大橋みつるの平和ト-ク・・世直しご一緒に!

世界の変化を見ながら世直し提言
朝鮮・韓国・中国・ロシアとの友好促進
日本語版新聞紹介

最初から妻の口を封じておけば言い争いは起きません。家父長制の支配のために女性の口を封じる目的があったと思います。

2025-01-03 | ジェンダー平等の社会を!

2025年1月3日(金)

ジェンダー平等実現に踏み出そう

新春対談 田村智子委員長×角田由紀子弁護士

 男女賃金格差をはじめ女性差別の問題を国会で追及してきた日本共産党の田村智子委員長と、性暴力被害者の権利擁護活動に力を注ぐ角田由紀子弁護士が、日本の女性差別を鋭く問い、ジェンダー平等実現の展望を縦横に語り合いました。


「私は寅子」 広がった共感

写真

(写真)(左から)田村智子委員長、角田由紀子弁護士

 田村智子委員長 あけましておめでとうございます。長年、司法の分野から女性差別に抗し、ジェンダー平等のためにたたかってこられた角田さんを今回の対談にお迎えして、本当に光栄です。よろしくお願いいたします。

 角田由紀子弁護士 あけましておめでとうございます。昨年は、政治や経済、司法のあらゆる分野で日本の異常な女性差別の現状が浮き彫りになる1年でした。田村さんとお話しできることを楽しみにしてきました。どうぞよろしくお願いいたします。

 田村 昨年は、NHKの連続テレビ小説「虎に翼」が大きな話題になり、女性を中心に「トラつば現象」と言われるほどでした。ドラマでは、戦前いかに女性が無権利状態だったかが描かれました。私が衝撃だったのは戦前の民法14条で妻が「無能力者」(※)とされていたことです。

 角田 女性は戦前、法的に客体の存在でした。なぜ「無能力」にされたと思います?

 田村 なぜですか?

 角田 民法の大家・我妻栄さんの戦前の『民法総則』には「夫婦円満のため」だとあります。私の推測ですが、言い争いになって妻の意見に理があれば夫の面目がつぶれる恐れがある。最初から妻の口を封じておけば言い争いは起きません。家父長制の支配のために女性の口を封じる目的があったと思います。

 田村 教育勅語にも「夫婦相和し」とあります。戦前の「家」制度では家父長に絶対的な権限を与えて、妻を黙らせる、それが円満な家庭ということですね。

 角田 考えたり発言したりすることを奪っておけば、違う意見も持ちようがない。支配側にとって実に「合理的」な制度だと思います。

 田村 共産党の月刊誌『女性のひろば』が「私は寅子」という手記を募集したら、「24歳までに結婚しなければ」「女に学問は必要ない」など、戦後も、ジェンダー(女・男はこうあるべき)の「呪文」が、日常的にシャワーのように降り注いでいたことがつづられています。だからこそ「はて」という問いかけに、多くの人が共感したのだと思います。

 角田 「はて」と感じて、さらに法制度、社会を変える運動に踏み出す女性が本当に増えていますね。

 田村 大きなうねりになっています。同性婚や選択的夫婦別姓の実現を求める声は、司法や経済界を動かしている。10月には、国連・女性差別撤廃委員会による日本政府報告の審査が8年ぶりに行われ、選択的夫婦別姓がまだ実施されていないことなどに、厳しい勧告も出されました。

 角田 婚姻がそうですが、あくまで時代ごとの、一つの社会制度だと認識する必要があります。

 田村 多様性を尊重する社会になっているのに、多様な家族を認めない法制度に対して、「はて」だけでなく「なぜ」と問うことが社会を変革する力となっていくのですね。

 ※妻の「無能力」 戦前の旧民法14条で結婚した女性は遺産相続や労働、賃貸契約などを夫の許可なく行うことを認められておらず、法律行為を行う能力がないとみなされていました。

憲法に追いついていない現実

写真

(写真)角田由紀子弁護士 つのだ・ゆきこ 1942年生まれ。弁護士。89年のセクハラに関する国内最初の訴訟で代理人を務める。『性の法律学』(91年、有斐閣)、『性差別と暴力』(2001年、同)など著書多数。

