「イニシェリン島の精霊」
1920年代、激化するアイルランド本土の内戦をよそに、平和な日常を保っていたイニシェリン島。気のいい独身男パードリックは、親友のコルムから突然絶縁を宣告され…
数年前に絶賛された「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督待望の新作。早くも2023年マイベストかもしれぬ映画を観てしまった!現在アメリカの賞レースを席捲中で、来たるアカデミー賞でも多部門でノミネートされてるなど、絶賛の嵐に高まった期待を裏切らぬ、いや、期待を上まわる秀作でした!いや~ほんま面白かったです!こういう滑稽で狂ってる映画、大好き!いちおうコメディ映画ということになってますが、笑えると同時にゾっとするような人間関係の歪みや心の暗い深淵、狂気が描かれていて、とにかく奥が深い内容。それをすごく面白い話にしてるところが驚異。マクドナー監督の洞察力と脚本家としての才能には畏怖あるのみです。決して貶めるつもりはないのだけど、この映画が最高級の食材(脚本、演出、演技)で作られた絶妙な、世にもまれな珍味の料理だとすれば、キムタク主演の某時代劇大作は糖分と脂肪が多いジャンクフード、に思えて仕方がないです(ジャンクフードも好きですが(^^♪)。
昨日まで仲良くしていた親友から突然、おまえのことが嫌いになった、もう話しかけてくるな、なんて冷たく言われ相手にされなくなったら…私もパードリックみたいに困惑し周章狼狽、落ち込んだり原因を知ろうとしたりするでしょうけど、あそこまで頑として拒絶されたら怒りや不快感のほうが勝って、何様のつもり?!こっちこそおまえなんか要らんわ!と相手以上の嫌悪で絶縁上等!となるでしょう。さすがにそんな経験はないけど、この映画のキーワードである絶交…大なり小なり、友情にしろ恋愛にしろ血縁関係にしろ、生きていれば誰でもしたりされたりはありますよね。あんなに仲良しだったのに、ふとした言動で相手の本性にハっと気づいてしまい、それが耐えがたくなって距離を置き、いつしか関係はフェイドアウト。同様に、あんなに親密だった人がよそよそしくなり、気づけば連絡もくれなくなり没交渉に。私もどっちもあります。どちらも寂しい悲しいことだけど、人生には築けば崩れるものある、来れば去るのも必定なのよと、私を含めほとんどの人は後ろめたさや割り切れなさと折り合って、他にもいる大事な人や新しい人との関係に目を向けるものですが、パードリック&コルムはそうはならなかった。その人間関係こじらせっぷりが壮絶すぎて笑える、けどサイコちっくで怖い!
まず、パードリック。ほんとアホみたいに人のいい、愛さずにはいられない男。一方的な絶縁宣告にオロオロする姿が可哀想!なんだけど、見ているうちにコルムの気持ちも理解できてくるんですよね~。こんな奴とずっといたら、こっちまでアホになりそうという恐怖。無知無教養なのはまだいいとして、コルムの心情を察することなど到底できない、何を言っても伝わらない鈍感さが致命的でした。さらにあのしつこいかまってちゃんぶり、執着もヤバすぎる。ほとんどストーカーと化してましたし。救いのない悲惨な状況になっても、この期に及んでまだ友だちに戻れると信じてるの!?な無邪気すぎる言動には、もう笑うしかなかった。愚鈍だけど善良で見た目も悪くないし仕事も真面目だし、恋人か嫁を見つけるとか酪農業を発展させるとか、もっと他にできることあるじゃろ~と呆れつつ、狭い世界に埋没してると愛とか夢とか向上心とか見つかりようがないんだな~と戦慄も。
