詩吟教室の課題吟、杜甫「蜀相」を習った。
丞相の祠堂何れの処にか尋ねん
錦官城外柏森森
丞相が蜀漢の劉備に請われて、軍師となった諸葛孔明であることはすぐに思い出したが、この中国の戦史『三国志』の諸編が、すっかり記憶の底に沈んでしまっていることに呆然とした。詩聖と呼ばれる杜甫が、まさに『三国志』の孔明の祠堂を尋ね、その事跡を詩に詠みこんだものであることに改めて気づかされた。
三顧頻繁なり天下の計
両朝開済す老臣の心
「三顧の礼」は劉備が、孔明が陋居していた草庵を訪ね、天下を治める方策を問うたのであった。孔明は先主劉備に答えて、三国鼎立の策をとり、蜀漢二代の皇帝に仕えて老臣の真心を傾けたのである。杜甫はわずかこの14文字に、孔明の事績を詠んだ。
師を出して未だ捷たざるに身先ず死す
長えに英雄をして涙襟に満たしむ
劉備が出征中に死んだ後、孔明は南征して、西南方面の安定を図った。そして北征して魏を討とうとした。そこで、王に出した上奏文が有名な「出師の表」である。この北征の道半ばにして、孔明は病に倒れた。
土井晩翠の「星落秋風五丈原」は、諸葛孔明の死を詠った絶唱である。
祁山 悲秋の 風更けて
陣雲暗し、五丈原、
零露の文は繁くして
草枯れ 馬は肥ゆれども
蜀軍の旗 光無く
鼓角の音も 今しずか。
丞相病あつかりき
いま、この中国の戦史の記憶を取り戻すのは、中国の詩文や土井晩翠の詩の数行でしかない。この年になって昔読んだ本を読み返すのは、自分のかっての心を取り戻すことでもある。幸い読むべき書物は、本棚に溢れている。
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