まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

バックシートに、いい男

2022-01-14 | 日本映画
 「ドライブ・マイ・カー」
 俳優兼演出家の家福は、脚本家である妻の音と深く愛し合っていたが、音が夫以外の男に抱かれていることを知っていた。音はくも膜下出血で急死し、その数年後家福は演劇祭の舞台を演出するため、開催地の広島に滞在することに。製作者側から渡利という若い女の専属ドライバーをつけられ不満に思う家福だったが、しだいに彼女の運転技術と寡黙さに安らぎを覚える。舞台のオーディションを受けるため人気俳優の高槻が現れ、家福は動揺する。高槻は音の情交相手だった…
 昨年のカンヌ映画祭で絶賛され、現在アメリカの賞レースも席巻中。アカデミー賞ノミネート、いや外国語映画賞の受賞は確実と目されるなど、久々に海外で邦画が高く評価されて、日本人としては誇らしいかぎりです。近年の邦画の凋落、質の低下は目を覆うばかり。韓国映画には完全に追い抜かれ、オスカー受賞の「パラサイト」や「ミナリ」でその差は広がるばかりな嘆かわしい現状。なので、邦画はまだ死に絶えてない、邦画も捨てたもんじゃない、という希望の光のような作品にやっと出会えたような気持ちです。村上春樹の短編小説を映画化したものなのですが、恥ずかしながら私、春樹センセイの小説って読んだことがない💦私のような下等人間には、ちょっと敷居が高いイメージなんですよね~。春樹センセイの愛読者って、すごく意識高い系って感じ。映画化された作品の「ノルウェイの森」も「バーニング」も、面白く思えなかった自分のほうが悪いのかしらん?と軽い自己嫌悪に陥ってしまい、以来ますます敬遠するようになった春樹センセイなので、この作品もまた…と不安を抱きながら観たのですが、それは杞憂に終わりました。評判にたがわぬ秀作でした!

 何年か前にアカデミー賞の外国映画賞を受賞したモックン主演の邦画は、これがオスカー受賞?!と観ながらキツネにつままれるような思いに襲われましたが、こちらは高評価に納得。面白かったとか、感動したとかとか、ユニークなとか、映画を褒める時に使う常套句はちょっとそぐわない不思議な映画。決してワケワカメな難解映画ではないのですが、男と女の心の機微や襞、性の深淵の不可解さを観る者に突きつけ、そして考察させる大人の映画でした。地味に静かに物語は紡がれているのですが、時々え?!な驚きと衝撃を投下してきたり、その時は意味不明だったことが後でそういうことだったかと腑に落ちたり、設定にもキャラにも映像にも奇をてらわずに惹き込む脚本が、まずもって秀逸と言えるでしょう。3時間近くの上映時間が、ぜんぜん苦じゃなかったのがその証でしょうか。

 登場人物たちの、まるで文学を朗読しているかのような台詞も印象的です。家福夫妻が交わす、JKが好きな男の子の部屋に空き巣するという創作話とか、続きが気になる使われ方をしていて、その衝撃的な結末にも脚本うまいな~と感嘆させられました。夫を深く愛しながらも他の男との情交を止めない妻、それを苦悩しながら黙認している夫。心の空漠とセックス、そして創作の関係性も興味深く描かれていました。演劇関係者の高尚な心理や葛藤が、私のような凡人にはほとんどファンタジー、ゆえに魅力的でした。舞台が製作される過程、オーディションとか稽古とか舞台裏の描写とか、ガラスの仮面みたいで面白かったです。

 出演者もみんな、大熱演とか肉体改造とか派手なものではなく、地味で静か、だけど抱えている痛みや闇が観る者の胸を衝く演技で素晴らしいです。主人公の家福役の西島秀俊、顔のシワも弛みもいい感じに年齢を重ねた大人の男、いい役者になりましたね~。懐かしの「あすなろ白書」世代には隔世の念ではなかろうか。もともと好きな俳優さんですが、なかなか観たいと思える作品に出てくれないんですよね~。俺って演技が巧いだろ?的な俳優と違って、どこか不器用な感じが返って魅力的。何より、いい男!シブくて色気ある熟年になったけど、どこかまだ何となく可愛い。舞台の上でワーニャ伯父さんを演じてる時の彼、あどけない少年みたいに見える表情があったり。

