明後日のコンサートに向けて、タイソンと最後の合わせをしました。
マンハッタンはイーストサイド、アップタウンにある、ACMAの演奏ミーティングでもお馴染みの、音楽学校の教室を借りてしようということだったんですが、
「どの教室借りるん?」と聞くと、「なんでもいいから、とにかく当たり前の顔して、生徒のごとくスルッと入り、2階か3階に上ってきて」、とのこと……。
なんじゃそれ?
彼に会って意味がわかりました。毎週木曜日に受付に座ってるお兄ちゃん、別に誰が入ってきても気にしないタイプの方らしく、
そんなんでタイソンは、前々からこっそり、というか堂々と学校の中に入り、適当に空いてる教室で自分の練習をしたり合わせをしたりしているのだそうな……。
なので今夜も彼はいつものようにヒョウヒョウと、ほんでもってわたしもヌケヌケと入り、携帯でコソコソ「どこ?」と聞くと「2B」……なにやってんだか……。
挨拶もそこそこに、ほないっちょ合わせよかと1曲目を弾き始めると、あれ?なんかノリが今いち、それにヴァイオリンも風邪ひいてるみたいな音やし……。
「どないしたん?」
「あ、ちょっと時差ぼけかも。昨日カリフォルニアから戻ってきたとこだから」
この国、バカでかいので、東の端っこと西の端っこでは3時間の時差があるのです。
「でも、ヴァイオリンもなんかボケてない?」
「うん、10日間、こいつも向こうの程よい湿気に喜んでたら、いきなりこっちのカラカラに晒されて、かなり混乱してるみたい」
なんと……持ち運びができるから便利でいいよな~とひたすら羨ましかった楽器にも、大変なことがあるんだと、今夜初めて学びましたです。
ま、クラリネットもそういやある程度湿気や気温に左右されるけど、ここまではっきりはしてません。
「土曜日までに間に合う?」
「多分」
「いや、楽器のことだけやなくて、あんたの時差ぼけも」
「大丈夫、ボクを信じて」
とりあえず何回か合わせているうちに、彼も調子を戻してきて、実に気持ちの良い時間を過ごすことができました。
「ここは少し重めに。ここは好きなようにテンポを動かしたいけど、ついてきてくれる?」はいなはいな~!どこまでもついていきまんがなぁ~!
「ここのフォルテはまだ我慢して。最後のページにあるフォルテでそれまでの気持ちを昇華させたいから」
う~ん、なんと心地良いアイディアでしょ。メロディを奏でる楽器は基本的に線で曲全体を見るので、小節単位でちまちまと歌うのではなく、全体の構成をつかんでいるのでしょう、はじめから終わりまでの演奏で、どういうふうに歌い込んでいくのかがとても勉強になります。
5日は2曲演奏します。ドヴォルザークが作曲した『ロマンティックな4つの小曲』の中から2曲目と4曲目。
2曲目はスタッカートだらけのとても激しい曲。4曲目は、ピアニッシモで忍び泣くように歌うかと思えば慟哭がいきなりやってくるような、とても深みのある曲です。とても対照的な曲だけど、めちゃくちゃロマンチック。ふたりで思いっきり歌いたいと思います。
さて、前回うちで合わせの練習が終わった時に、「それでまうみは、次なにやりたい?」とタイソンが聞いてくれました。
え?それってまたわたしの伴奏で曲やってもええでってこと?とかなり舞い上がり、必死のパッチで曲探しをしました。
ユーチューブを使って、あれこれ聞いて、あ、これ、めちゃええ感じと、ろくにきちんと聞かないまま、5,6曲の名前をメールで送りました。
結局、フランクのヴァイオリンソナタに決まり、1楽章にするか4楽章にするかと聞かれたので、楽譜をプリントアウトして実際に読んでみたら……、
アカン、ムズカシイ……4楽章はとてもじゃないけど短期間で仕上がりそうになかったので、せめてそれよりゃ易しい1楽章にしてもらいました。
タイソンは1曲をマスターするのに1週間もかからないので、またまた待ってもらうことになります。悔しいなあ……。
でも本当は、もっと大事なことを決めたいのです。それは、毎月の演奏ミーティングではなくて、カーネギーへのオーディションのこと。
タイソンは誰と演奏するつもりなんやろ?前にジェーンから聞いてた、彼の新しいガールフレンドのジェニーやろか。彼女うまいもんなあ……。
うじうじしててもしゃあないので、今日、思い切って聞いてみることにしました。ドキドキ
「え?なに?ガールフレンドって?誰のこと?誰がそんなこと言ってたの?」
「え?あの、あ、あれ?おっかしいなあ……聞き間違うたかな?英語やしさ……ハハ、ハハハ、ごめん、聞かんかったことにしといて」焦りまくるおばちゃん1名。
数字と音楽一筋、堅物タイソン、彼とデュエットするか、腕のいいチェリストさんが見つかったらトリオをするか、そのどちらかに決まりそうです。
そっかぁ~、ガールフレンドおらへんのかぁ~と、なぜかニコちゃん顔のわたし。
あ、ちゃいますちゃいます、説明するの難しいけど、わたしは彼の音楽に恋しているのであります。そこには全く妙な気持ちはありません。ご安心のほどを。
P.S.
