昨日、霙のなかを買い物に出かけた。積もった雪が融けて、道が水浸しになった。履いたスニーカーを山靴に履き替えて出かけたが、固まった雪とその上に溢れる水だまりで、何とも歩きづらい。買い物袋も重い。クリスマスイブの買い物は、一夜だけの飲み物と食べ物でいっぱいだ。何故、日本人はクリスマスに買い物や、街に出かけるのだろうか。そんな疑問に答えてくれる読み物がある。太宰治『メリイクリスマス』だ。戦後、疎開先から東京に舞い戻った男と少女の話である。
空襲が激しくなった都会で暮らす、夫と別れた女とその娘。貴族の生活は、二間のアパート暮らしであるが、どこか垢ぬけている。部屋には男が好きな酒が
いつも置いてあった。娘へのつまらない土産を持参して、へべれけになるまで女のもとで酒に酔う男。東京へ舞い戻った男は、古本屋で偶然その娘に出会うことになる。「お母さんは元気?」男の問いかけに娘は「ええ」と答え、住んでいるアパートへ男を案内する。部屋の前で突然泣き出す娘。疎開先の広島でその女が空襲のため、亡くなったことを言い出せなかったのだ。
男は「行こう」と娘を屋台の鰻屋へ連れ出す。鰻を三人前。娘との間のカウンターに並べる。怪訝そうに問う屋台の鰻職人に、「ほら真中に座っている美人が見えないのかね」と男が冗談とも言えぬ言葉を吐く。ひとしきり酒を飲んだ男は、残った鰻を娘と半分分けにして食う。屋台の客が、通りがかかったアメリカ兵士に大声で叫んだ。「ハロー、メリイクリスマス」それを聞いたアメリカ兵は、とんでもないという顔をして首を振り大股で歩み去った。昭和22年の東京の闇市には、アメリカ文化に迎合する安っぽげなクリスマス礼賛があった。