また昨日からの続きです。
(中略)
「この春休みには、優ちゃんに決めてほしいことがあるんだ」
お父さんは私の顔をじっと見た。(中略)
「お父さん、会社の転勤で、ブラジルにある支社でしばらく働くことになったんだ。当然日本からは通えないから、向こうで暮らすことになる。(中略)だいたい三年か五年は日本を離れて生活することになるんだ」(中略)
「私は、日本に残るよ」
と梨花さんは言った。(中略)
「お父さんと梨花さんは別れるんだ。つまり、もう夫婦じゃなくなる。だから、優ちゃんにお父さんと暮らすか、梨花さんと暮らすか選んでほしいんだ」(中略)
「お父さんだって行きたくないんだ。でも、優ちゃんと一緒ならがんばれるよ」(中略)
「でも、友達みんなと離れるんだよ」
と梨花さんが言った。(中略)
それは絶対に嫌だった。私にとって、みなちゃんと奏ちゃんは何より大事だ。(中略)
「ブラジルに行けば、今とはまったく違ってしまうよ。私とここに残れば、今と同じ生活ができる」、そういう梨花さんの言葉に、「そんな言い方はないだろう」とお父さんが低い声で言った。
z8
(中略)
「私、学校変わりたくない」
三月三十日、私はお父さんに言った。(中略)
「わかった。わかったよ。優ちゃん。ごめんね」(中略)
「どこへ行っても、お父さんは優ちゃんのお父さんだよ」
と当たり前のことを何度も言った。(中略)梨花さんとお父さんが離婚するというのはわかりながらも、それでもまたこの暮らしが戻ってくるのだと、信じていた。(中略)
(中略)
あの時、私は友達を優先した。(中略)その結果、今がある。(中略)
ただ、友達は絶対ではない。(中略)
友達に無視されたって、勉強をおろそかにするのはよくない。(中略)
二学期の始業式。教室へ向かう怪談で前を歩く萌絵を見つけ、私は「おはよ」と声をかけながら近づいた。
もう学期も変わったんだ。わだかまりも消えているだろうと思ったのに、萌絵はかすかに笑っただけだった。(中略)
史奈は元どおりになっていると言っていたけれどm、そうは簡単にいかないのだろうかと萌絵に続いて教室に足を入れると、
「出た!」
「今日もきれいだよね。優子」
と、矢橋さんと墨田さんが大きな声で言うのが聞こえた。(中略)
「どうだった。新学期?」
(中略)森宮さんが聞いてきた。(中略)
「まあ、そんなたいした問題じゃないんだけどさ、一部の女子に嫌われちゃったみたいで、文句を言われてるみたいな感じ」
私は今日のことを正直に話した。(中略)
「でもさ、矢橋や墨田みたいな女って、どこにでもいるよなー」(中略)
やれやれ、森宮さんの悪口は小学生レベルだ。けれど、森宮さんと一緒に文句を言っていると、気持ちだけは晴れて、いくらでもそうめんが食べられた。
翌日、学校は相変わらずの空気だった。(中略)
昼食の時間になると、「萌絵、史奈食べよう」と墨田さんが二人を誘ってしまったから、私は一人で学食に向かった。(中略)
「何してるの?」
声のほうに顔を上げると、前には向井先生が立っていた。(中略)
「(中略)こういうの、時間が解決するし、今少し折り合いが悪くなってるだけで、ほっておいてというか、その、まあ見守っててください」
私がそう付け加えると、
「強いのね。森宮さんは」
と先生は私をじっと見て言った。
教室に戻った私を見ると、墨田さんと矢橋さんがにやりと笑った。(中略)
「優子、男好きだよね。優子のお母さんって、二回旦那替えてるんだっけ。血は争えないよねー」(中略)
きっと、二人が家族のことに触れだしたせいだ。みんなうつむいたり、他のことに気を取られているふりをしたりしてる。(中略)
「それで、今は若い父親と二人で暮らしてるんでしょう。ひくわー」
「優子、父親とできてたりして。こわ」(中略)さっさと端的に説明してしまおうと私は口を開いた。
「えっと、その何回も旦那替えているっていう母親は、二番目の母親だから血はつながってないんだ。で、生みの親ははっきりしてるんだよ。母親は小さいころに亡くなって、父親は海外に行ってしまったから身近にはいないんだけどね。母親が二人、父親が三人いるのは事実だけど。で、なんだっけ? あ、そうそう。今の父親。年が近いって言っても、もう三十七歳だよ。それに、どこか変わっている人というか、とても恋愛関係になりそうな人じゃないから。血もつながってない私の面倒を見てくれるいい人だけど……。これで、以上かな?」
(中略)矢橋さんと墨田さんは少々面食らっている。(中略)
