濱口竜介監督・共同脚本の2021年作品『ドライブ・マイ・カー』を「あつぎのえいがかんkiki」で観ました。村上春樹の短編を映画化した2時間59分の大作です。
パンフレットの「STORY」に一部加筆修正させていただくと、
「夜明け前の薄暗い寝室。
「彼女は時々、山賀の家に空き巣が入るようになるの━━」ベッドの上で音(霧島れいか)は静かに話し始める。家福(かふく)(西島秀俊)は驚いた様子もなく、妻が口にするその謎めいた物語に耳を傾ける。
翌朝、家福は愛車のサーブを走らせながら、助手席にいる音に昨晩聞いた物語を語り直す。「変な話」セックスの後に自分の話が語った話を音は覚えていない音は、笑いながらスマホに物語の要点をメモする。脚本家の彼女は、その話を作品にしようと考えているらしい。
「ゴドーを待ちながら」の舞台。演出を手掛ける家福は自らも役者として舞台に立ち、外国人の役者と異なる言語で台詞を交わす、背後のスクリーンには日本語・インドネシア語・英語が代わる代わる投影される。
終演後、音が知り合いの役者を紹介したいと楽屋に入ってくる。「はじめまして。高槻です。奥様にはお世話になっています」音の脚本作品の常連だという高槻(岡田将生)は、彼女と親密そうな雰囲気を漂わせる。「家福さんの演出法は音さんから聞いていて、拝見したかったんです。とても感動しました」高槻は、観終えたばかりの舞台の感想を興奮気味に話す。
早朝、ウラジオストクの演劇祭から招聘された家福は、トランクに荷物を積める。「『ワーニャ伯父さん』の上演台本、吹き込んどいた。もう要るでしょう?」出掛けに、音からカセットテープを受け取る。
空港へ車を走らせる家福。音の声で吹き込まれた『ワーニャ伯父さん』の台詞を聞きながら家福は、ワーニャ役の部分を暗唱する。
空港の駐車場に到着した直後、演劇祭からメールが届く。“寒波が来ており、フライトはキャンセルされました━━”ため息をつき、家福は自宅へと引き返す。
玄関のドアを開けると、喘ぎ声と大音響で流れるクラシックの曲が聴こえてくる。そっと部屋に入る家福。裸の音が男と身体を重ねている姿が鏡に映っている。家福は気づかれないように静かに家を出ると、再び空港の近くのホテルへと車を走らせる。
「無事に着いた?」「うん」ホテルで音とビデオ通話をする家福。ウラジオストクに到着したと思い込んでいる音に、家福は何事もなかったかのように振る舞う。
雨の日、寺。小さな女の子の写真と位牌が置かれている。喪服姿の家福と音は並んでお経を聞いている。帰り道、車を運転する音が家福に聞く。「本当は、もう一度、子供が欲しかった?」「…わからない。誰もあの子の代わりにはなれない」「私ね、あなたのことが本当に大好きなの」音の手を握る家福。
帰宅後、家に着くなり求め合う二人。そして再び音は謎めいた物語の続きを語りだす━━。
翌朝、「昨日の話、覚えてる?」「…ごめん」物語の続きを知りたい音をはぐらかすように、家福はありもしない用事を告げて家を出ようとする。「今晩帰ったら少し話せる?」音の言葉に普段とは違う決意のようなものを感じ取る家福。
目的もなく車を走らせながら、音の声が吹き込まれたカセットテープをかける。「なんてつらいんだろう。この僕のつらさがお前に分かれば━━」家福はワーニャの台詞を暗唱し続ける。
夜。家福は意を決したように帰宅するが、部屋の明かりは消えている。ふと床を見ると音が倒れている。「音、音━━」声をかけても反応がない。救急車を呼ぶ家福。
寺。祭壇には音の遺影が置かれている。喪主を務める家福。「急ですよね。くも膜下って…」遠くで囁く声が聞こえる。次々と訪れる弔問客の中に高槻の姿が見える。高槻は悲しみを湛えた面持ちで家福に頭を下げる。
「二年後」の字幕。家福は、広島国際演劇祭から『ワーニャ伯父さん』の演出を依頼され、東京から広島へと車を走らせる。「お疲れじゃないですか?」到着した劇場エントランスで、演劇祭のプログラマー柚原とドラマトゥルク兼韓国語通訳を担当するユンスが出迎える。
アジア各国から集まった応募書類を渡され、家福は今後のスケジュールや滞在先についての説明を受ける。加えて、柚原から演劇祭の原則で滞在期間中は運転しないよう、専属ドライバーを手配したと告げられる。「運転の時間に、僕は戯曲の台詞を確認します。僕にとって大事な習慣です」申し出を断る家福に、ユンスはテストドライブをして判断してはどうかと提案する。
「渡利みさきです」駐車場。家福の愛車の前に、キャップを被った小柄な若い女性(三浦透子)が立っている。左頬には傷が見える。