写真

(写真)田村智子委員長

 田村 角田さんが弁護士になられたのは1975年です。やはり女性差別に対する怒りが…。

 角田 最初から女性差別に自覚的だったわけではありません。今の私の原点は「徳島ラジオ商殺害事件」(※①)の再審弁護団への加入でした。

 田村 女性が亡くなった後に再審によって無罪判決を勝ち取った、えん罪事件ですね。子どもの頃にドラマを見て、検察のずさんな捜査や筋の通らない判決に憤りを感じたことを覚えています。

 角田 冨士茂子さんはラジオ商(現在の電器店)で働きながら娘を育てる商才のある女性でした。殺害された男性とは内縁の関係にありました。一審の判決で殺害動機は「いつまでも内縁の妻の地位であることに不満を抱き本妻になりたかった」とされた。女性は嫉妬深くて愚かだから、本妻になりたくて内縁の夫を殺したのだというのです。

 田村 それでは本妻にはなれない。

 角田 私は弁護団に加入してすぐに「むちゃくちゃな動機づけだ」と指摘しました。冨士さんはラジオ商の共同経営者として経済力があり、法律婚は二度とごめんと離婚経験から確信していて、本妻にと求められても拒否していた。ところが裁判官も検察官も全員男性で「女性はこういうものだ」という、ろこつな女性蔑視が実刑判決には示されていたのです。

 田村 戦後も男尊女卑の考え方がはびこっていたことが、よくわかります。「虎に翼」でも、日本国憲法14条の条文が繰り返し掲げられましたが、法の下の平等が基本的人権とされながら、現実が今も憲法に追いついていないことを何度も考えさせられました。

 角田 残念ながら、現在も女性の裁判官は2割にとどまり、法曹界でジェンダー主流化が進んでいるとは言えません。背景には法学や法律教育の問題もあります。判例中心の司法試験の仕組みがそうですが、長年の男性中心の法律学と実務のあり方を受容し、型にはまることが求められている。過去の判例を学ぶことは重要ですが、それでは法律がいかに男性中心であっても「なぜ」と問う発想が生まれなくなるのです。「そういうものだ」と受忍してしまう。順天堂大学など医学部入試の女性差別問題での三つの裁判では、裁判長は全員女性で原告女性が勝利したのですが、判例にならったように慰謝料は1人あたりわずか20万~30万円でした。

 田村 女性差別という人権侵害への賠償額とはとても言えない額ですね。

 角田 歴史的にみれば、民法も刑法も法律自体が、男性中心の視点で作られていました。しかしそのような法制度の成り立ちを学ぶ視点が法律教育に欠けています。これでは法律家に「私の手で法律を変えよう」という意識や発想が育ちません。

 田村 角田さんがそのことに気づいたのは、どういう経験からでしょうか?

 角田 依頼者からの相談を受けるなかで、意識が育ってきました。「今の法律、判例はこうだから諦めてください」と説明しますが、「法律が間違っているのではないですか」という当事者も少なからずいました。性暴力でも婚姻の問題でも、教科書で現行の法制度の内容を教えるだけでは、被害者が受けている現実を理解できないのです。

 田村 法律に現実を合わせるのではなく、人権の尊重の立場で法律を変えていく、これは立法府にも問われている立場ですね。

性犯罪の被害者が立ち上がり刑法改正へ

 田村 私は日本のジェンダー平等の遅れを打開するために、女性差別撤廃条約を力にしていきたいと思っています。昨年は、条約に基づく日本政府の取り組みについて、国連・女性差別撤廃委員会(CEDAW)が8年ぶりに審査を行いました。審査の結果とも言える「総括所見」で、日本政府の取り組みで肯定的に評価されたのは、すべて女性をはじめ市民の長年の運動で勝ちとられたものばかりです。なかでも、2023年の刑法改正によって、「不同意性交等罪」を創設したことは本当に重要だったと思います。「嫌だ」という意思表示をしても死に物狂いの抵抗をしなければ性犯罪と認められない。この不条理が多くの女性たちを苦しめ、傷つけてきました。

 角田 「強姦(ごうかん)罪」ができた1907年から保護の対象は、女性ではなく女性の「貞操」だとされてきました。けれど、どの刑法の教科書を見ても「貞操」の説明はありません。一般的には「女が男のために性的に身を慎むこと」だと理解されています。

