まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

お手伝いさんは見た!

2019-05-06 | 南米映画
 「ROMA ローマ」
 1970年のメキシコシティ、ローマ地区。医者のアントニオ一家宅で住み込みの家政婦として働くクレオは、恋人の子どもを身ごもっていることに気づくが…
 今年のアカデミー賞で、監督賞、外国語映画賞、撮影賞の三部門を受賞したnetflix映画。映画は劇場でかネット配信でか、という論争の火種となった映画でもあります。公開後、かつてないほどの大絶賛の嵐を巻き起こした話題作。映画ファンなら鑑賞マストとは思いつつも、有名スターは一人も出ておらず、お話も私好ではないので、netflixに加入してまでは…とスルーしていたのですが、突然広島でも劇場公開が決定し、タイミングがいいことに映画の日が休みだったので、それならばやっぱ観ておこうと映画館へ。GW中ということもあってか、すごい盛況!あと一歩遅ければ満席でアウト!になるところでした。いったいどんな傑作なのかしらん?いや、あまり期待はするまい。世間の傑作が私にとっても傑作になるとは限らない。私のような低能ミーハーには敷居の高い、意識高い系映画ファンの方々向けの高尚なゲージュツ映画、つまり気取った退屈な映画!過大評価を嗤うことになるだろうというヒネクレた予想は、見事にハズれました。評判通り、とっても佳い映画でした!

 お話じたいは特殊なことが起きるわけでもなく、特異な登場人物が出てくるわけでもなく、クレオの家事や子守や友達付き合いをする姿を淡々と静かにカメラで追ってるだけで、しかも3時間近くもある長い映画とくれば、通常なら私にとっては苦痛以外のナニモノでもないはずなのに、あら不思議!ぜんぜん退屈しなかったし、ラストなんか不覚にもホロっと涙腺が緩んでしまった。決して感動を押し付けてくるお涙ちょうだい映画ではないのに。なぜグイグイと惹きこまれ、あまつさえ感動してしまったのでしょうか。

 意識高い系映画ファンの方々のように、ここがスゴいから!と的確に指摘はできないのですが。やはり映像と演出の成せるわざでしょうか。まさにマジカルでした。何でもないように見えることが、この世で唯一無二な宝物であることに気づかせる魔法のような映像と演出なんて、やはり凡百な監督には不可能。この映画で2度目のオスカー監督賞を受賞した(外国語映画では初の快挙?)アルフォンソ・キュアロン監督は、やはり傑出した才人ですね~。
 モノクロ映像なのですが、古いクラシック映画とかでなじみがある白黒とは何か違うんですよ。清冽な白黒というか。色がないのに鮮やかな印象。人々や街、自然の動きを追うカメラワークは、観客に映画の中へと入り込んでしまったかのような感覚を与えてくれます。暴動シーンや海のシーンなど圧巻のダイナミックさで、ネットでよりも映画館で観るべき映画だな~と思いました。サスペンス映画でもアクション映画でもないのに、緊張感と緊迫感あるシーンにハラハラも何度かさせられました。暴動シーン、クレオが無事赤ちゃんを産めるかどうかな病院のシーン。そしてラスト近くの海のシーンには、え!やめて!最後の最後になってまさか悲劇が?!と、すごい気をもまされました。そういう観客を翻弄する演出も秀逸。空を飛んでる飛行機とか、背後に映ってるものが話とは関係ないのに何か気になってしまう、というシーンも多かった気がします。
 
 ほのぼのと温かいユーモアも、この映画の魅力でしょうか。笑えるシーンもたくさんあって、車の車庫入れシーンとか(車の扱い方が雑すぎ!)武術の先生とか、いい味だしてました。登場人物たちもみんないい味。ゲス人間は出てくるけど、悪人は一人も出てきません。クレオも出しゃばらないカワイコぶらない、でも優しさと真摯な献身にあふれたヒロイン。市原悦子みたいにのぞき見なんかしません。悩みや痛みを抱えても、ヘンにドラマティックに振る舞ったりしないところが良かったです。クレオが仕える一家は、騒々しくもイキイキとしていて、私もあんな風に仲良くケンカしてみたかったな~と羨ましくなりました。子どもたちは元気ありすぎ!だけど可愛かった。三兄弟は、将来イケメンになりそう。監督の少年時代を題材にしてるらしいけど、末っ子が監督なのかな?

 ママが超いい人!ちょっとキツい言動もするけど、気風と気前がよくてサバサバした男前マダム。身分は違えど、同じ女性であるクレオへの、決して上から目線ではない思いやりや労りが感動的でした。クレオ、あの一家が雇い主で本当にラッキーでした。「沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇」のブルジョア一家&家政婦に、この映画を観せてやりたいです。フランスのブルジョアと違い、メキシコのブルジョアは生活感ありすぎ。ゲス野郎なパパとクレオの彼氏も、最低男なんだけど何となく滑稽なキャラでもあったおかげで(デカいイチモツをブラブラさせて武術の練習してる彼氏が笑えた)こんな男いるいる~と、不快感よりも親近感。あと、犬も笑えます。ウンコしすぎ!当時のメキシコの、不穏な社会情勢や格差社会も興味深く描かれていました。社会派映画的な告発調じゃないところも、この映画の美点。

 ↑ アルフォンソ・キュアロン監督、俳優顔負けの男前。「天国の駅、終わりの楽園。」とかまた観たくなってきました(^^♪
コメント (8)
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