次にコルム。話が進むうちに、こんな所でこんなバカと死ぬまで一緒、という人生に対する彼の絶望や焦燥、閉塞感、孤独が伝わってきて、冷たくされるパードックよりも可哀想に思えてきます。善人だけど愚かで退屈なのは、パードリックだけでなく他の島民も同じなのに、コルムがパードリックだけを徹底的に自分の人生から排斥しようとしたのはなぜ。絶交しても、パードリックが非道い目に遭ったりすると、そっと助けてくれたりするコルムの優しさはいったい。考察しがいのある複雑で興味深い心理です。コルムにしろパードリックの妹シボーンにしろ、頭がよく感受性が強い人にとっては、イニシェリン島のような閉鎖的で非文化的な、平和だけど何もない土地は地獄みたいなもの。シボーンのように自由を求めて島を出ることもできない老人コルムは、やはり人知れず精神崩壊してしまったため、あのような常軌を逸した頑なな拒絶、そして狂気的な自傷行為へと至ったのでしょうか。気の弱い人は要注意な血生臭さ、野蛮さです。まったく解かり合えず受け入れられず、どんどん険悪に過激に悪化していく終止符の打てない争いが、アイルランド内戦と重なるところも秀逸な脚本です。
パードリック役のコリン・ファレル、キャリア最高の名演かも!大好きなコリン、もう長いことファンやってますが、ついにキター!!って感じ。オスカーにも初ノミネート!👏受賞すればファンは感涙の欣喜雀躍!今コリンの受賞のため、願掛けの酒断ちしてますハリウッド的な大ヒット狙い作品ではなく、才ある気鋭の映像作家作品で個性と演技力を深め、年齢を重ねてじわじわといい役者へと進化していったコリン。マクドナー監督にも寵愛され、「ヒットマンズ・レクイエム」「セブン・サイコパス」に続いての主演。いや~演技も見た目もコクが出てきたというか、味わい深くなりましたね~。故郷アイルランドが舞台だったためか、素朴な田舎者っぷりが自然すぎる。あの見事なまでの八の字眉、傷ついた子犬のような瞳、デカい図体で男くさい風貌なのに、頑是ない少年みたいで可愛すぎる!私なら、くだらない話しかできない粗末なオツムでも、コリンみたいな男なら邪険にするどころか溺愛しますよ。じゃれてくる大型犬みたいで可愛いじゃん!
可哀想なんだけど、確かにイラっとさせウンザリさせる、でも憎めない男を可愛く、そして何かやらかしそうな不穏さも漂わせながら、珍妙・絶妙に演じたコリンに喝采あるのみです。
コルム役のブレンダン・グリーソンも、「ヒットマンズ・レクイエム」に続いてのマクドナー監督作出演。恬淡と頑迷な、静かなる狂気の演技には何度も息をのみました。神父への教会での告解シーンが笑えた。シボーン役のケリー・コンドンも、アホの子ドミニク役のバリー・コーガンも、オスカー候補も納得の好演。神父やドミニクの父である警官、噂好きな雑貨屋のおばはん、死神ババアなど脇キャラも、笑えるけど身近な人や自分自身ともカブる凡庸さ性悪さ卑小さで、そういう人間の描写にも唸らされる作品でした。
俳優たち同様、ロバや犬、馬など動物たちの名演も驚異的で素晴らしかったです。特にパードリックが可愛がってたロバのジェニーが可愛い!赤いリボンつけてたり、パードリックと散歩や仲良くしてるシーンにはほっこり。イニシェリン島は架空の島で、ロケはアイルランドのアラン諸島で行われたとか。現代社会から隔絶された原始的な生活、荒涼とした清冽で神秘的な風景。その素朴な美しさに心洗われ、そして圧倒されます。数年前に行ったイニシュモア島を懐かしく思い出しました。また行きたくなりました。パプの黒ビールも美味しそうでした。
↑ コリン、ゴールデングローブ賞受賞おめでとう!次はオスカーだ!ブラピとのツーショット。若い頃は似非ブラピなんて揶揄されてたコリンも、今やブラピと肩を並べるまでに。共演NGではなさそうなので、ぜひW主演作を!
