
食用菊の黄もってが咲いた。一本の株には、取りきれぬほどたくさんの花をつける。山形では、食用菊の王様は「もってのほか」である。皇室の御紋である菊花を食べるのはもってのほかだ、というのでこの名がついたともいわれるが、果たして本当だろうか。もってのほかは、花弁が筒状になっているので、茹でても食べた食感シャッキとしておいしい。
菊の花は中国では古くから、長寿と心をきれいにする縁起ものとして用いられた。菊酒は酒に菊の花びらを浮かべて飲む。陶淵明の詩に、「飲酒」と題して菊花が詠まれている。
秋菊佳色有り
露にうるおうその英(はな)をつみ
この忘憂の物にうかべて
我が世をわするるの情を遠くす
「忘憂の物」とは、憂いを忘れさせるものを指すが、もちろん酒のことを意味している。世間を捨てて隠棲した陶淵明には、この菊酒が何よりの慰めになっている。
菊がわが国の皇室の御紋になった理由は、長寿と関係しているように思われる。古代から京の御所には、菊が植えられていた。
ひさかたの雲の上にてみる菊はあまつ星とぞあやまれける 敏行朝臣
雲の上とは、宮中をさす。殿上人になるまで昇殿は許されなかった。その菊が天の星のように宮中ではきらめいていた。やはり、宮中でも長寿を願い菊酒を嗜んだのであろうか。