 田村 これも「なぜ」と「はて」で考えるべきですね。戦前の家制度では、妻は確実に夫の子どもを産むことを求められた。女性の「貞操」とは、夫以外の子を産まないために必要とされた価値観ということですね。

 角田 それを妨害する男を処罰するのが強姦罪でした。一部の男を罰することで妻が間違いなく夫の子を産む仕組みを守ろうとしたのだと思います。

 田村 「性暴力は魂の殺人」と言われるほど激しい権利侵害なのに、女性の人権という視点を欠いていたのですね。

 角田 長い間、「性犯罪には被害者が存在しない」と言われてきました。法学、法律教育では加害者側つまり処罰のあり方ばかりが問題とされてきました。

 田村 それでは被害者救済の議論が置き去りになります。

 角田 被害者救済など、最初からないことにされていたというのが実感です。私は86年から性犯罪被害者支援を行う「東京・強姦救援センター」の法律顧問を務めました。被害者は法的救済を求めてくる。ここで私は東大法学部での学びが実態と全然違うことを知ることができました。

 田村 性暴力の被害に対して「恥だ」とする誤った理解も社会にまん延していました。

 角田 日本には「襲われても仕方がない服を着ていた」などと被害者に落ち度をなすりつける「被害者落ち度論」が根強くあります。当事者が被害を訴えるには、落ち度論を乗り越えるだけの力を要しました。さらに強姦罪は親告罪でした。被害者本人が名乗り出なければ罪に問えない仕組みです。「被害者のプライバシーを守るため」だとされてきましたが、実態は声を上げれば厳しい裁判手続きが待っていることへの覚悟を被害者に問う制度です。法制度で被害者の口封じを確保していたと言えます。

 田村 この刑法を改正へと動かしたのは、フラワーデモなど被害者たちの勇気ある告発でした。同意がないことを事実認定しながら無罪となった性暴力事件の判決に女性たちの怒りが爆発して、被害者が沈黙を破った。その意義の深さをあらためて実感します。

 角田 法制審議会委員を務めた山本潤さん(一般社団法人スプリング元代表)をはじめ被害を受けた本人が経験を話したのです。否定したくてもできません。本人が話すのだから。

 田村 フラワーデモ、「#MeToo」の運動から私たち日本共産党も多くを学んで2020年の綱領一部改定で「ジェンダー平等」を明記しました。そのことが私たちの議会質問や活動にも質的な変化をもたらしたと実感しています。都議団は、「痴漢は性犯罪だ」として被害実態のアンケート調査に取り組みました。中・高校生が「電車通学で毎日のように痴漢に遭い続ける」「ストレスで学校に行けなくなった」などの深刻な実態には私も衝撃を受けました。「痴漢ゼロ」を掲げてずっと取り組んできた市民のみなさんと協力して、鉄道会社や東京都、国に対策を要請した、この取り組みは、各地に広がっています。また、受験生を狙った痴漢を許さないと市民が立ち上がり、地方議員も連帯して取り組むなどさまざまな運動も広がっています。

 角田 運動になったことが大きな力になりましたね。

 田村 内閣府も23年に「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」を打ち出し、昨年は初めて実態調査も行いました。また、性暴力について「やった方が悪い」という啓発ポスターも作られました。「家に遊びに来た」「一緒にお酒を飲んだ」などという加害者の主張を正面から否定するもので、私の国会事務所にも張り出しています。

 角田 事実こそ力なのだと思います。いまも大阪高裁で、滋賀医科大学の男子学生による性暴力事件での無罪判決に対し大きな批判が起きています。いくら「うそだ」と言われても、被害者は事実を知っている。全国であまりにたくさんの被害者が街頭に出るから、もはや事実を封じ込めることはできなくなった。裁判では、たとえ低額でも損害賠償請求やセクシュアルハラスメントを訴える人が増えています。事実が力になり、被害を公に訴えていいのだという力を当事者に付与したのだと思います。

選択的夫婦別姓で「風景」が変わる

写真

(写真)CEDAW日本審査の参加団体による活動報告=2024年12月3日、国会内

 角田 昨年10月のCEDAWによる日本政府報告書の審査には、たくさんのNGO団体が条約のカウンターリポート(※②)を提出しました。CEDAWもその行動に応えて、審査では多くの質問で日本政府の責任を追及しました。

 田村 私もジュネーブまで審査に参加した女性たちからお話を直接聞きました。初めて参加した若い世代の女性たちが、長年運動してきた方々からレクチャーも受けて発言に臨んだことや、各団体が役割分担もしながら、短時間の発言で日本の課題を鮮明に伝えることができたと、みなさん生き生きと報告してくれました。

 角田 みなさん、自信を付けて帰国されたのでは?

