



ニューヨークのストリップダンサー、アノーラは若いロシア人の客イヴァンと恋に落ち、ラスベガスで衝動的に結婚する。大富豪であるイヴァンの両親は二人の婚姻を無効にするため、配下の男たちを差し向けてくるが…
今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門で受賞した話題作。その快挙には、少なからず驚かされました。時代も変わったな~。一昨年の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」もですが、保守的な高齢映画ファンを突き放すような、置いてけぼりを食らわすような作品が、高く評価される傾向にあるみたいですね。毒にも薬にもならない映画、子どもだまし老人媚び映画とは真逆な、画期的で刺激的でリアルな大人向けの映画だったことは、新鮮な驚きではありました。コンプラ、ポリコレまみれな今、よくこんな映画を作れたな~と感心するばかりでしたが、ストーリーにも登場人物たちにも共感や好感を抱けなかった、むしろ観ていて観終わって不快だったのが、世間の絶賛とちょっと温度差、引っかかりがあり戸惑っています。

娼婦(って表現は、今はNG?)が大金持ちの男と恋に落ちて…という設定は、「プリティ・ウーマン」と似ているのですが、ロマンティックでスウィートハッピーな展開にならないところが、この映画のミソ。底辺の女が、人もなげな金持ちに弄ばれ傷つけられ貶められ、ゴミのように捨てられ泣き寝入りという話に、どうやって面白がったり感動したりすればいいのでしょう。ヒロインのアノーラが、愚かすぎて同情できなかった。あんな子どもみたいなボンクラ男に期待や夢を抱くなんて、世間ズレした女にしては甘すぎる。ダメだこりゃ!と早く見切りをつけて、潔く気風のいいところを見せてほしかった。最後に何かしらギャフン!と言わせる意趣返しとかあれば、ちょっとはすっきりなカタルシスを得られただろうけど、そうはならなかったのが後味悪くて残念。苦い結末に、理不尽な格差社会のどうしようもなさを思い知る…そういう現実から逃避したくて映画やドラマを観てる私からしたら、ただもうしんどいだけです。

イヴァンのことを心底愛してるのではなく、ナメられてたまるか!な意地とプライドで彼を追跡、追及するアノーラの執念深さとバイタリティが圧巻なのですが、あんな形で女性が強さや誇り高さを発揮するよりも、傷ついたり損したりする事態をうまく回避できる賢さと冷静さを得られたらと、アノーラのデスパレートさを見ていて痛感しました。
ドタバタコメディ仕立てにはなってるのだけど、みんなギャーギャーうるさすぎ!みんなが同時にわめき散らしたり激しく動き回ったりするシーンが多いので、目と耳が疲れました。下品すぎる罵詈雑言の嵐、セックスシーンの多さなど、家族や恋人と一緒に観たら気まずくなること必至なのでご注意を。独り、あるいは女ともだちと観るのがおすすめ。同じ女性として、アノーラの言動や生き様について語り合うのも一興。

アノーラ役でアカデミー賞主演女優賞を獲得したマイキー・マディソンの、大胆で生命力あふれる激演に圧倒されました。まだ25歳!日本のキレイカワイイだけ女優には到底不可能な役と演技。中東系?の顔も独特。ヌードやセックスシーンが、エロいけどあっけらかん。怒涛の喜怒哀楽、ご本人もさぞ演じていて疲労困憊だったことでしょう。
若いロシア人俳優二人も、なかなかのインパクト。イヴァン役のマーク・エイデルシュテインが、可愛い!とんでもないバカ男、クズ野郎な役だけど、愛嬌たっぷりで何か憎めない。まだ高校生みたいな風貌なので、全裸やセックスシーンが何だかヤバい感じ。エッチが寸止めになってはいたパンツ、勃起したままでテントはってるのがリアルで衝撃的でした。


イヴァンの親が送り込んだ男たちの一人、イゴール役でオスカーの助演男優賞候補になったユーリ・ボリソフの好演と存在感も特筆に値します。イカつい見た目、腕っぷしも強いけど心優しいイゴールは、唯一好感がもてるキャラでした。アノーラへの目線や態度ににじむ、不器用な優しさが可愛くも切なかったです。
イヴァン親子の金持ちっぷりとゲスっぷりが、ほんと不愉快で腹立たしいです。あんな金持ち、社会にとって有害でしかないわ。金もってると品性を失ってしまうんですね。あんな下劣な金持ちにへいこらしなきゃならないなんて、ほんと貧乏って悲しい。それにしても。アノーラはあの程度ですんで幸運ですよ。実際のロシアのオリガルヒなんて、マフィアみたいなもんでしょ?もっと非道い目に遭わせますよ。プーチンさんの息子に同じことしたら、確実に抹殺されるでしょう。おそロシア!ショーン・ベイカー監督の旧作も、下々の人々の哀感をユーモラスに描いているらしいですね。けっこう長い上映時間を、あまり苦痛に感じさせなかった演出力が見事。アノーラとイヴァンがベガスで結婚し、路上ではしゃぐシーンが好きです。

↑ ロシアの俳優がアメリカ映画に出演、というのも新鮮でした。今後の活躍に期待

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