(明日へ続きます……)
パンフレットの「STORY」に一部加筆修正させていただくと、
「夜明け前の薄暗い寝室。
「彼女は時々、山賀の家に空き巣が入るようになるの━━」ベッドの上で音(霧島れいか)は静かに話し始める。家福(かふく)(西島秀俊)は驚いた様子もなく、妻が口にするその謎めいた物語に耳を傾ける。
翌朝、家福は愛車のサーブを走らせながら、助手席にいる音に昨晩聞いた物語を語り直す。「変な話」セックスの後に自分の話が語った話を音は覚えていない音は、笑いながらスマホに物語の要点をメモする。脚本家の彼女は、その話を作品にしようと考えているらしい。
「ゴドーを待ちながら」の舞台。演出を手掛ける家福は自らも役者として舞台に立ち、外国人の役者と異なる言語で台詞を交わす、背後のスクリーンには日本語・インドネシア語・英語が代わる代わる投影される。
終演後、音が知り合いの役者を紹介したいと楽屋に入ってくる。「はじめまして。高槻です。奥様にはお世話になっています」音の脚本作品の常連だという高槻(岡田将生)は、彼女と親密そうな雰囲気を漂わせる。「家福さんの演出法は音さんから聞いていて、拝見したかったんです。とても感動しました」高槻は、観終えたばかりの舞台の感想を興奮気味に話す。
早朝、ウラジオストクの演劇祭から招聘された家福は、トランクに荷物を積める。「『ワーニャ伯父さん』の上演台本、吹き込んどいた。もう要るでしょう?」出掛けに、音からカセットテープを受け取る。
空港へ車を走らせる家福。音の声で吹き込まれた『ワーニャ伯父さん』の台詞を聞きながら家福は、ワーニャ役の部分を暗唱する。
空港の駐車場に到着した直後、演劇祭からメールが届く。“寒波が来ており、フライトはキャンセルされました━━”ため息をつき、家福は自宅へと引き返す。
玄関のドアを開けると、喘ぎ声と大音響で流れるクラシックの曲が聴こえてくる。そっと部屋に入る家福。裸の音が男と身体を重ねている姿が鏡に映っている。家福は気づかれないように静かに家を出ると、再び空港の近くのホテルへと車を走らせる。
「無事に着いた?」「うん」ホテルで音とビデオ通話をする家福。ウラジオストクに到着したと思い込んでいる音に、家福は何事もなかったかのように振る舞う。
雨の日、寺。小さな女の子の写真と位牌が置かれている。喪服姿の家福と音は並んでお経を聞いている。帰り道、車を運転する音が家福に聞く。「本当は、もう一度、子供が欲しかった?」「…わからない。誰もあの子の代わりにはなれない」「私ね、あなたのことが本当に大好きなの」音の手を握る家福。
帰宅後、家に着くなり求め合う二人。そして再び音は謎めいた物語の続きを語りだす━━。
翌朝、「昨日の話、覚えてる?」「…ごめん」物語の続きを知りたい音をはぐらかすように、家福はありもしない用事を告げて家を出ようとする。「今晩帰ったら少し話せる?」音の言葉に普段とは違う決意のようなものを感じ取る家福。
目的もなく車を走らせながら、音の声が吹き込まれたカセットテープをかける。「なんてつらいんだろう。この僕のつらさがお前に分かれば━━」家福はワーニャの台詞を暗唱し続ける。
夜。家福は意を決したように帰宅するが、部屋の明かりは消えている。ふと床を見ると音が倒れている。「音、音━━」声をかけても反応がない。救急車を呼ぶ家福。
寺。祭壇には音の遺影が置かれている。喪主を務める家福。「急ですよね。くも膜下って…」遠くで囁く声が聞こえる。次々と訪れる弔問客の中に高槻の姿が見える。高槻は悲しみを湛えた面持ちで家福に頭を下げる。
「二年後」の字幕。家福は、広島国際演劇祭から『ワーニャ伯父さん』の演出を依頼され、東京から広島へと車を走らせる。「お疲れじゃないですか?」到着した劇場エントランスで、演劇祭のプログラマー柚原とドラマトゥルク兼韓国語通訳を担当するユンスが出迎える。
アジア各国から集まった応募書類を渡され、家福は今後のスケジュールや滞在先についての説明を受ける。加えて、柚原から演劇祭の原則で滞在期間中は運転しないよう、専属ドライバーを手配したと告げられる。「運転の時間に、僕は戯曲の台詞を確認します。僕にとって大事な習慣です」申し出を断る家福に、ユンスはテストドライブをして判断してはどうかと提案する。
「渡利みさきです」駐車場。家福の愛車の前に、キャップを被った小柄な若い女性(三浦透子)が立っている。左頬には傷が見える。
(明日へ続きます……)