綱領の立場で日本と世界を見る
特別党学校交流会
不破哲三社研所長の発言<中>
事実に立つからこそ、
国民的探求と党綱領の立場とが接近できる
こうして、自民党政治をなにをもって変えるか、この点をめぐる民主党の側の「政治プロセス」は、自民党の政策と民主党の政策のすりあわせという形で、すでに始まっているのです。今回の「大連立」協議は、民主党側の事情で中断になりましたが、自民党と民主党の政策的配置が変わらない以上、形はいろいろ変わっても、同じような性格の動きがくりかえされることは大いにありうることです。
民主党が「対案」なしの「対決」路線にとどまることはもはや許されないわけですから、国政の前に提起されるどんな問題についても、民主党はいやおうなしに「対案」を示さざるをえないし、その本音を示さざるをえなくなるからです。
そういうなかで、日本共産党が、自民党政治に対決する党として、どんな改革方針、どんな解決策をもっているかが、これまで以上に活動の焦点になってくるという情勢がすすみます。私たちがいま取り組んでいる「綱領を語り、日本の前途を語り合う大運動」は、そういうなかで展開している運動ですから、いま分析してきた自民党と民主党の接近の動きなども、すべて、この運動を豊かにする栄養になるものです。
私は最初のところで、私たちが綱領で提起している日本社会の認識や日本改革の方向づけは、「原理」からではなく、「事実」から出発してえられたものだということを強調しましたが、そのことは、この運動をすすめる上でも大事になってきます。
私たちは、この運動で、国民のみなさんのあいだに、わが党の独特の思想や政策を、外から持ち込もうとしているのではないのです。
海外派兵が問題になります。憲法第九条が、海外への軍隊の派遣や武力行使を禁じているということは、憲法の条文を読んだものなら、誰にでもすぐ分かる話です。また、アフガニスタン戦争やイラク戦争が、テロ問題を解決できずに、テロの危険を、この二つの国の全域に、また世界全体に広げただけだということも、なにか特別な理論をもちださないでも、事実を見れば分かることです。
財源問題についてもそうです。財界が、「神武景気」や「岩戸景気」の時代をはるかに上回る巨額の利益をあげている一方、国民生活には危機的な状態が広がっている――このことは、無数の事実、国民の無数の体験が示していることです。そのときに、新しい政策の財源を、財界・大企業が負担すべきか、生活苦にあえぐ国民が負担すべきか、この問題も解決に特別の理論を必要とすることではないでしょう。
しかも、私たちの打開策は、圧倒的多数の国民の利益に合致する合理性をもっているのです。ですから、さまざまな悩み、要求をもっている人たちに、自分たちがおかれている立場とそれをめぐる事実関係をきちんと理解してもらえれば、その方の認識とわが党の立場とはおのずから接近することになります。
まじめに国民の利益を考え、国民の利益を追求すれば、大企業・財界の横暴とアメリカへの従属という、諸悪の二つの根源に必ずぶつかるし、それをとりのぞこうと思えば、日本共産党の路線に必ず接近してくる――綱領の立場で日本を見るというとき、この点に確信をもつことが重要だということを、最後にもう一度強調しておきたい、と思います。
世界の動きを大きくとらえる3つの視点
次に世界の問題です。綱領の世界論は、昨年三月の講義のときに、かなり詳しく話しましたが、今日は、わが党の世界論の大きく見た特徴はなにか、ということを、いくつかの角度からとりあげたいと思います。
アメリカの力の過大評価をしない
一つは、アメリカの力の評価という問題です。私たちは、アメリカの力も事実にもとづいてリアリズムで見ていますが、世界論ではアメリカの力を過大評価する見方が、結構ひろくあります。とくに日本の政界では、アメリカの力はすごいと思い込んでいる傾向が非常に強くあって、それが日本外交の政策方向をしばしば狂わせるのです。
綱領が明確にしているように、いまの世界は、どんなに巨大な力をもった超大国であっても、一国で動かせる世界ではありません。実際、すでに七年にわたるアフガニスタン戦争や五年にわたるイラク戦争の現状は、そのことをなによりも雄弁に実証しています。
おそらくブッシュ大統領は、アメリカは無敵だと思い込み、アフガニスタンとイラクの「敵」をかたづければ、アメリカ的価値観を中東全体に押し広げ、イスラム世界全体を自分の影響下におさえこめられる、こういう意気込みでこの二つの戦争をはじめたのでしょう。ところが、この戦争は、アフガニスタンで失敗し、イラクで失敗し、アメリカ国内でも、戦争はもうやめてくれ、という声が多数になるところまで来ています。
そうなると、アメリカの世界戦略自体にも、二面性が出てこざるをえないのです。テロや大量破壊兵器の疑惑があれば、確証がなくても先制攻撃をくわえる、こういう問答無用の勝手な論理でアフガニスタンとイラクを片づけようとした。では北朝鮮も同じやり方で攻めるのか、というと、もうそうはゆかなくなりました。そこで交渉による解決を前面に押し出した対話外交への大転換が起こったのです。
対中国政策でも、アメリカの「国防教書」などを見ますと、中国はこれからアメリカにとって脅威となる可能性をもった国だと位置づけて、勇ましい議論を展開したりしていますが、それだけの単純なやり方では現実の外交はできないのです。アメリカと中国は「戦略的パートナー」だと確認しあう。戦略的パートナーとは、戦争の相手国ではないのです。双方の戦略的、大局的な利益からいって、互いに共通の利益を重視するパートナーだという位置づけです。現実には、そういう外交をせざるをえなくなっています。だから、ブッシュの第一期政権では、ネオコン(新保守主義者)が中心でしたが、第二期政権ではネオコンはほとんどはずれて、影響力はなくなってきました。
