待ちに待った雪晴れである。予報は終日曇りと、あったが晴れ間を待って里山を登る。山の会の今年最後の山行だ。山中でも30㌢ほどの積雪で、カンジキも必要としないが、坂道では雪の下の枯れ葉に乗ると足が滑る。だが、久しぶりに見る青空、木の着雪。やはり、低い山でも、自然に触れることは楽しい。足が弱くなり、この後どれほどの山に登れるかと思うと、この景色を見逃せないという気持ちが強くなる。新雪の上に、一人か二人の足跡がある。人が歩いているということだけでも、うれしい気持ちになる。
深雪道来し方行方相似たり 中村草田男
盃山。山形市の馬見ヶ崎川の対岸の山だ。ここは遥か昔、学生時代にしばしば登った里山だ。夏から秋、この川は伏流水になって、石ころの川になる。そこを渡って、この山に登った。不思議に友達と一緒ではなく、寮から一人で歩いて山に行く。山に登りながら、故郷のことを考える時間であった。石狩川の畔で育ったので、川にある緑や山は、故郷を偲ぶことに適していたのかも知れない。山の上から、山形の街が望遠できる。同級会で山形に来た友人が過ごした時間は、この川であった。馬見ヶ崎川は、青春の思い出させる懐かしい川である。旧制山形高校に学んだ亀井勝一郎も、春の盃山に登ったことを書き残している。
「春は三月、四月、そのころになると私はよく盃山に登った。この小山の裾を馬見ヶ崎が流れているが、それを眼下に見下ろし、山形の街、桜桃畑、野、田畑とひろびろとした盆地を眺めつつ、柔かい春風のなかで昼寝したものである。海のないのがはじめの間実に不思議であった。
私もだが、亀井も、この里山の思いでを、終生にわたって心のうちにしまっていた。この時期に青春の聖地に来ることができたことが幸せである。この日の山行同行者6名。男女3名ずつ。