北京五輪には「本物の雪」がない?
電気の消費で気候対応に逆行…ウィンタースポーツの価格上昇は不可避
中盤に入った中国の北京冬季五輪は、史上初めて100%の人工雪で行われている。気候変動により人工雪なしには五輪を実施できず、人工雪の生産には莫大な水と電気を用いるため気候変動を促すという悪循環が繰り返されている。
異常な気温の高さにより困難に直面した2014年のロシアのソチ五輪の際には、80%を人工雪が占め、2018年の平昌(ピョンチャン)五輪の際も90%が人工雪だった。カナダのウォータールー大学は先月、現在のように温室効果ガスを排出していくと、2080年頃は、過去に冬季五輪を開催した21カ所のうちわずか1カ所でしか五輪を実施できないという分析を出した。
人為的に氷雪を初めて作ったのは、1964年のオーストリアのインスブルック冬季五輪の時だった。当時は雪が降らなかったため、オーストリアは軍隊を動員し、2万個の氷塊と4万立方メートルの雪を空輸し競技場を作った。機械で作る人工雪は、1980年の米国レークプラシッド五輪で初めて用いられた。
雪を製造するためには莫大な資金と環境コストを要する。中国は、今回の冬季五輪で雪を作るためだけに、2兆ウォン(約1900億円)の予算と1億8500万リットルの水を使った。1億人が一日に飲む飲料水に匹敵する量だ。中国政府は五輪後に雪を溶かして再利用する方針だとしているが、40%は蒸発するだろうと専門家らは指摘する。
科学者らは自然雪と人工雪は違うという。ソチと平昌に雪を供給した米国のSMI造雪会社のジョー・バンダーケレン社長は、「機械で製造した雪は本物の雪」だと米国のインターネットメディア「VOX」に語った。しかし、カリフォルニア工科大学のケネス・リブレヒト教授は「人工雪が科学的に正確な用語」だと反論した。
人工雪を製造するためには、機械が水を圧縮空気と混合した後、混合物を斜めに吹きだす。水は落ちるにつれ凍っていき、スロープで白い物体に変わる。一方、自然雪は、直径数マイクロメートル(100万分の1メートル)の小さな水滴から始まる。この核を中心に空気中のほこりや異物が付着し雪が作られる。核が周辺の空気から水蒸気を吸収し、中から外側に大きくなり、完璧に対称的なフラクタル(全体を部分に分割した場合、部分のなかに全体の姿が含まれている幾何学的な図形)すなわち雪の結晶を形成するには、1時間程度を要する。
二つの雪の違いは、顕微鏡で観察すると明確に表れる。人工雪は雪の結晶ではなく、あたかも氷の微粒子のように見える。また、人工雪は氷が30%、空気が70%である一方、自然雪は氷が10%、空気が90%だ。
テキサスA&M大学のジェシカ・マーフリー教授は「気候変動のために人気を得ている人工降雪機は、途方もない電力を消費し、気候変動を悪化させうる。雪の製造に要する費用によりウィンタースポーツの費用が上がり、すでにエリート主義だと評されているスノースポーツ(雪の上で行われるスポーツ)をよりいっそう不平等にしかねない」と指摘した。