1920年代、激化するアイルランド本土の内戦をよそに、平和な日常を保っていたイニシェリン島。気のいい独身男パードリックは、親友のコルムから突然絶縁を宣告され…
数年前に絶賛された「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督待望の新作。早くも2023年マイベストかもしれぬ映画を観てしまった!現在アメリカの賞レースを席捲中で、来たるアカデミー賞でも多部門でノミネートされてるなど、絶賛の嵐に高まった期待を裏切らぬ、いや、期待を上まわる秀作でした!いや~ほんま面白かったです!こういう滑稽で狂ってる映画、大好き!いちおうコメディ映画ということになってますが、笑えると同時にゾっとするような人間関係の歪みや心の暗い深淵、狂気が描かれていて、とにかく奥が深い内容。それをすごく面白い話にしてるところが驚異。マクドナー監督の洞察力と脚本家としての才能には畏怖あるのみです。決して貶めるつもりはないのだけど、この映画が最高級の食材(脚本、演出、演技)で作られた絶妙な、世にもまれな珍味の料理だとすれば、キムタク主演の某時代劇大作は糖分と脂肪が多いジャンクフード、に思えて仕方がないです(ジャンクフードも好きですが(^^♪)。
昨日まで仲良くしていた親友から突然、おまえのことが嫌いになった、もう話しかけてくるな、なんて冷たく言われ相手にされなくなったら…私もパードリックみたいに困惑し周章狼狽、落ち込んだり原因を知ろうとしたりするでしょうけど、あそこまで頑として拒絶されたら怒りや不快感のほうが勝って、何様のつもり?!こっちこそおまえなんか要らんわ!と相手以上の嫌悪で絶縁上等!となるでしょう。さすがにそんな経験はないけど、この映画のキーワードである絶交…大なり小なり、友情にしろ恋愛にしろ血縁関係にしろ、生きていれば誰でもしたりされたりはありますよね。あんなに仲良しだったのに、ふとした言動で相手の本性にハっと気づいてしまい、それが耐えがたくなって距離を置き、いつしか関係はフェイドアウト。同様に、あんなに親密だった人がよそよそしくなり、気づけば連絡もくれなくなり没交渉に。私もどっちもあります。どちらも寂しい悲しいことだけど、人生には築けば崩れるものある、来れば去るのも必定なのよと、私を含めほとんどの人は後ろめたさや割り切れなさと折り合って、他にもいる大事な人や新しい人との関係に目を向けるものですが、パードリック&コルムはそうはならなかった。その人間関係こじらせっぷりが壮絶すぎて笑える、けどサイコちっくで怖い!
まず、パードリック。ほんとアホみたいに人のいい、愛さずにはいられない男。一方的な絶縁宣告にオロオロする姿が可哀想!なんだけど、見ているうちにコルムの気持ちも理解できてくるんですよね~。こんな奴とずっといたら、こっちまでアホになりそうという恐怖。無知無教養なのはまだいいとして、コルムの心情を察することなど到底できない、何を言っても伝わらない鈍感さが致命的でした。さらにあのしつこいかまってちゃんぶり、執着もヤバすぎる。ほとんどストーカーと化してましたし。救いのない悲惨な状況になっても、この期に及んでまだ友だちに戻れると信じてるの!?な無邪気すぎる言動には、もう笑うしかなかった。愚鈍だけど善良で見た目も悪くないし仕事も真面目だし、恋人か嫁を見つけるとか酪農業を発展させるとか、もっと他にできることあるじゃろ~と呆れつつ、狭い世界に埋没してると愛とか夢とか向上心とか見つかりようがないんだな~と戦慄も。