 田村 元気いっぱいです。沸き立つように議員要請や議員会館での集会を次々と行っていますね。今回の日本審査の焦点の一つは選択的夫婦別姓です。日本経団連も政府に要請した。政治も社会も大きく動かしてきました。しかし自民党政治では実現しない。ここでも「はて」と「なぜ」に踏み込む必要があると思います。なぜ同姓の強制なのかということです。

 角田 「選択」ということは、「選択したい人」だけが別姓にする、同姓がいい人はそれでいいと言っているのに。

 田村 一部の自民党議員が頑として認めようとしない。

 角田 家父長制にとって「選択」ということに大きな意味がありますね。自分の大事な生き方を選択する、しかも主として女性の選択です。選択は自己が確立していないとできません。「自分はどうしたいのか」ときちんと考えることができて、意思表示・表現をする。家父長制にとって被支配者が選択、意思表示をすることは支配の崩壊につながります。

 田村 家父長制支配の根幹に関わる問題ですよね。私は、選択的夫婦別姓の実現は、それを求める人だけでなく、社会の風景が変わると思うのです。

 角田 自民党もそのことが分かっているから「選択」を許さないのでしょう。

 田村 私は姓を変えた一人です。婚姻届を書くときに、小さなモヤモヤはありましたが、パートナーと話し合うこともなかった。「夫の姓になるのは当たり前」という思いもあった。それから、両親は私が民青、共産党で活動することに強く反対し心配していた。そんな私が「結婚する」と喜び安心しているのが分かりました。それなのに「婚姻届を出さない」とか「私の姓にする」と言えば、また親に不安材料を与えるという思いもありました。

 角田 私も、改姓した一人です。もっと時代的な制約があって、小学校までは「お嫁に行く」以上の将来像を描くことができなかった。女性の社会的な人生は結婚して終了という社会の意識が強かった。偶然が重なって弁護士を目指すことになりましたが、もともとは国文学科を卒業して国語の教員になろうと思っていました。手に職を持ちたい考えはありましたが、周りを見ても、ほとんど選択肢が女性には示されていなかった。

 田村 15年と21年の最高裁の判決で同姓の強制が憲法違反ではない、男女平等に反しないとされたときに、急に怒りが沸点を超えました。私がいだいていたモヤモヤの意味が初めて自覚化されたのです。同姓となることに、圧倒的に女性の側が悩んだり、不利益を受けていることは明らかなのに、これが女性への差別ではないとはどういうことかと。そういう女性はたくさんいたと思います。

 角田 だから風景が変わると?

 田村 選択的夫婦別姓になると、まず話し合いから始まる。姓を同一にするのか、別々にするか、同一にするならどちらにするかという話し合いが男女対等に行われるようになる。これは結婚の風景が変わりますよ。

 角田 家父長制が根強い婚姻制度の本質が変わりますね。選択をさせないというのは、対等に話し合いをさせないということです。戦前の妻の無能力につながる思想ですね。

 田村 婚姻だけでなく、「なぜ」と「はて」の力で、社会のあらゆる場面で個人の尊厳が問われる、風穴を開ける突破口になると思っています。

 角田 選択的夫婦別姓の実現は、1996年の法制審議会の答申がすでにあります。あとはその答申に基づいて政府が法案を作成すればいいだけです。

 田村 衆議院では、昨年の総選挙の結果、自民・公明の与党は過半数割れをした。法案審議の条件はあります。

 角田 野党が法案を提出して審議してほしい。その様子が報道されるじゃないですか。すごく大きなことです。

 田村 通常国会で、選択的夫婦別姓を制度化する法案を審議して、婚姻制度のそもそもから質問したら政府はどう答えるのかと、面白いですね。国民の前で議論するためにも国会での法案審議をなんとしても実現したいです。

