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内田樹『街場の中国論』その3

2011-06-22 05:29:00 | ノンジャンル
(またまた昨日の続きです。)
25、近代史において全中国人が一丸となって事に当たったのは、抗日戦争しかなく、それが国民的統合の象徴とならざるをえないこと

26、日本は国民的統合を実感できるような歴史的出来事を近代史において全く持ち合わせていないこと

27、中国で'66年に始まった文化大革命は全世界の新左翼運動と完全にシンクロしていること('66~'69年における日本の学生運動、アメリカの公民権運動、ブラックパンサーやSDS(全米最大の新左翼運動)、ドイツの新左翼運動、'68年におけるフランスでの五月革命などなど)

28、私たちが今日使っている社会科学・自然科学の用語は、明治時代の先達たち(加藤弘之、中江兆民、西周ら)が苦心の末に産んでくれた訳語であること

29、ルネッサンスから近代市民革命までの時期のヨーロッパには『すべての人間はその本然の姿において平等であり、兄弟である』というかなり闊達な人間観が広まっていて、異文化、異民族に対して比較的に開放的で、異文化間のコミュニケーションについてもかなり楽観的であったこと

30、普遍性を掲げる宗教は、『異民族の異教であっても、それは完成へと至る途上なのだから、それが熟してゆく過程に対して、根気良く温かいまなざしを向けるべきだ』という寛容的態度と、『彼らの宗教を尊重することなく、彼らの霊魂を救済するため、速やかに改宗させるべきだ』という強圧的な教化的態度に分かれるということ

31、13億という国民を擁した現在の中国のような国家というのはこれまで存在したことがなく、それを統治する方法はこれから新たに編み出していかねばならないということ

32、森林破壊をしないで済ませた文明というものは過去存在したことがなく、その結果ヨーロッパには自然林はほとんど存在せず、イギリスの森林面積は人工林を含めても国土の7%、フランスでも20%しかないのに対し、日本では例外的に70%もの森林に恵まれていること

33、中国は人口が農業生産力を超えるたびに、飢饉と戦争で人口調整を行ってきたこと

34、前代未聞の環境問題を抱えているのは中国だけという訳ではなく、アメリカでも大規模な土壌破壊が起こったりしていること

35、都市化・近代化・産業化が起こって制度が激変した19世紀末のヨーロッパでは、人心の安定のためにスケープゴートとしてユダヤ陰謀説が採用されたこと

36、日清戦争に勝利した後、1年後に日露戦争を控えた'03年に東京で行われた第五回内国勧業博覧会は、国際社会に対して『近代国家・アジアの盟主』としてのセルフイメージを日本が露出したエポックメイキングなイベントであって、5ヶ月間に530万人もの人が入場し、これは日本人の10人に1人が見に行った計算になること

37、そこには生身の人間を展示する『人類館』があり、『北海道アイヌ』『台湾の生蕃』『琉球』『朝鮮』『支那』『印度』『爪哇(ジャワ)』が『異人種』として展示されたこと

38、エッフェル塔はフランス革命百周年記念として行われたパリ万博で、産業革命と都市化の象徴として建設されたこと

 以上のようなことが、この本を読んで新たに知ったことでした。それに加えて、例えばナショナリストというのは「自国の国益が損なわれることを喜ぶ」倒錯した傾向があるということ(国家の維新を傷つけられるようなことが起こると「ほら、言わんこっちゃない」と得意満面になる傾向)とか、どの国にも愛国的熱狂のさなかにも涼しい顔をして、そうした風潮を受け流している人が存在してくれているはずであることなど、改めて再認識させてくれたことも多々ありました。
 著者はあとがきで「あと十年くらいして、この本を読み返したときに、どの箇所が『腐らずに』残っている(でしょうか?)」と謙虚に書いていらっしゃいますが、私はかなりの部分が腐らずに残るのではと思いました。これまでの日中関係、ひいては世界における日本の立ち位置を理解するために、一読することを強くオススメしたい本です。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto