冬になって南天の実が日々その赤さを増している。この上に雪が積もる日もまぢかである。昨夜、楽しみながら読んでいカズオ・イシグロの長編『クララとお日さま』を読了した。小説の語り手クララは、AIを搭載したロボットの少女である。病弱であすをしれない少女ジョジ―の話相手に買われた。ペットを飼うように、知能を備えたロボットが家に入る日は、現実の世界でもそう遠い日ではないように思われる。
クララは主人と生活し、観察し、心のうちを読み取り主人にとって最善の行動を心掛ける健気なロボットだ。読んでいくうちに、彼女がロボットであることを忘れそうになる。その度に、クララは自分の活動の源である、太陽との話が挟み込まれる。ジョジ―の病気を治してもらえるように、お日さまに一生懸命にお願いする。太陽はクララにとって神のような存在だ。だが、お祈りをするのではなく、語りかける。無私の心でひたすら主人のために行動する。こんなロボットであれば誰もが持ちたい。
ジョジ―の母親も。隣に住む恋人のリックも、彼女の命が長くないと思っている。クララの目で見た、母親、リックの心の動き。クララは自分が体験していることと、日々の観察からジョジ―の病気からの回復を確信している。その確信を裏付けるのは、日々浴びているお日さまの栄養であり、お日さまとの交信である。ジョジ―の病はいよいよ深まり、ベットの上で昏睡状態を続けるようになる。時間はない。日が沈む夕方、お日さまへジョジ―を助けてもらうように懇願しに小屋にでかける。
そして奇跡が起こる。お日さまへの懇願が終り、ジョジ―の昏睡が続いていた朝。クララは叫ぶ。「さあ、ジョジ―のベッドへ行きましょう」母もリックも
いよいよ最後かと、心配を募らせて2階のジョジ―のベッドへ駆けつける。部屋には見たこともない、強い陽がさし込んでいる。お日さまがさらに光を強め、オレンジ色でジョジ―を包みこんだ瞬間。ジョジ―が声を出す。「ねえ、この光は何なの。」それから、ジョジ―は元気を取り戻す。
この役目が終わったとき、ジョジ―にはロボットは不要になる。最終章、クララは物置のような墓場にいて、辺りの観察を続けている。そこへ、ロボット売り場にいた店長が、クララを探しに訪れる。店長が語ったこと。「あなたはもっとも驚くべきAFのひとりでしたよ。」