師走、この声を聞くと年末の慌ただしさに思いがいくが、これといって年内に始末をつける大事もない。久しく声も聞いていなかった娘の顔を見て、今年は安堵のうちに暮れていきそうだ。暖冬、というのもただ気温が上がるという単純なものではないらしい。気流の蛇行で、北極の寒気の吹き出しが直撃するようだと、寒い冬になる。季節の変動が不規則になるのも、温暖化の影響といえよう。この季節、台風が発生して、気温の上昇が見られた。寒暖の変化がこれほど目まぐるしいのも、最近の気象の特徴である。
わが目には師走八日の空寒し 杉風
永井荷風の随筆「十二月」に、大正年間の東京の師走の様子が簡潔に綴られている。青空のもとの寒風が日本の冬であった。
「此の月寒気日に加り霜は夜毎に白く雪にまごう事あれど空晴れ渡りて雨少なく日の光猶暖し上旬山茶花八ツ手枇杷の花皆散りて水仙いまだ開かず福寿草わずかに芽を生ずるのみ中旬に蠟梅開き冬至に及んで冬至梅綻ぶ鵙啼き止み鵯の声けたたまし。柚黄いろく蜜柑金柑熟す。」