もっと外に出ていたら梅はもっと早く咲いていたのだろうが、昨日、大坊川河川公園で初めて見た。そのピンクの色は鮮やかで、木の下に立つと何とも表現しがたい香しい梅の香が漂っていた。芭蕉が詠んだ句にも梅の香が出てくるが、懐かしい春の香りである。辺りに目を転じると、赤花のマンサクが、満開になっていた。
匂ひくる梅に吾より寄って行く 梅本景太郎
夢野久作に『梅のにおい』という小品がある。鶯が梅の木にやってくると、その鳥を食べたくなった猫が、猫なで声で鶯に話かける。「鶯さん、いい天気ですね。この梅の花のにおいのいいこと。ほんとにたべたくなるようですね。」「イヤな猫さんだこと。あたしはねえ、梅のにおいをかぐと何とも言えないいい心持ちになって、歌がうたいたくなるのです。そうしてあちらこちらと踊りながら飛びまわりたくなるのです。」
こんな会話をしながら、鶯は猫の本心を見抜き、飛びかかってくる猫をかわして、別の枝に飛び移って行った。たったそれだけの、短い猫と鶯のやりとりだけが書かれているのだが、梅のにおいに生き物たちが刺激を受ける様子がさりげなく描かれている。