(また明日へ続きます……)
(中略)
「この春休みには、優ちゃんに決めてほしいことがあるんだ」
お父さんは私の顔をじっと見た。(中略)
「お父さん、会社の転勤で、ブラジルにある支社でしばらく働くことになったんだ。当然日本からは通えないから、向こうで暮らすことになる。(中略)だいたい三年か五年は日本を離れて生活することになるんだ」(中略)
「私は、日本に残るよ」
と梨花さんは言った。(中略)
「お父さんと梨花さんは別れるんだ。つまり、もう夫婦じゃなくなる。だから、優ちゃんにお父さんと暮らすか、梨花さんと暮らすか選んでほしいんだ」(中略)
「お父さんだって行きたくないんだ。でも、優ちゃんと一緒ならがんばれるよ」(中略)
「でも、友達みんなと離れるんだよ」
と梨花さんが言った。(中略)
それは絶対に嫌だった。私にとって、みなちゃんと奏ちゃんは何より大事だ。(中略)
「ブラジルに行けば、今とはまったく違ってしまうよ。私とここに残れば、今と同じ生活ができる」、そういう梨花さんの言葉に、「そんな言い方はないだろう」とお父さんが低い声で言った。
z8
(中略)
「私、学校変わりたくない」
三月三十日、私はお父さんに言った。(中略)
「わかった。わかったよ。優ちゃん。ごめんね」(中略)
「どこへ行っても、お父さんは優ちゃんのお父さんだよ」
と当たり前のことを何度も言った。(中略)梨花さんとお父さんが離婚するというのはわかりながらも、それでもまたこの暮らしが戻ってくるのだと、信じていた。(中略)
(中略)
あの時、私は友達を優先した。(中略)その結果、今がある。(中略)
ただ、友達は絶対ではない。(中略)
友達に無視されたって、勉強をおろそかにするのはよくない。(中略)
二学期の始業式。教室へ向かう怪談で前を歩く萌絵を見つけ、私は「おはよ」と声をかけながら近づいた。
もう学期も変わったんだ。わだかまりも消えているだろうと思ったのに、萌絵はかすかに笑っただけだった。(中略)
史奈は元どおりになっていると言っていたけれどm、そうは簡単にいかないのだろうかと萌絵に続いて教室に足を入れると、
「出た!」
「今日もきれいだよね。優子」
と、矢橋さんと墨田さんが大きな声で言うのが聞こえた。(中略)
「どうだった。新学期?」
(中略)森宮さんが聞いてきた。(中略)
「まあ、そんなたいした問題じゃないんだけどさ、一部の女子に嫌われちゃったみたいで、文句を言われてるみたいな感じ」
私は今日のことを正直に話した。(中略)
「でもさ、矢橋や墨田みたいな女って、どこにでもいるよなー」(中略)
やれやれ、森宮さんの悪口は小学生レベルだ。けれど、森宮さんと一緒に文句を言っていると、気持ちだけは晴れて、いくらでもそうめんが食べられた。
翌日、学校は相変わらずの空気だった。(中略)
昼食の時間になると、「萌絵、史奈食べよう」と墨田さんが二人を誘ってしまったから、私は一人で学食に向かった。(中略)
「何してるの?」
声のほうに顔を上げると、前には向井先生が立っていた。(中略)
「(中略)こういうの、時間が解決するし、今少し折り合いが悪くなってるだけで、ほっておいてというか、その、まあ見守っててください」
私がそう付け加えると、
「強いのね。森宮さんは」
と先生は私をじっと見て言った。
教室に戻った私を見ると、墨田さんと矢橋さんがにやりと笑った。(中略)
「優子、男好きだよね。優子のお母さんって、二回旦那替えてるんだっけ。血は争えないよねー」(中略)
きっと、二人が家族のことに触れだしたせいだ。みんなうつむいたり、他のことに気を取られているふりをしたりしてる。(中略)
「それで、今は若い父親と二人で暮らしてるんでしょう。ひくわー」
「優子、父親とできてたりして。こわ」(中略)さっさと端的に説明してしまおうと私は口を開いた。
「えっと、その何回も旦那替えているっていう母親は、二番目の母親だから血はつながってないんだ。で、生みの親ははっきりしてるんだよ。母親は小さいころに亡くなって、父親は海外に行ってしまったから身近にはいないんだけどね。母親が二人、父親が三人いるのは事実だけど。で、なんだっけ? あ、そうそう。今の父親。年が近いって言っても、もう三十七歳だよ。それに、どこか変わっている人というか、とても恋愛関係になりそうな人じゃないから。血もつながってない私の面倒を見てくれるいい人だけど……。これで、以上かな?」
(中略)矢橋さんと墨田さんは少々面食らっている。(中略)
(また明日へ続きます……)