帰りの電車でとっても面白いことがありました。
ある駅で降り損ねたお客さん、電車がゆるゆると走り始めたというのに、猛ダッシュして車掌さんの所に駆け寄り、
「さっきの駅、ボクの駅やってん!降りたいねん!お願い!停めて!」
おいおい、と思いながら眺めていると、なんと車掌さん、おもむろに非常用ブレーキのでっかいレバーをぐぅ~いっと引っ張ったではありませんか?!
電車はギギギィ~と凄まじい音を立てて急停車し、車掌さんが無線でなにかゴニョゴニョ言った直後、そろそろとバックし始めました。
日本じゃこうはいかんな……ほほぉ~と思わずほっぺたが緩みました。
ま、こっちの電車、たとえ大都市との通勤列車だとしても、夜の多い時で1時間に2本、時間帯によっちゃ降りたホームで1時間半待ちになっちゃったりします。
そういう事情もあってのことだろうけど、なんか嬉しい事件でした。
マンハッタンはイーストサイド、アップタウンにある、ACMAの演奏ミーティングでもお馴染みの、音楽学校の教室を借りてしようということだったんですが、
「どの教室借りるん?」と聞くと、「なんでもいいから、とにかく当たり前の顔して、生徒のごとくスルッと入り、2階か3階に上ってきて」、とのこと……。
なんじゃそれ?
彼に会って意味がわかりました。毎週木曜日に受付に座ってるお兄ちゃん、別に誰が入ってきても気にしないタイプの方らしく、
そんなんでタイソンは、前々からこっそり、というか堂々と学校の中に入り、適当に空いてる教室で自分の練習をしたり合わせをしたりしているのだそうな……。
なので今夜も彼はいつものようにヒョウヒョウと、ほんでもってわたしもヌケヌケと入り、携帯でコソコソ「どこ?」と聞くと「2B」……なにやってんだか……。
挨拶もそこそこに、ほないっちょ合わせよかと1曲目を弾き始めると、あれ?なんかノリが今いち、それにヴァイオリンも風邪ひいてるみたいな音やし……。
「どないしたん?」
「あ、ちょっと時差ぼけかも。昨日カリフォルニアから戻ってきたとこだから」
この国、バカでかいので、東の端っこと西の端っこでは3時間の時差があるのです。
「でも、ヴァイオリンもなんかボケてない?」
「うん、10日間、こいつも向こうの程よい湿気に喜んでたら、いきなりこっちのカラカラに晒されて、かなり混乱してるみたい」
なんと……持ち運びができるから便利でいいよな~とひたすら羨ましかった楽器にも、大変なことがあるんだと、今夜初めて学びましたです。
ま、クラリネットもそういやある程度湿気や気温に左右されるけど、ここまではっきりはしてません。
「土曜日までに間に合う?」
「多分」
「いや、楽器のことだけやなくて、あんたの時差ぼけも」
「大丈夫、ボクを信じて」
とりあえず何回か合わせているうちに、彼も調子を戻してきて、実に気持ちの良い時間を過ごすことができました。
「ここは少し重めに。ここは好きなようにテンポを動かしたいけど、ついてきてくれる?」はいなはいな~!どこまでもついていきまんがなぁ~!