 冒頭、初登場シーンは妻との営み後と思しきベッドで裸!だったのも驚喜でした。ほどよく脂ののった裸体は、妻とのセックスシーンでも披露。お尻まで出して絡んでた。これって最近の邦画、日本の人気俳優には稀有。西島さんの濡れ場だけでも一見の価値あり。すごいエロい!大胆!ではありませんが。家福が名声も才能もあるのにエキセントリックにギョーカイ人ぶっておらず、すごく優しくて紳士的だったのも西島さんに合っていて好感。たまには極悪人とかクズ男ゲス男な西島さんも見たいけど。

 高槻役の岡田将生も、これまで見た中でベストかもしれない好演でした。岡マ、ほんまキレイな顔。イケメンじゃない、美男、ていうか、美人?一緒のシーンのある女優さんが可哀想になるほど。透明感があって優しそうだけど、たまに怖い、不気味なほど酷薄で冷酷な顔に見える、そういうところも彼の個性と魅力。普段着、稽古の時の衣装も、すごく都会的でおしゃれ!美貌だけでなく、まとう雰囲気も一般人にはない清らかな華があります。美貌と才能に恵まれて、人柄もいいのに、ヤリチンで喧嘩っ早いせいでトラブルが絶えない高槻を無邪気に爽やかに、かつ何か底の知れない闇を感じさせる目つきや表情で薄気味悪く演じた岡マ。終盤、車の中で家福に音のことを話すシーンでは圧巻の長台詞!俳優としてステップアップしたな~と感嘆しました。もうキレイなだけの俳優ではないことは確かです。それにしても。高槻を見ていて思ったけど、役者さんってほんと業の深い生き物なんですね~。

 西島さんと岡マに勝るとも劣らない好演だったのが、ドライバーの渡利役の三浦透子。この映画で初めて彼女を知ったのですが、ちょっと田畑智子似?最近の日本の映画、ドラマはいつも同じようなメンツの、キレイカワイイだけ女優ばかりなので、透子ちゃんがすごく新鮮に思えました。見た目や演技にもヘンなアピールがなく控えめな、感情を表に出さない無表情さ、余計なことは言わない寡黙さなどニヒルでクール、卓越したドライビングテクニックなど、渡利のキャラは若い女の子ではなくほとんど男でカッコよかった。家福とは男と女ではなく、ゆっくりと信頼関係を培い、ラストには父と娘のような思いやりを寄せ合う関係になるのが静かに感動的でした。
 この映画、やはり何と言っても広島ロケ!私、まったく予備知識なして観に行ったので驚きました。「仁義なき戦い」や「孤狼の血」シリーズとはまた違う、文化的で美しい広島の風景、雰囲気が嬉しかったです。広島県民には馴染みある平和公園周辺や流川、新天地公園、高速4号線etc.特に印象的だったのは、ゴミ処理場の中工場。なかなかシュールな映えスポット!今度わしも行ってみようかのお。瀬戸内海も美しく撮影されているのですが、家福が広島滞在中に宿泊する家があったのは、安芸灘大橋を渡ってたから大崎下島?広島から車で1時間ぐらいで行けるの?!
 家福が演出する舞台のワーニャおじさんが、日本人だけでなく韓国人や台湾人など多国籍多言語、手話も使われてたのが独特でした。特に韓国色が色濃かった。ラスト、ある人物が韓国にいたのはどういうこと?これにもあれこれ想像、考察させられます。

 ↑ 劇中劇のワーニャおじさん、ぜひこの二人で実際にも舞台化してほしいものです。舞台にも積極的な岡マ、「ガラスの動物園」もうすぐ観に行くけんね~!

コメント (6)
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