また昨日の続きです。
そのときは驚いた母から電話があった。
「海彦クンが止めてくれなんだら、おかあさん、コロナに罹っとったわ」(中略)
「偶然なんやないの?」と康彦。
「ううん、タイミングが良過ぎる。だって一時間電話が遅かったら、おかあさん、出かけとったもん。これは神様のお導きやて。神様が海彦クンに乗り移って巣くってくれたんやて」
「そうかなあ」(中略)
不思議な出来事はその後も続いた。
外出自粛を求められても、小さな子供が一日家の中で過ごすことは難しい。康彦は、一時間だけと決めて、息子を外で遊ばせていた。そんなある日、いつもの公園へ連れて行き、遊具で遊ばせていたところ、鉄棒を前にして急に息子の笑顔が消え、その場に立ち尽くしたのである。
「海彦、どうした? 鉄棒やらないの?」(中略)
「やだ。やらない」
「どうして?」
「どうしても!」(中略)
そして、近くのベンチが空いたので、そこに腰かけようおt歩き出したとき、息子が滑り台の上で「ダメーッ!」と大声を発した。(中略)
「パパ、そこに座っちゃダメ!」
康彦は、その血相の変え方に見覚えがあった。(中略)
「もう帰る」
「帰るの? 来たばかりじゃないか」
「いいから帰る!」(中略)そして翌日、公園のすぐ横にあるワンルーム・マンションから、新型コロナウイルスの感染者が出た━━。(中略)
(中略)
保育園が休園中なので、その後は息子と二人きりの時間となった。(中略)
そのとき、おもちゃで一人遊びしていた息子が、すたすたとテレビの前まで歩き、画面のニュースキャスターに向かって「おうちにいなきゃダメ!」と声を張り上げた。
「この人はお仕事。だから外出自粛の対象ではありません」(中略)
腕を引っ張ると、息子は足を踏ん張って抵抗し、キャスターを凝視していた。(中略)
その数日後、驚きのニュースが流れた。息子がテレビを観て叫んだ番組のニュースキャスターが、新型コロナウイルスに感染していたことが判明したのである。(中略)
感染者数が一向に減らない中、とうとう政府が緊急事態宣言を発令した。(中略)
帰宅すると、玄関から風呂場に直行した。
「ママー、着替え持ってきて」
奥の部屋に向かって声を上げる。
「どうしたの?」妻が何事かと出て来た。
「近寄っちゃだめ。服にウイルスが付着してるかもしれないから」
「何かあった?」
「講習に行って、盛大に他人の飛沫を浴びてきた」
「あら、そう。大変ね」
妻は苦笑して、康彦の下着を持ってきた。(中略)息子が康彦の方を振り返る。ゲームのコントローラーを置き、立ち上がり、駆け寄りかけたところで急に動きを止めた。
「どうしたの?」(中略)「パパ、出かけちゃダメ!」と叫んだ。
「今帰ってきたところだって。もう家にいるよ」
「出かけちゃダメ!」語気強くその言葉を繰り返す。
康彦ははっとした。息子の表情は、過去に三回コロナを感知したときと同じ顔つきなのだ。(中略)
「おれ、コロナに感染したみたい」
「はあ? どうしてわかるの?」
「海彦が感知した。だからおれに近寄らなかった」
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない。これからおれはコロナの潜伏期間とされる二週間の自主隔離に入る。絶対部屋に入って来ないように」(中略)
「(中略)まずはこの部屋のドアノブを大至急、消毒して。今、おれ触っちゃったから。それからどこかで防護服とゴーグルを買ってきて。今後、この部屋から出るときはトイレでもおれは防護服を着る」(中略)
一時間後、妻と息子が帰ってきた。
「あのさあ、ホームセンターとスーパーを回ったけど、防護服どころか雨合羽も売り切れだった。でね、たまたま帰り道に古道具屋さんがあって、のぞいてみたら、代用品になりそうな物があったから、一応買って来たんだけど……」(中略)
どうやら妻が買ってきた潜水服は、かつて海底での建設作業時に使用したものらしかった。(中略)
「ねえパパ、お外で遊ぶ」(中略)
「ゲームは?」
「もう飽きた。公園でサッカーやる」(中略)
「わかった。じゃあちょっと待って」
康彦は急いで潜水服を着込んだ。(中略)
「すいません。ご主人、ちょっといいですか?」年配の警官が声をかけてきた。
「ええ、いいですよ」
「変わったコスチュームの人が公園に侵入してきたって、110番通報があったものですから」(中略)
「ご主人、事件性、事故性、共にないということで、我々は引き揚げます。ですからご主人も早く家に帰ってください、(中略)」
熱中症の教訓から、これからの季節は暑さ対策が必要だと悟り、康彦は冷却ベストというものをネットで探して購入した。(中略)
早速散歩に着ていく。(中略)
ここでも道行く人の注目を浴びた。(中略)
この日はテレビ局もやって来た。(中略)
(また明日へ続きます……)
