常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

海辺のカフカ

2019年12月23日 | 読書
村上春樹『海辺のカフカ』を再読する。15歳の少年田村カフカの彷徨物語である。再読は、以前登った山を、再訪する行為に似ている。最初は、高度を上げることに夢中で、気づかなかったポイントが多くある。再訪によってそれらを見つける新しい発見。その喜びには、再読の面白さに通じるものがある。

15歳の少年や少女。最近、日本のスポーツ界や将棋など、多くの少年や少女の活躍が見られる。少年カフカは、こうした時代の先取りであろうか。将棋の藤井壮太の活躍を応援するような目で、この小説を読み、カフカの不思議な旅の行方に心を奪われる。

小説の主人公は一緒に暮らしていた父親の家を出て、四国の高松市に行くカフカ少年。もう一人、小学校の頃不思議な事故にあって、記憶をなくし、公園で猫と話するナカタさん。殺されそうになった猫を助けるために、ジョニーウォーカーと名のる猫殺しを殺害して、旅に出るが、なぜかこの初老の男も、少年のいる四国へ向かう。

小説の舞台は高松市にある私設図書館である甲村記念図書館。この図書館は、この地方の酒造家で本道楽の先代が蒐集した書籍を公開しているユニークな図書館である。当主の息子がここに住み、幼友達とめくるめく青春を過ごした。その恋人であった佐伯さんが、この図書館の管理者である。

歌が得意であった佐伯さんは、恋人と離れた悲しみを詞にして歌を作った。目にとまったレコード会社からレコーデングされ1970代の大ヒット曲になった。「海辺のカフカ」がその歌の題名である。歌詞を記そう。

あなたが世界の縁にいるとき
私は死んだ火口にいて
ドアのかげに立っているのは
文字をなくした言葉。

眠るとかげを月が照らし
空から小さな魚が降り
窓の外には心をかためた
兵士が立っている

海辺の椅子にカフカは座り
世界を動かす振り子を想う。
心の輪が閉じるとき
どこにも行けないスフィンクスの
影がナイフとなって
あなたの夢を貫く。

溺れた少女の指は
入り口の石を探し求める。
蒼い衣の裾をあげて
海辺のカフカを見る。

難解な詞で、一読意味が理解できない。だが、小説を読み進めると、この歌詞には小説の世界を暗示する言葉がちりばめられている。ページを読み進めると、交錯しながら進んで行く、二つの物語がどこで合体するのか、そんな興味も起こさせてくれる。魅力にあふれる村上ワールドへ読むものを引き込んでいく。
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