次にコルム。話が進むうちに、こんな所でこんなバカと死ぬまで一緒、という人生に対する彼の絶望や焦燥、閉塞感、孤独が伝わってきて、冷たくされるパードックよりも可哀想に思えてきます。善人だけど愚かで退屈なのは、パードリックだけでなく他の島民も同じなのに、コルムがパードリックだけを徹底的に自分の人生から排斥しようとしたのはなぜ。絶交しても、パードリックが非道い目に遭ったりすると、そっと助けてくれたりするコルムの優しさはいったい。考察しがいのある複雑で興味深い心理です。コルムにしろパードリックの妹シボーンにしろ、頭がよく感受性が強い人にとっては、イニシェリン島のような閉鎖的で非文化的な、平和だけど何もない土地は地獄みたいなもの。シボーンのように自由を求めて島を出ることもできない老人コルムは、やはり人知れず精神崩壊してしまったため、あのような常軌を逸した頑なな拒絶、そして狂気的な自傷行為へと至ったのでしょうか。気の弱い人は要注意な血生臭さ、野蛮さです。まったく解かり合えず受け入れられず、どんどん険悪に過激に悪化していく終止符の打てない争いが、アイルランド内戦と重なるところも秀逸な脚本です。
パードリック役のコリン・ファレル、キャリア最高の名演かも!大好きなコリン、もう長いことファンやってますが、ついにキター!!って感じ。オスカーにも初ノミネート!👏受賞すればファンは感涙の欣喜雀躍!今コリンの受賞のため、願掛けの酒断ちしてますハリウッド的な大ヒット狙い作品ではなく、才ある気鋭の映像作家作品で個性と演技力を深め、年齢を重ねてじわじわといい役者へと進化していったコリン。マクドナー監督にも寵愛され、「ヒットマンズ・レクイエム」「セブン・サイコパス」に続いての主演。いや~演技も見た目もコクが出てきたというか、味わい深くなりましたね~。故郷アイルランドが舞台だったためか、素朴な田舎者っぷりが自然すぎる。あの見事なまでの八の字眉、傷ついた子犬のような瞳、デカい図体で男くさい風貌なのに、頑是ない少年みたいで可愛すぎる!私なら、くだらない話しかできない粗末なオツムでも、コリンみたいな男なら邪険にするどころか溺愛しますよ。じゃれてくる大型犬みたいで可愛いじゃん!
可哀想なんだけど、確かにイラっとさせウンザリさせる、でも憎めない男を可愛く、そして何かやらかしそうな不穏さも漂わせながら、珍妙・絶妙に演じたコリンに喝采あるのみです。
コルム役のブレンダン・グリーソンも、「ヒットマンズ・レクイエム」に続いてのマクドナー監督作出演。恬淡と頑迷な、静かなる狂気の演技には何度も息をのみました。神父への教会での告解シーンが笑えた。シボーン役のケリー・コンドンも、アホの子ドミニク役のバリー・コーガンも、オスカー候補も納得の好演。神父やドミニクの父である警官、噂好きな雑貨屋のおばはん、死神ババアなど脇キャラも、笑えるけど身近な人や自分自身ともカブる凡庸さ性悪さ卑小さで、そういう人間の描写にも唸らされる作品でした。
俳優たち同様、ロバや犬、馬など動物たちの名演も驚異的で素晴らしかったです。特にパードリックが可愛がってたロバのジェニーが可愛い!赤いリボンつけてたり、パードリックと散歩や仲良くしてるシーンにはほっこり。イニシェリン島は架空の島で、ロケはアイルランドのアラン諸島で行われたとか。現代社会から隔絶された原始的な生活、荒涼とした清冽で神秘的な風景。その素朴な美しさに心洗われ、そして圧倒されます。数年前に行ったイニシュモア島を懐かしく思い出しました。また行きたくなりました。パプの黒ビールも美味しそうでした。
↑ コリン、ゴールデングローブ賞受賞おめでとう!次はオスカーだ!ブラピとのツーショット。若い頃は似非ブラピなんて揶揄されてたコリンも、今やブラピと肩を並べるまでに。共演NGではなさそうなので、ぜひW主演作を!