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瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』

2006-09-06 17:37:14 | ノンジャンル
 瀬尾まいこさんの'04年作品「天国はまだ遠く」を読みました。
 人がよく、かえってそのために業績が上がらない営業職に疲れ果て、自殺しようとカバン一つで目的地も決めず、とにかく北へと向かう主人公の千鶴。電車の終点からタクシーに乗って、山奥の山村に着き、その村で唯一の民宿に泊まりますが、そこは普段はほとんど客の来ない農家で、若い男田村が一人で農業や釣りをして生活していました。
 最初の晩に2週間分の睡眠薬を飲み、自殺を決行しましたが、一昼夜寝て、二日後に爽やかな目覚めをする主人公。死ぬ気も失せてしまい、それからは昼間は散歩し、畑仕事をする老人に挨拶し、夜は田村と夕食をともにする毎日を送るようになります。
 なかなか立ち去る気配のない千鶴に向かって、田村は自殺しに来たんだろ、と言い、自殺の名所が近くにあるから、やるならあそこだと思っていた、と淡々と語ります。そして、自殺することを恋人だけにメールで伝えてあると主人公が言うと、心配してるだろうから、ここで元気にしてることを伝えなきゃと田村が言い、早くしないと捜索願いだされるで、と付け加えます。恋人に連絡をすると、彼はすぐにやって来て、彼女の様子を見て安心し、帰って行きます。
 その後も、田村に釣りに連れてってもらったり、夜には田村が両親が亡くなったので、会社の仕事を辞めて、この家と畑を継いでいるという話を聞いたり、鶏小屋の掃除をして、その夜にしめた鶏を田村と食べたり、田村とともに行った教会で見事なコーラスの賛美歌を聞いたり、地元の人の飲み会に参加したり、田村に勧められて絵を海に描きに行って、とんでもなく下手な絵を描いて田村の失笑を買ったり、田村との田舎生活を楽しく過ごしてきた千鶴でしたが、気持ちの整理をつけた千鶴は、冬が近づいてきた日に街へ帰る決心をします。離れがたい気持ちを振り切りながら、別れる二人。土産物を山のようにもらった千鶴は再びこの村を訪れる日がきっと来ると思ったのでした。
 淡々とした語り口で、すらすらと読めました。田村の純朴さと千鶴のちょっととぼけた人の良さがいい釣り合いを見せていて、読んでいてほのぼのとした気分になりました。瀬尾さんの他の作品と同じく、この小説も善人しか出てこないのに、ドラマが成立する小説でした。まだ読んでない方、オススメです。