。お年寄りはやっぱりエラい!お年寄りも頑張る!な敬老コメディだったので、観ていて戸惑ってしまいましたアメリカ人ってほんとノーテンキだよな~と、主人公とマフィアの連中とのやりとりに呆れるやら笑えるやら。とにかくアール爺さん、調子ぶっこきすぎ!一回だけにしときゃいいものを、楽に大金を稼げることに味をしめて、だんだん自主的に楽しそうに仕事に励むようになるアール爺さんには、躊躇や苦悩、罪悪感などほとんどなく、それどころか若いマフィアの連中からチヤホヤされたり頼りにされたりで上機嫌、稼いだ大金で家や新車、貴金属など買ったり、友人の店を援助したり、女遊び!したりと、とんだリア充老人なんですよ。それがちょっとコメディタッチで描かれていて笑える反面、調子に乗るなジジイ!早く捕まれ!とイラっともしました。

 世のため人のためになることをしているのなら応援、尊敬もしますが、やってることは反社会的勢力の手先、犯罪行為。アールが頑張れば頑張るほど、麻薬が多くの人の手に渡ることになるんですから、彼を老境や逆境の中で挫けずたくましく闘うヒーローと見なすことはできません。お気楽な犯罪行為のみならず、家族との関係からもアールの人間性が疑われます。家族とヨリを戻すのも金で、な考えと行動に反感。家族もせっかく許してあげたのに、マフィアの運び屋をして逮捕・裁判とか、どこまで迷惑、恥をかかせれば気がすむの。アールの妻も娘も、人が善すぎる。孤独な老人がいきなり羽振りがよくなって、景気よく散財しているのに誰も不審がらないのも、私には不思議で仕方がありませんでした。

 年寄りであることがハンデではなく、かなりの武器になってたのも笑えたけど、違和感も覚えました。アールが何をしても言っても、年寄りだからとみんな許してくれたり油断してくれるんですよ。マフィアも警察も、年寄りにはとても優しいんです。年寄りに甘い社会、そしてそれにつけ込む年寄り、という私の周囲でもよく見かける構図が何かイヤでした。でもまあ、高齢者が非道い目に遭う姿は見たくないので、爺さんと若者たちのジェネレーションギャップやふれあいを明るくほのぼのと描いていた点は評価したいです。

 アール役は、監督も兼ねている大御所クリント・イーストウッド。久しぶりの俳優業。御年90歳!すっかり爺さんになりましたね~。まさに枯れ木のような風貌で、ヨボヨボしい動きにハラハラしてしまいましたが、90歳で演技も監督もできるなんて、ほんと驚異的な非老いぼれ!仕事に熱心で女好きで、自分勝手だけど憎めない愉快な人柄で、マッチョな思考とマッチョなプライドの塊なアールは、まさにクリント御大そのものなキャラ?劇中、ニグロだのタコス野郎だのと黒人やメキシコ人を差別用語で呼んだりするのですが。悪意や邪気は全然なく、親しみのこもった愛称みたいに使ってるのが、アメリカの人種差別のカジュアルな根深さを表しているようで、ちょっと怖かったです。人種差別だけでなく、男尊女卑で女性蔑視な価値観もアール=クリント御大からは感じられました。ちょっとトランプ大統領とカブるわ。

 セクシーねえちゃんたちを相手に裸になってハッスルする、クリント御大のバイアグラ不要っぷりも笑えた。ヨボヨボ爺のアールに、コワモテのマフィアも警察もほとんど手を出さず、気圧されたり一目置いたり大事にしたりするのも、演じてるのが超大物であるクリント御大の威光ゆえでしょうか。この若造どもが!という捨て台詞が、クリント御大ほど似合う爺はいません。フツーの爺さんならショック死する危機でも平然としてる姿は、かつてマカロニウエスタンやダーティハリーで壮絶な修羅場をくぐってきたクリント御大ならではでした。
 運び屋を追跡するFBI特別捜査官役で、大好きなブラッドリー・クーパーが出演してます。

 ブラパ、今回もめっちゃカッコよかった風貌は男性的だけど雰囲気がスマートで優しく、スターのオーラがダダ漏れしてるので、もうフツーの市井の男性役は無理かも。いい男ぶりにときめきましたが、別にブラパでなくてもいい役で、同じクリント御大の監督作「アメリカン・スナイパー」での熱演に比べると、特筆するような演技はしてません。師匠であるクリント御大に頼まれたから喜んで無条件で出た、みたいな感じ。そーいやブラパの初監督作「アリー スター誕生」は、クリント御大から引き継いだ作品でしたね。

 ブラパの相方捜査官役のマイケル・ペーニャは、最近ちょっと風貌も役柄もマーク・ラファロ路線になってきてるような気が。いい男!と思ったのが、アールの見張り役になるマフィア役のイグナシオ・セリッチオ。はじめはクソジジイが!とカリカリプンプンだったのに、いつしか気を許して親しみを抱くようになる様子が、何か犬が懐くみたいで微笑ましかったです。マフィアのボス役がアンディ・ガルシアだったとは!ぜんぜん気づかなかった!アールに運び屋の仕事を紹介する若い男もイケメンだった。それにしても。情にもろいマフィアだったな~。極悪冷酷なはずの男も、アールは奥さん亡くしたばかりだから、と同情して殺すのためらったりしてたし。そのせいで、ラストのアールのピンチも緊張感が薄まってしまった。ちょっとホロ苦いハッピーエンドも、麻薬の運び屋なんてダメ!ぜったい!という教訓にならなかったので残念。

 ↑派手な女性関係の結果、たくさん子どもがいるクリント御大ですが。寝たきりになって介護を引き受けるのは、実子たちじゃなくてひょっとしたらブラパかもしれません…

 ↑ ラテン系男前イグナシオ・セリッチオは、主にTVで活動してるみたいです。映画にももっと出て!

コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする