恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。
まず1月30日に掲載された「命どぅ宝」と題された前川さんのコラムを全文転載させていただくと、
「劇団文化座の「命(ぬち)どぅ宝」は、1950年代から沖縄返還に至る時期の瀬長亀次郎と阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)の闘いを描く芝居だ。
瀬長は沖縄人民党を結成し52年の第一回立法院議員選挙で当選。琉球政府創立式典では米国への宣誓を拒否する。米軍統治を真正面から批判した瀬長は投獄されるが、出獄後の56年には那覇市長に選ばられる。米国民政府は財政圧迫を加えるが、那覇市民は自主的な納税で市財政を支える。高等弁務官は瀬長を公職から追放するが、復権した瀬長は68年の選挙で再び立法院議員となる。踏みつけられても必ず立ち上がる不屈の人。「沖縄の九十万人人民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波を越えて、ワシントン政府を動かすことができます」と人々を鼓舞する。
阿波根は伊江島でデンマーク式農民学校の建設を志すが、沖縄戦で一人息子を失う。敗戦後は「銃剣とブルドーザー」による米軍の土地強奪に非暴力で抵抗。田畑を奪われて飢えた阿波根らは、55年に「乞食行進」を始め「乞食をするのは恥であるが、武力で土地を取り上げ乞食にさせるのはなお恥です」と訴える。それが沖縄の島ぐるみ闘争につながっていく。
祖国復帰運動の先頭に立った瀬長と阿波根。だがこの50年、祖国は沖縄を裏切り続けた。見終わってこみ上げるのは怒りと悔しさだった。」
また、2月2日に掲載された「戦時性暴力を描く」と題された斎藤さんのコラム。
「直木賞には落ちるも本屋大賞にノミネートされている、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』が評判だ。独ソ戦に参戦したソ連軍の女性兵士を描いた長編である。ドイツ軍の攻撃で壮絶な体験をした少女たちが集められ、ハードな訓練を経て優秀な狙撃兵に成長、復讐(ふくしゅう)心を胸に戦場に赴く。
「史実を背景にした戦闘少女モノかな」「そうだね、アニメっぽい」「漫画やアニメになったらヒットするよね」
なんて会話を先日にもしたのだが、そこで話題になったのが「このシーンをアニメならどう描くだろう」だった。『同志少女』にはソ連兵の性暴力の場面があるのだ。
戦時性暴力はなぜ発生するのか。戦争という非常時のせいなのか。
開高健賞を受賞した平井美帆『ソ連兵へ差し出された娘たち』はそこに横たわる女性蔑視の構造を暴き出している。満州(現在の中国東北部)から引き揚げる途中のある開拓団で事件は起きた。ソ連軍に自分たちの団を守ってもらうのと引き換えに「接待」と称して十八~に十歳の娘たちを差し出す。「身体を張って犠牲になってほしい」と命じられた娘たちに断る選択肢はなかった。
現実は物語よりいつだって陰湿だ。女性蔑視を告発する姿勢をやはり示しながらも『同志少女』にアニメが重なって見えるのは、実感に乏しい異国の物語だからかもしれない。」
そして、2月6日に掲載された「教師の残業代」と題された前川さんのコラム。
「二日の本紙に、三重大学の付属学校で教師に残業代を払っていなかったという記事があった。労働基準監督署からの是正勧告を受け、現職教師78人に未払いの残業代計1億5900万円を支給したという。その上で同大学では、部活動指導を保護者に委託する案など教師の負担軽減策に知恵を絞っているという。残業を減らさないと財政が持たないからだ。
残業代の未払いは国立学校と私立学校では時々起きるが、公立学校では起きない。公立学校の教師の残業には労働基準法だけでなく、給与特別措置法(給特法)が適用され、残業時間に応じた残業代ではなく本給の4%相当の教職調整額が一律に支給される。残業代が膨れ上がる心配がないから残業させ放題になる。
一方、一日の本紙は、全国の教師不足が昨年4月の時点で2558人に上ったと報じた。2021年度採用の公立小学校教員試験の倍率は2.6倍にまで低下したという。このままでは日本の学校教育が崩壊する危険がある。学生が教師を志望しない主な原因は、長時間残業など教師の過酷な勤務実態だ。
給特法は教師の勤務の特殊性が根拠だとされるが、公立学校の教師だけの特殊性など存在しない。給特法の正当性は破綻している。公立学校教師の長時間残業を是正するため、まずは給特法を廃止すべきである。」
どれも一読の価値のある文章です。
まず1月30日に掲載された「命どぅ宝」と題された前川さんのコラムを全文転載させていただくと、
「劇団文化座の「命(ぬち)どぅ宝」は、1950年代から沖縄返還に至る時期の瀬長亀次郎と阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)の闘いを描く芝居だ。
瀬長は沖縄人民党を結成し52年の第一回立法院議員選挙で当選。琉球政府創立式典では米国への宣誓を拒否する。米軍統治を真正面から批判した瀬長は投獄されるが、出獄後の56年には那覇市長に選ばられる。米国民政府は財政圧迫を加えるが、那覇市民は自主的な納税で市財政を支える。高等弁務官は瀬長を公職から追放するが、復権した瀬長は68年の選挙で再び立法院議員となる。踏みつけられても必ず立ち上がる不屈の人。「沖縄の九十万人人民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波を越えて、ワシントン政府を動かすことができます」と人々を鼓舞する。
阿波根は伊江島でデンマーク式農民学校の建設を志すが、沖縄戦で一人息子を失う。敗戦後は「銃剣とブルドーザー」による米軍の土地強奪に非暴力で抵抗。田畑を奪われて飢えた阿波根らは、55年に「乞食行進」を始め「乞食をするのは恥であるが、武力で土地を取り上げ乞食にさせるのはなお恥です」と訴える。それが沖縄の島ぐるみ闘争につながっていく。
祖国復帰運動の先頭に立った瀬長と阿波根。だがこの50年、祖国は沖縄を裏切り続けた。見終わってこみ上げるのは怒りと悔しさだった。」
また、2月2日に掲載された「戦時性暴力を描く」と題された斎藤さんのコラム。
「直木賞には落ちるも本屋大賞にノミネートされている、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』が評判だ。独ソ戦に参戦したソ連軍の女性兵士を描いた長編である。ドイツ軍の攻撃で壮絶な体験をした少女たちが集められ、ハードな訓練を経て優秀な狙撃兵に成長、復讐(ふくしゅう)心を胸に戦場に赴く。
「史実を背景にした戦闘少女モノかな」「そうだね、アニメっぽい」「漫画やアニメになったらヒットするよね」
なんて会話を先日にもしたのだが、そこで話題になったのが「このシーンをアニメならどう描くだろう」だった。『同志少女』にはソ連兵の性暴力の場面があるのだ。
戦時性暴力はなぜ発生するのか。戦争という非常時のせいなのか。
開高健賞を受賞した平井美帆『ソ連兵へ差し出された娘たち』はそこに横たわる女性蔑視の構造を暴き出している。満州(現在の中国東北部)から引き揚げる途中のある開拓団で事件は起きた。ソ連軍に自分たちの団を守ってもらうのと引き換えに「接待」と称して十八~に十歳の娘たちを差し出す。「身体を張って犠牲になってほしい」と命じられた娘たちに断る選択肢はなかった。
現実は物語よりいつだって陰湿だ。女性蔑視を告発する姿勢をやはり示しながらも『同志少女』にアニメが重なって見えるのは、実感に乏しい異国の物語だからかもしれない。」
そして、2月6日に掲載された「教師の残業代」と題された前川さんのコラム。
「二日の本紙に、三重大学の付属学校で教師に残業代を払っていなかったという記事があった。労働基準監督署からの是正勧告を受け、現職教師78人に未払いの残業代計1億5900万円を支給したという。その上で同大学では、部活動指導を保護者に委託する案など教師の負担軽減策に知恵を絞っているという。残業を減らさないと財政が持たないからだ。
残業代の未払いは国立学校と私立学校では時々起きるが、公立学校では起きない。公立学校の教師の残業には労働基準法だけでなく、給与特別措置法(給特法)が適用され、残業時間に応じた残業代ではなく本給の4%相当の教職調整額が一律に支給される。残業代が膨れ上がる心配がないから残業させ放題になる。
一方、一日の本紙は、全国の教師不足が昨年4月の時点で2558人に上ったと報じた。2021年度採用の公立小学校教員試験の倍率は2.6倍にまで低下したという。このままでは日本の学校教育が崩壊する危険がある。学生が教師を志望しない主な原因は、長時間残業など教師の過酷な勤務実態だ。
給特法は教師の勤務の特殊性が根拠だとされるが、公立学校の教師だけの特殊性など存在しない。給特法の正当性は破綻している。公立学校教師の長時間残業を是正するため、まずは給特法を廃止すべきである。」
どれも一読の価値のある文章です。