 角田 これまでの制度のままにしてどういう利益を誰が得ようとしているのか、はっきりさせたらいいと思います。

 ※①「徳島ラジオ商殺害事件」 1953年に徳島市のラジオ商店内で店主男性が殺害された事件。検察は店員の証言から男性の内縁の冨士茂子さんを逮捕。懲役13年の刑確定後、再審請求中の79年に死去しました。80年に徳島地裁が再審決定、85年に同地裁は無罪判決を出しました。

 ※②NGOカウンターリポート 女性差別撤廃委員会などの各国審査で、市民社会や国内人権機関が政府報告書の記述の誤りや不足を指摘し審査に反映させる報告書(リポート)。各国政府の報告書とともに参考にされます。

男女賃金格差は国際水準で解消を

 田村 男女賃金格差の是正は、ジェンダー平等を進める中心的な課題です。日本政府が85年に女性差別撤廃条約を批准するためには、男女雇用機会均等法の成立が必要でした。窓口業務や事務を女性のみ、営業は男性のみなどの募集は男女差別そのものです。ところが、財界・大企業は均等法で男女別募集が禁止されるとすぐに「コース別人事制度」をつくった。女性を安上がりな労働力とする仕組みを温存する意図は明らかでした。

 角田 相手なりに知恵を絞るということです。男女賃金格差は、生涯年収で1億円の差だといいます。

 田村 年金を含めればさらに格差は広がります。私はこれは女性に対する間接差別(※③)だと国会でも追及してきました。

 角田 国会ではどのように追及されましたか?

 田村 例えば、大手デパートの正社員を例に挙げました。募集要項には、新人の仕事は皆同じで「売り場での業務」と示されています。ところが入社時から「総合職(主に男性)」と「一般職(主に女性)」の間には初任給から格差がある。同じ仕事なのにこの格差は、女性に対する間接差別だと追及したのです。ところが政府の答弁は「職務上の差異であって差別ではない」というのです。

 角田 職務上の差異が、性別に基づいて生じているのだから、女性差別そのものです。

 田村 厚生労働省の最新の統計で、「総合職」に占める男性の割合は7割超。「コース別人事制度」採用企業の6割が従業員5000人超の大企業です。男女別賃金の公表が義務付けられたことで、大企業ほど男女賃金格差が大きいことも明らかとなっています。「コース別人事制度」という間接差別をいつまで放置するのかが、問われています。

 角田 雇用機会均等法は、女性差別撤廃条約の形だけの批准のためでしかなかった。本当に機会均等や女性差別の解消などするつもりはなかったのだと思います。

 田村 昨年、初めて女性労働者への間接差別を認める判決が東京地裁で確定したことに注目しています。国内ガラス最大手AGCの子会社の一般職の女性が総合職との賃金格差などを女性差別だとして提訴した「AGC裁判」です。勝利報告集会に私も参加し、原告女性の話を聞きました。総合職の上司と同じ仕事をしていたのに賃金は低い、住宅手当も総合職との大きな差がある。会社との交渉では「女性は結婚したら家庭に入る」「男は稼ぎ頭で家族を養う必要がある」と言われて、今の時代に、こんな女性差別をこのままにしていいはずがないと、裁判でたたかう決意をしたのだと言います。会社は女性が担ってきた業務を取り上げるなど見せしめ的に嫌がらせをする、会社に出勤する途中で涙が出たこともあるという言葉に、彼女の涙の後ろには幾多の女性の涙があると思わずにはいられませんでした。

 角田 この裁判の代理人の一人は、今野久子弁護士です。今野さんは法曹界で有名な第30期司法修習生に対する女性差別問題の当事者の1人でした。

 田村 どんな問題ですか?

 角田 修習生の旅行の際に、列車の中で教官の裁判官が女子修習生を呼びつけ、「法曹界は女の来る世界じゃない」「嫁のもらい手がいなくなり親が悲しむ」「家庭に入れ」「法律家になるな」などと暴言を述べたのです。今野さんは膝詰め談判されても断固拒否した。彼女は女性の労働権を守る弁護活動を長年続けています。AGC裁判の代理人に彼女を見た時、紡がれてきた女性のたたかいの歴史を感じました。

 田村 AGC裁判の判決は、住宅手当については「間接差別」だと認めました。これは雇用機会均等法が規定する限定的な要件を超えたもので、法改正も進めるべきです。一方で賃金については女性差別を認めなかった、今後のたたかいの核心部分だと思います。

