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内田樹・高橋源一郎(選)『嘘みたいな本当の話 [日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト』

2011-09-11 06:47:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、内田樹・高橋源一郎(選)の'11年作品『嘘みたいな本当の話 [日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を読みました。
 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』とは、アメリカのいろいろな普通の人たちに寄稿してもらった実話の中から佳作を選者自身がラジオで朗読するというポール・オースターが始めた試みです。日本版を作るに当たって、内田さんは「物語であること」「本当にあった『嘘みたい』な話」という二つのしばりを設けてトライアルをしてみたところ、選択される主題にかなり「偏り」があることが分かったので、それなら逆に、テーマを指定して書いてもらったほうが面白いものが集まると考え、第一次募集のテーマとして、?犬と猫の話 ?おばあさんの話 ?マジックナンバーの話 ?ばったり会った話 ?戻ってくるはずがないのに、戻ってきたものの話 ?そっくりな人の話 ?変な機械の話 ?空に浮かんでいたものの話 ?予知した話 ?あとからぞっとした話 の10個にテーマを絞り、1000字以内、短い分にはいくら短くても構わないとして募集をかけ、集まった1500ほどの物語の中から、内田さんと高橋さんが149を選びました。
 ざっと読んだ感想としては、「嘘みたい」な話はほとんどなく、「よくありそうな」話のオンパレードでした。前書きで内田さんが、後書きで高橋さんが、また巻末の対談で高橋さんと柴田元幸さんが指摘しているように「型」に落としこんでしまっている話が多く、突き抜けた面白さ、素材が「ごろん」と転がっているような無気味な話に乏しいといった感じです。しかしそんな中でも、小学5年生の頃、2、3人の仲間と毎日のように野良犬のグループと遊んでいたという話(p.45)や、トンネルで壁に車を激突させて自殺しようと考えていた私が、その直前に息子に最後の晩餐をさせてやろうとパーキングエリアに車を停めると、車が急にエンストを起こし、その後は何事もなく車は動くようになった話(P.69~70)、原爆投下のしばらく後の広島に頭が鶏の兄妹が住んでいたという話(p.79~80)、晴れた夜道で傘を差した女性とすれ違った直後に豪雨に襲われた話(p.207)、一年に二度飛び降り自殺の第一発見者になった話(p.279)などは、面白く読ませてもらいました。
 また、語り口の面白さが際立っていたものも若干ありました。例えば、p.91の雪道で車がスリップする様子を描いた物語「雪起こしか、時折夜空が光る。そのとき、ヘッドライトの先に急な左カーブが。慎重に近づき、曲がりきる。あれ? 突然ヘッドライトが消える。メーターを見ると、そこも消えている。目を上げる。山肌がこちらから向こうへ流れている。クルマが後ろ向きに走って、いや、滑っているのか? 時間が間延びし始める。背中にさっき越したはずの左カーブを感じる。ガードレールの向こうの谷底を感じる。背後で何かが光った。光ったように感じた。」、p.213の研ぎ屋さんに訪問される話「玄関の扉を開けたら、おじいさんが立っていた。両手には数本ずつ、柄のあたりに布を巻いた剥き身の刃物を持っていた。その瞬間、時間と音が消え、ものすごく冴えた頭が『私の人生、これで終わり』という決断を下し、さすがに心底がっかりした。その人は、『お母さんに渡してください』と、かすれて聞こえないくらい小さな声で言って、刺身包丁をニ本差し出し、私がそれを受け取るやいなや帰って行った。戻ってきた母に包丁を見せると、『ああ、研ぎ屋さん』と言ったので、『その人、このままこれを持ってきたんだよ』と言い足すと、母は『あらまあ。そう』というようなことを言い、そのあと何事もなかったように夕飯の支度を始めた。」などでした。
 巻末の対談では、身体感覚を書き表わすと話が面白くなると語られていて、なるほどと思いました。これから文章を書く時には、文章に生々しさを与えられるよう工夫しようと思わせてくれた、そんな本でもありました。
 
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/