そのときは驚いた母から電話があった。
「海彦クンが止めてくれなんだら、おかあさん、コロナに罹っとったわ」(中略)
「偶然なんやないの?」と康彦。
「ううん、タイミングが良過ぎる。だって一時間電話が遅かったら、おかあさん、出かけとったもん。これは神様のお導きやて。神様が海彦クンに乗り移って巣くってくれたんやて」
「そうかなあ」(中略)
不思議な出来事はその後も続いた。
外出自粛を求められても、小さな子供が一日家の中で過ごすことは難しい。康彦は、一時間だけと決めて、息子を外で遊ばせていた。そんなある日、いつもの公園へ連れて行き、遊具で遊ばせていたところ、鉄棒を前にして急に息子の笑顔が消え、その場に立ち尽くしたのである。
「海彦、どうした? 鉄棒やらないの?」(中略)
「やだ。やらない」
「どうして?」
「どうしても!」(中略)
そして、近くのベンチが空いたので、そこに腰かけようおt歩き出したとき、息子が滑り台の上で「ダメーッ!」と大声を発した。(中略)
「パパ、そこに座っちゃダメ!」
康彦は、その血相の変え方に見覚えがあった。(中略)
「もう帰る」
「帰るの? 来たばかりじゃないか」
「いいから帰る!」(中略)そして翌日、公園のすぐ横にあるワンルーム・マンションから、新型コロナウイルスの感染者が出た━━。(中略)
(中略)
保育園が休園中なので、その後は息子と二人きりの時間となった。(中略)
そのとき、おもちゃで一人遊びしていた息子が、すたすたとテレビの前まで歩き、画面のニュースキャスターに向かって「おうちにいなきゃダメ!」と声を張り上げた。
「この人はお仕事。だから外出自粛の対象ではありません」(中略)
腕を引っ張ると、息子は足を踏ん張って抵抗し、キャスターを凝視していた。(中略)
その数日後、驚きのニュースが流れた。息子がテレビを観て叫んだ番組のニュースキャスターが、新型コロナウイルスに感染していたことが判明したのである。(中略)
感染者数が一向に減らない中、とうとう政府が緊急事態宣言を発令した。(中略)
帰宅すると、玄関から風呂場に直行した。
「ママー、着替え持ってきて」
奥の部屋に向かって声を上げる。
「どうしたの?」妻が何事かと出て来た。
「近寄っちゃだめ。服にウイルスが付着してるかもしれないから」
「何かあった?」
「講習に行って、盛大に他人の飛沫を浴びてきた」
「あら、そう。大変ね」
妻は苦笑して、康彦の下着を持ってきた。(中略)息子が康彦の方を振り返る。ゲームのコントローラーを置き、立ち上がり、駆け寄りかけたところで急に動きを止めた。
「どうしたの?」(中略)「パパ、出かけちゃダメ!」と叫んだ。
「今帰ってきたところだって。もう家にいるよ」
「出かけちゃダメ!」語気強くその言葉を繰り返す。
康彦ははっとした。息子の表情は、過去に三回コロナを感知したときと同じ顔つきなのだ。(中略)
「おれ、コロナに感染したみたい」
「はあ? どうしてわかるの?」
「海彦が感知した。だからおれに近寄らなかった」
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない。これからおれはコロナの潜伏期間とされる二週間の自主隔離に入る。絶対部屋に入って来ないように」(中略)
「(中略)まずはこの部屋のドアノブを大至急、消毒して。今、おれ触っちゃったから。それからどこかで防護服とゴーグルを買ってきて。今後、この部屋から出るときはトイレでもおれは防護服を着る」(中略)
一時間後、妻と息子が帰ってきた。
「あのさあ、ホームセンターとスーパーを回ったけど、防護服どころか雨合羽も売り切れだった。でね、たまたま帰り道に古道具屋さんがあって、のぞいてみたら、代用品になりそうな物があったから、一応買って来たんだけど……」(中略)
どうやら妻が買ってきた潜水服は、かつて海底での建設作業時に使用したものらしかった。(中略)
「ねえパパ、お外で遊ぶ」(中略)
「ゲームは?」
「もう飽きた。公園でサッカーやる」(中略)
「わかった。じゃあちょっと待って」
康彦は急いで潜水服を着込んだ。(中略)
「すいません。ご主人、ちょっといいですか?」年配の警官が声をかけてきた。
「ええ、いいですよ」
「変わったコスチュームの人が公園に侵入してきたって、110番通報があったものですから」(中略)
「ご主人、事件性、事故性、共にないということで、我々は引き揚げます。ですからご主人も早く家に帰ってください、(中略)」
熱中症の教訓から、これからの季節は暑さ対策が必要だと悟り、康彦は冷却ベストというものをネットで探して購入した。(中略)
早速散歩に着ていく。(中略)
ここでも道行く人の注目を浴びた。(中略)
この日はテレビ局もやって来た。(中略)
(また明日へ続きます……)