 角田 国際水準での女性差別の解消、ジェンダー平等政策が求められていると思います。私はロースクールで講義する際、物事を縦(歴史的)と横(国際比較)で考えるよう伝えていました。裁判官には国際水準から見て判決を出す勇気を持ってほしい。ただ、女性の裁判官の中には、男性中心の序列社会で対等に競争している人が多いので「女性差別」がわからない人もいるのも事実ですが。

 田村 国際水準の問いかけは本当に必要ですね。EUでは、企業に男女別賃金の公表だけでなく、賃金格差がある場合、その理由の説明を義務付け、合理性がないと判断された場合には是正を義務づけるルールがあります。日本でも、共産党議員団が立て続けに国会質問をして、男女別賃金や正規・非正規の男女の割合などの公表が企業や国・自治体に義務付けられました。さらに、企業に是正計画を作らせて実行を迫るところまで前進させたいと思います。

ジェンダー平等は、経済の発展にも不可欠

 田村 「コース別人事制度」が大企業で温存されているのですから、「2020年度までに管理職に占める女性の割合を30%に」と掲げても達成できなかったのは当然です。世界はすでに50%を目指しています。これでは、世界からどんどん立ち遅れてしまう。昨年、ベルギー大使館から、経済分野でのジェンダー平等を考えるというシンポジウムへの招待を受けました。日本企業で取締役に就任した女性3人がスピーチしたのですが、そのうち2人は社外取締役です。交流の時間に話しかけたのですが、2人とも「社内で女性の登用という構造になっていない」「コース別人事制度を維持したままでは無理だ」と言うのです。

 角田 投資分野では「ジェンダー平等」が指標の一つになっていることも見る必要があります。世界経済フォーラムの毎年の「ジェンダーギャップ指数」が話題になりますが、このフォーラムは人権擁護団体ではありません。経済発展を促進することが目的の団体が、ジェンダー平等に力を入れるべきだと指摘している。ジェンダー平等が経済発展の基礎だと気づいたわけですが、日本の経済界は何をしているのかと言いたいです。

 田村 女性への間接差別の背景には、性別役割分担の根深い考え方があります。女性は家庭のことを担い、男性は家庭を顧みず長時間労働、単身赴任。これでは、男性も女性も豊かな人生を送ることにはならないし、経済も発展しない。日本の長時間労働の問題も含め、社会のあり方をジェンダー平等の視点でとらえて改革することが求められていると思います。

戦後80年日本の在り方を問う選択議定書の批准を

写真

(写真)在り方を問う選択議定書の批准を性暴力は許さないと花を手に「フラワーデモ」に参加した人たち=2019年7月11日、東京駅前

 田村 現状を変えるためにも、女性差別撤廃条約の選択議定書の批准がますます必要となっていると考えています。選択議定書は、個人通報制度と調査制度を定めています。日本で手を尽くしても女性差別が認められなかった場合に、条約に照らしてどうなのかを国連機関で審査してほしいと求める権利を個人に認めるということです。条約の実効性を確保するために、条約批准国の多くが選択議定書も批准していますが、日本政府は四半世紀も「検討中」のままです。それは条約に照らして、日本の法律や制度を変えていくことを阻んでいるのではないでしょうか。

 角田 中国電力による女性労働者への賃金差別の裁判では、最高裁が男性の昇格が早いことを認めながら、女性差別だとは認めませんでした。女性の低賃金構造が明らかなのに、条約に照らして事実を受け止めようという姿勢が司法にも見られません。この問題でも選択議定書を批准していれば、違った展望が描けた可能性もあります。

 田村 CEDAWの「総括所見」を角田さんはどのように受け止めておられますか。

 角田 女性の議員を増やすために、選挙供託金の減額を提起していることに注目しました。供託金の源流は1925年の「普通選挙」にまでさかのぼるんです。なぜかというと無産者の出現を阻止するというのが高い供託金の目的でしたが、いまでは女性と若者を排除する仕組みとして機能している。国政で300万円などあきれた金額です。

