
餅がおいしい季節である。秋の刈り上げ餅はことのほかおいしい。一年間丹精こめて収穫した米を祝ってつく餅だ。そんな餅にまつわる民話が山形にある。「動物もち競争」と名づけられている。動物を擬人化した話だ。人間の持つ、ずるさ、みにくさ、やさしさなどを動物にたくして語られる。
猿と蛙が山から村を見下ろしていた。村では「契約」で餅をついていた。餅をつく音が山まで聞こえてきた。猿と蛙は餅が食べたくなり、山を降りた。蛙は餅をついている家の池に入り、赤ん坊の声をだした。
「そうれ、ンボコが池さ入ったぞ」家中の者が外へ出たとき、猿は臼をひっかつぎ山へ登った。蛙もあとを追って山へ登ってきたが、欲のでた猿が、臼を転がして早く追いついたものが食べることにしようと言い出した。
猿は蛙の返事も聞かず、臼を転がしその後を追っていった。しかたなく、蛙もペタリペタリと飛び跳ねていくと、途中に臼から飛び出した餅が落ちていた。蛙はそこで腹いっぱい食べた。臼がからだったので、猿が戻ってきて「おれにも半分分けてくれ」と頼んだ。
蛙は餅の熱いところをちぎって投げた。猿は熱いのをがまんしてはがして食べた。「・・・もう少し」と頼むと、こんどは尻にくっついた。毛のない赤い尻に熱い餅がくっついたのでたまらずに転げまわった。
契約というは、村の年中行事で各戸が集まり、村の次年度の計画や担当する役員を決めたりする。酒が振舞われ、今年収穫した餅米で餅をついて食べる風習である。最近は近くの温泉に集まって酒を酌み交わすことが多いようだ。