自民党外交は、この変化を完全に見損ないました。それで、自分としては、アメリカの戦略どおりの動きをしているつもりで、気がついたら、アメリカ外交とのあいだに大きな溝ができてしまった、こういう不始末なありさまです。
綱領の世界論の強さは、アメリカの力の評価もふくめ、すべてをリアルに、事実にもとづいて見ているところにあるのです。そしてこのことは、日本のように、国の全体が体制的にアメリカへの従属下にある国では、とりわけ重要なことを指摘しておきたいと思います。
新しい活力を得たソ連崩壊後の世界
第二は、二〇世紀の最後の時期におきた出来事――ソ連の崩壊以後の世界をどう見るか、という問題です。
ヨーロッパの平和と進歩の勢力の一部には、現在の世界を見るとき、平和と進歩の側が弱くなった、不利になったという暗い見方が、広くあることに気づきます。私たちは、二一世紀の世界をたいへん躍動する面白い世界だと見ているのですが、逆なのです。
なぜこういう見方になるのか、調べてみると、「明」と「暗」を分ける一つの大きな問題は、ソ連の崩壊にたいする見方にあることが分かりました。間違いがあったとはいっても、頼りにしていたソ連がなくなって平和と進歩の勢力が大後退した、そこから、いま世界は圧倒的に資本主義一色になって中国やベトナムも市場経済にのみこまれつつあるなどの悲観的な見方が生まれ、アメリカやブッシュ戦略などもうんと大きく見えるのです。
ところが、ソ連崩壊以来十六年の世界史が示している現実は、それとはまったく逆のことでした。一口にいって、世界の全大陸が活力に満ちています。
(一)ヨーロッパでは、以前、アメリカを大西洋をこえた指導国としてみんなでかついでいた時代とは違って、はじめて活発な外交が復活しています。元気のいい主役は、そのときどき変わります。イラク戦争が始まるときには、フランスがドイツと組んで、アメリカに「ノー」をつきつけました。いまはフランスは政権が右寄りになって様子がちがっていますが、ともかくどの国も自主外交を当然のこととして、独自の外交を展開しています。
「米ソ対決」の時代には、ソ連への対抗のためにアメリカ中心に団結したが、その脅威がなくなったら、もうその必要はない、独自の外交で、自分の結論が違ったらアメリカにも平気で「ノー」という。アメリカと違う立場をとるには、清水の舞台から飛び降りるような勇気がいる、これほど思い詰めた国は、ヨーロッパにはほとんどないのです。
(二)世界の経済的な力関係も、着実に変わりつつあります。
中国とベトナムが、それぞれ独自の探究の結論として「市場経済を通じて社会主義へ」という路線に到達したことは、社会主義をめざす国ぐにの経済的発展に、世界の力関係を変えるような力をあたえつつあります。
この点で、二〇〇六年に、国際機関のIMF(国際通貨基金)が面白い発表をしました。いま各国の経済規模はGDP(国内総生産)ではかるのが普通ですが、IMFによると、この数字は、各国の通貨の購買力の違いを念頭においていないから、合理的でないというのです。中国などは国内の物価が安いから、生産高を通貨ではかると低くでる。その点を考慮にいれてGDPを計算しなおすと、世界の様子が違って見えてきます。普通のGDPで比較すると(二〇〇六年度)、アメリカが一位、中国はずっと下がって六位ですが、新しい数字では、中国が二位に上がって、一位のアメリカとの差がわずかのところまで迫っていました(世界経済に占める比重・アメリカ20%、中国15%)。最近発表された〇七年度の推計を見ると、世界経済での比重はアメリカ19%、中国16%で、差はさらに縮まっていました。
こういう数字が公的な国際機関から発表されるほど、世界の経済的な力関係はまさに大変動のなかにあるのです。
中国など社会主義をめざしつつある国と、世界の他の地域の国ぐにとの関係が大きく違ってきていることにも注目しなければなりません。ソ連が存在していた時代には、「社会主義」はチェコスロバキア事件やアフガニスタン侵略などの覇権主義と不可分のものと見られていました。そのソ連が崩壊し、中国のやり方は覇権主義とは無縁だということが分かると、世界中の国ぐにが安心してこの国との経済・貿易関係を発展させます。ですから、いま世界のあらゆる大陸で、中国との経済交流が大きな比重をもつようになっています。この面でも、ソ連覇権主義の崩壊は、世界の活性化に貢献しているのです。
(三)アジア、アフリカ、ラテンアメリカの変化も、講義でかなり詳しく話しました。「米ソ対決」時代には、両方に気兼ねして自由にものを言えない状態があり、ベトナム戦争の時もアフガニスタン侵略の時も、アメリカやソ連の問題が国連にもちだせませんでした。しかし、いまはその制約もなくなり、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの諸国は、国連の舞台での活動も活発だが、お互いのあいだの外交もものすごく活発です。
このように、本当に世界の全大陸が活力を増しているのです。これをリアルに見ているのが党綱領の世界論ですし、私たちの野党外交は、この活力ある世界の現状に対応して、自由闊達(かったつ)に展開しているのです