常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

種田山頭火

2013年11月26日 | 


森沢明夫の『あなたへ』には、妻の遺骨を散骨するための旅にでる主人公に寄り添うように登場する泥棒稼業の杉野という脇役が出てくる。高校の国語の教師だった杉野は、学校の不良女学生の罠に嵌って職を失い、いつしか泥棒の仲間に入り、車泥棒、車上荒しなどで刑務所に何度も入る生活を送っている。

主人公はキャンピングカーで長崎での散骨の旅に出るが、途中の水汲み場で偶然泥棒稼業の杉野に出会う。杉野が先に水をタンクに詰めていたが、水を汲みに来た主人公へ「先にどうぞ」と場所を譲る。「あなたのタンクは小さいですし。遠慮なさらず、ほら、どうぞ、どうじぞ」と声をかけてくる。

こんなにうまい水があふれている

杉野はこんなことをつぶやいて、不思議な顔をした主人公に「種田山頭火の句です」という。二人の出会いは、こんな風に始まっている。

高校の国語の教師から、泥棒をしながら放浪の旅を続ける杉野には、放浪に生きた種田山頭火が最後の心のよりどころになっている。

種田山頭火は明治15年に、山口県防府市に生まれた。本名は正一である。明治37年早稲田大学を中退。大正2年、萩原井泉水の師事して、俳句の世界に入った。大正14年の出家、九州、四国、中国などを托鉢、その行乞放浪の生活を淡々と句にした。代表句集に『草木塔』。昭和15年10月11日死去した。

昭和5年9月10日の行乞日記に記している。
晴、二百廿日、行程三里、日奈久温泉、織屋。
午前中八代町行乞、午後は重い足をひきずつて日奈久へ、いつぞや宇土で同宿したお遍路夫婦とまたいつしよになった。方々の友へ久振に---本当に久振に---音信する、その中に---
  ・・・私は所詮乞食坊主以外の何物でもないことを再発見して、また旅にでました、
  ・・・歩けるだけ歩きます、行けるところまで行きます
温泉はよい、ほんたうによい、こヽは山もよし海もよし、出来ることなら滞在したいのだが、---いや」一生動きたくないのだが(それほど私は労れているのだ)

分け入つても分け入つても青い山

鴉啼いてわたしも一人

この旅、果てもない旅のつくつくぼうし

山頭火は自由律の俳句の卓越した俳人である。西行、芭蕉に連なる放浪詩人として広く知られている。
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