 田村 「総括所見」では、2年後までに進捗(しんちょく)状況を報告をするようにと、供託金の問題、選択的夫婦別姓、緊急避妊薬と人工妊娠中絶の問題を具体的に指摘しています。避妊や中絶というのは、女性としての根源的な問題で、これを女性の権利としてとらえて、若い人たちが運動してきた分野でもあります。

 角田 女性が中絶をするのに夫の同意を必要とする母体保護法の「配偶者同意要件」に批判が高まっています。女性が持つ自分の身体の決定権に対する男性の拒否権ですよ。なぜ戦後も議論もなく放置されてきたのか。ようやく変だよねと言われるようになってきた。あまりにも悲惨な女性の生活に対し、男の人には経験する必要がないからわからないのです。女性議員を増やすことが決定的だと思います。

 田村 戦後80年にあたっての課題として、日本軍「慰安婦」問題にきちんと向き合うことが必要だと思います。日本政府は、CEDAWからも「戦争犯罪に時効はないと認識すべきだ」と指摘されています。

 角田 国際的には「戦時性奴隷」というのが常識です。日本政府はこの言葉を使いたがりませんが。

 田村 戦争や軍隊と性暴力は切り離せない問題ですが、女性を兵士の性処理の道具にした事実を認めるとともに、どうしてこんなことが可能だったのかに切り込みたい。

 角田 江戸時代以来400年にわたる性売買の産業化、公娼(こうしょう)制の歴史があるのです。吉川春子さん(日本共産党元参院議員)が著作を出されていますが、日本人の「慰安婦」を忘れてはいけません。日本軍は戦地で、上級士官向けには日本人女性をあてがい、下級兵士になるほど現地女性に相手をさせていました。全国の遊郭から女性が集められていたといいます。しかし日本人「慰安婦」の被害者は、女性自立支援施設(旧婦人保護施設)の「かにた婦人の村」におられた城田すず子さん以外、名乗り出ていません。遊郭の女性に対する強い差別と偏見があったからだと思います。政府がこの問題の解明と反省をしていないことが現代の「買春花盛り」と言える状況につながっているのではないでしょうか。

 田村 本当に根深い問題です。第2次安倍政権以降、侵略戦争への反省を表明した「村山談話」、日本軍「慰安婦」へのおわびを表明した「河野談話」を封印しようとしてきました。それは、戦争と性暴力の本質を隠そうとするものだと思います。

 角田 軍隊は支配する組織ですから、相手を暴力で。軍隊は家父長制と暴力の混合体だと言えます。戦前の日本がまさにそうで、今の自衛隊ではセクシュアルハラスメントが多い。家父長制が基になって暴力で人を支配する仕組みがそのまま今に引き継がれているのだと思います。

 田村 戦後も沖縄での米軍兵士などによる女性への性暴力が続いています。米国と一体の「戦争する国」づくりは本当に許されません。日本と東アジアの平和を脅かすとともに、米軍基地があるがために、どれだけ沖縄の女性や子どもたちが犠牲になってきたか。沖縄で「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」のみなさんの調査には、震撼(しんかん)します。朝鮮戦争の頃には、生後9カ月の女児まで性暴力の犠牲になった。どこまで戦争が人を狂わせてしまうのかと。

 角田 戦争は、女性が人権侵害に遭う場面です。戦争とジェンダー平等は両立しようがありません。戦争から手を引かなきゃだめで、戦争に近づいてもいけない。歴史の事実であり、沖縄では現在進行形の問題です。ジェンダー平等の問題として戦争を考えてほしい。ジェンダー平等を実現するために、戦前を反省し、日米同盟の下での「戦争する国」づくりの状況に終止符を打たないといけません。

 田村 その通りです。今年は参院選挙があります。「日米同盟絶対」でいいのかと問えるのは日本共産党ならではです。党内でもジェンダー平等を議論して自己改革を進めていくことに確信を持っています。そうした党の姿も大いに伝えて躍進のために頑張りたいと思います。

 角田 私もぜひ頑張りたいと思います。ありがとうございました。

 田村 ありがとうございました。

 ※③間接差別 差別を意図した法や制度でなくても、実施の結果や効果で差別と認定されること。女性差別撤廃条約では締約国にあらゆる間接差別を禁止する義務を課しています。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「入党のきっかけは核廃絶運... | トップ | 令状執行期間が6日までであり... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ジェンダー平等の社会を!」カテゴリの最新記事