「ここのフォルテはまだ我慢して。最後のページにあるフォルテでそれまでの気持ちを昇華させたいから」
う~ん、なんと心地良いアイディアでしょ。メロディを奏でる楽器は基本的に線で曲全体を見るので、小節単位でちまちまと歌うのではなく、全体の構成をつかんでいるのでしょう、はじめから終わりまでの演奏で、どういうふうに歌い込んでいくのかがとても勉強になります。
5日は2曲演奏します。ドヴォルザークが作曲した『ロマンティックな4つの小曲』の中から2曲目と4曲目。
2曲目はスタッカートだらけのとても激しい曲。4曲目は、ピアニッシモで忍び泣くように歌うかと思えば慟哭がいきなりやってくるような、とても深みのある曲です。とても対照的な曲だけど、めちゃくちゃロマンチック。ふたりで思いっきり歌いたいと思います。
さて、前回うちで合わせの練習が終わった時に、「それでまうみは、次なにやりたい?」とタイソンが聞いてくれました。
え?それってまたわたしの伴奏で曲やってもええでってこと?とかなり舞い上がり、必死のパッチで曲探しをしました。
ユーチューブを使って、あれこれ聞いて、あ、これ、めちゃええ感じと、ろくにきちんと聞かないまま、5,6曲の名前をメールで送りました。
結局、フランクのヴァイオリンソナタに決まり、1楽章にするか4楽章にするかと聞かれたので、楽譜をプリントアウトして実際に読んでみたら……、
アカン、ムズカシイ……4楽章はとてもじゃないけど短期間で仕上がりそうになかったので、せめてそれよりゃ易しい1楽章にしてもらいました。
タイソンは1曲をマスターするのに1週間もかからないので、またまた待ってもらうことになります。悔しいなあ……。
でも本当は、もっと大事なことを決めたいのです。それは、毎月の演奏ミーティングではなくて、カーネギーへのオーディションのこと。
タイソンは誰と演奏するつもりなんやろ?前にジェーンから聞いてた、彼の新しいガールフレンドのジェニーやろか。彼女うまいもんなあ……。
うじうじしててもしゃあないので、今日、思い切って聞いてみることにしました。ドキドキ
「え?なに?ガールフレンドって?誰のこと?誰がそんなこと言ってたの?」
「え?あの、あ、あれ?おっかしいなあ……聞き間違うたかな?英語やしさ……ハハ、ハハハ、ごめん、聞かんかったことにしといて」焦りまくるおばちゃん1名。
数字と音楽一筋、堅物タイソン、彼とデュエットするか、腕のいいチェリストさんが見つかったらトリオをするか、そのどちらかに決まりそうです。
そっかぁ~、ガールフレンドおらへんのかぁ~と、なぜかニコちゃん顔のわたし。
あ、ちゃいますちゃいます、説明するの難しいけど、わたしは彼の音楽に恋しているのであります。そこには全く妙な気持ちはありません。ご安心のほどを。
P.S.
帰りの電車でとっても面白いことがありました。
ある駅で降り損ねたお客さん、電車がゆるゆると走り始めたというのに、猛ダッシュして車掌さんの所に駆け寄り、
「さっきの駅、ボクの駅やってん!降りたいねん!お願い!停めて!」
おいおい、と思いながら眺めていると、なんと車掌さん、おもむろに非常用ブレーキのでっかいレバーをぐぅ~いっと引っ張ったではありませんか?!
電車はギギギィ~と凄まじい音を立てて急停車し、車掌さんが無線でなにかゴニョゴニョ言った直後、そろそろとバックし始めました。
日本じゃこうはいかんな……ほほぉ~と思わずほっぺたが緩みました。
ま、こっちの電車、たとえ大都市との通勤列車だとしても、夜の多い時で1時間に2本、時間帯によっちゃ降りたホームで1時間半待ちになっちゃったりします。
そういう事情もあってのことだろうけど、なんか嬉しい事件でした。