常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

寒波

2022年12月15日 | 源氏物語
雪が降りつづく。厚い雪雲に覆われた空は見えず、辺りの山並さへも消し去っている。ここへきて、山形の豪雪地肘折に、一日で83㌢の積雪があったと報じられた。一晩で朱鞠内や幌加内の積雪を追い抜いた。自分の生涯は、豪雪地と無縁ではない。昭和55年の山形市に一晩で降った雪は1ⅿを越えた。午後から降り出した雪が、夕刻にはバスの運行さえままならず、車が進まず置き去りにした車はさらに道路を使えないものしていった。その夜、バスで帰ったが、20分ほどで着く家まで、3時間もかかった記憶がある。

寒波が居座っているが、雪はまだ道路に積る状況ではない。車の屋根の雪も数㌢にとどまっている。週末に、さらに強力な寒気が降りてくるらしいが、その時の降雪がどうなるか、心配なことだ。雪は現代の交通手段さえ、時にはマヒさせる。古い時代の山に住む人々は、雪に閉ざされ、外に出ることさへ容易ではなかった。雪はしばしば、別離のシンボルとして文学のなかで語られてきた。『源氏物語』の「薄雲」には、源氏との間に生まれた明石の姫君と母明石の君の悲しい別れの名場面がある。

明石の姫君は将来、天皇の后になることが占い師から予言されている。だが、明石の辺境の地にあって、その望みは叶えられない。源氏は姫君を二条院に迎え、紫の上の養女になることを提案する。明石の君は、二条院に自分の居場所はないが、娘の将来を考え、源氏の提案を受け入れる。母と娘、生木を裂くような悲しい別れの朝、君の住むあたりは雪が深く積っていた。

落つる涙をかき払ひて、「かやうならむ日、ましていかにおぼつかなからむ」とらうたげにうち嘆きて
  雪深みみ山の道は晴れずとも 
  なほふみかよへあと絶えずして
とのたまへば

雪が降るこんな日には、娘のことが気がかりになるでしょう、どうか絶えることなく頼りを寄こしてください、と乳母に嘆願した。この場面は、京都嵐山の渡月橋の辺りである。小倉山の山麓であり、桂川の対岸に嵐山が聳えている。雪が降り積る季節、明石の君は我が子との別離にのぞんでどんな思いであっただろうか。柔らかい白い絹の衣を何枚も打ち重ねて、ただ軒端から、山の雪や汀の氷を打ち眺めていた。
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