常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

早池峰山

2018年06月19日 | 登山


岩手県北上高地にの主峰・早池峰山(標高1913m)に登った。6月18日(月)、週末の混雑を避け、この名峰をじっくり味わいたい、という思いからであった。5年ほど前に登ってからの再会であるが、これが3度目の登頂である。当初計画した河原坊からの入山は、登山道の一部崩落で禁止となったため、小田越からの入山となった。過去の2度も小田越から入り、一度は河原坊へ、今一度は小田越へのピストン、今回と同じコースである。不思議なもので、もう何年も前に登った山なのに、山道に一歩足を踏み入れると、当時の記憶が甦ってくる。たった一度だけ合った人と交わした言葉が昨日のことのように思い出される。

この山の大きな特徴は森林限界の異常な低さである。小田越のコースでは、標高1300mあたりから森林が姿を消し、見渡すかぎりのごろごろとした岩塊斜面になる。小泉武栄著『山の自然学』によれば、この山の基盤岩はかんらん岩である。柱状に露出する岩や岩壁が見られるが、これが基盤岩で、地球の氷河期に凍結破砕が起きて、このような岩塊斜面ができた。この岩塊斜面は、森林を構成する木々が成長するには、あまりにも劣悪な環境であった。これが、異常に低い森林限界が出現した理由である。日本アルプスの森林限界の平均が2500mほど、中国の黄河流域では3800m、同じ緯度のロッキー山脈でも3700mである。早池峰の緯度がこの地域より高いとはいえ、その低さの異常さが分かる。



森林限界を越えたあたりで後を振り向くと、目前に端正な姿の薬師岳が見えてきた。柳田国男の聞き書き『遠野物語』の舞台は、この早池峰山である。冒頭、この山の神についての記述がある。

「遠野の町は南北の川の落合に在り。以前は七七十里とて、七つの渓谷七十里の奥より売買の貨物を集め、その市の日は馬千匹、人千人の賑わしさなりき。四方の山々の中に最も秀でたるを早池峰といふ、北の方附馬牛(つくもうし)の奥にあり。東の方には六角牛山立てり。石神と云ふ山は附馬牛と達曽部との間に在りて、その高さ前の二つよりも劣れり。大昔に女神あり、三人の娘を伴ひて此の高原に来り、(中略)今夜よき夢を見たらん娘によき山を与ふべしと母の神の語りて寝たりしに、夜深く霊華降りて姉の神の胸の上に止まりしを、末の娘目覚めてひそかに之を取り、我胸の上に載せたりしかば、終に最も美しき早池峰の山を得、姉たちは六角牛と石神とを得たり。若き三人の女神各々今も之を領したまふ故に、遠野の女どもはその妬みを畏れて今も此の山に遊ばずと云へり。」

森林限界を出て、1時間、遠野の神話の世界が眼前に迫っている。さらにその奥の雲のなかには栗駒などの南につながる山々もうっすらを姿を現している。今日の参加者7名、内女性が3名。よく晴れた空に、吹く風が心地よい。月曜とは言え、この山に挑む人々も少なくない。カップルのような若い男女と、抜きつ抜かれて歩く。聞けば、この夏、中学校登山の下見に来た先生であった。子どもたちの安全のため、登るコースの確認であろう。この夏、この若い二人の先生に導かれて、子どもたちはこの山でどんな思い出をつくるのであろうか。



この山のもう一つの魅力は、岩塊の間に群れて咲き誇る高山の花々である。この山の固有種であるハヤチネウスユキソウ、ナンブイヌナズナは、特に目をひく。この日は、多く眼にすることはなかったが、岩陰にウスユキソウの気品のある花を見つけて感動的であった。そしてかたまって咲くイヌナズナの可憐さも捨てがたい。蛇紋岩の仲間であるかんらん岩は、強いアルカリ性の土壌をつくる。これらの固有種は、蛇紋岩植物と呼ばれ、かんらん岩や蛇紋岩の山に限って分布することが調査の結果明らかになっている。北海道の夕張岳、至仏山、白馬岳、北岳にも分布している。



一合目から頂上にかけて広く分布しているのが、ミヤマキンバイである。ひと言で黄色と言うが、この高山にきてその黄色はひときわ深く眼に入ってくる。一足、岩を踏むごとに、キンバイの美しが冴えていく。それに加えて、ヨツバシオガマの赤紫が色を添える。こんなにたくさんシオガマを見るのもこのやまならではあろう。

この日うれしいことがあった。腰を痛めてしばらく山から遠ざかっていたGさんのカムバック。始めて2000m級に挑んで登り切ったKさん。憬れの早池峰にニューシューズで喜びの登頂を果たしたHさん。山頂での記念写真には、この人たちのはじけるような笑顔があった。苦しい努力のあと、山のすばらしさに感動する人の姿もまた美しい。
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初もの礼讃

2018年06月17日 | 農作業


野菜作りの醍醐味は、何と言っても、植えた野菜の花が咲き、初物を食べることだ。今日の初収穫はズッキーニ。日々大きくなるのを待っているが、受粉せずにいびつになったのを収穫した。農家では捨てるものだろうが、輪切りにして味噌汁に入れた。シュンギクとサヤエンドウ、それとキュウリは3本。こちらは糠味噌に漬けることにして、煮立った味噌汁にサヤエンドウとシュンギクを放した。味噌を溶いて、ダシを入れて完成。水を沸騰させてから5分も経たずに、味噌汁が完成する。何とも言えない春の香りが台所に漂う。朝の至福の時間である。
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森林限界

2018年06月16日 | 日記


森林限界とは、高山の森林生育の限界のことである。本州中部では、標高2400m付近である。ここを過ぎると、針葉樹林が姿を消し、ハイマツや低木化したコメツガ、ナナカマド、シャクナゲなどに移行する。しかし、この森林限界が低い山がある。今週、計画している早池峰山もそのひとつである。小田越え登山道では、1350m付近で、森林限界を迎える。それは、この山がこの付近から、ゴロゴロとした岩塊斜面となることと関係している。

岩塊斜面はなぜできるのか。この山の基盤岩は、かんらん岩である。地球の氷河時代、最も近い年代300万年前だが、岩が凍結破砕によって砕かれ、斜面を伝って移動したためにできる。土壌の条件が悪すぎるために、針葉樹林が入り込めず、生育する植物も、矮小化している。ハイマツがこの高山帯で、優勢樹種となるのは、この木の実を好むホシガラスの習性と関係している。下の方にある実を、岩の隙間に隠して、食べる習性がある。ついばんで散らされた種が、岩の間で芽を出すために、ハイマツが長い年数を経て、優勢樹種となっていった。

上山の三吉山にある岩海も、高度が低いが、やはり氷河時代の凍結破砕によってできた岩塊と考えられる。ゆるやかな斜面では、岩塊も植物に覆われているが、斜面では土が雨に流されて、種が芽を出すことを許さない。斜面一面が、一木一草も出ない岩塊の海になっている。
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ビヨウヤナギ

2018年06月15日 | 


梅雨の時期、キンシバイと同時期に、木いっぱいに黄色い花を咲かせる。オトギリソウ科の低木で混同しやすいが雄しべが長いのがビヨウヤナギである。ここを確認すれば間違えることはない。葉が柳の葉に似ていることから、花名にヤナギが入った。

今日の気温19℃、まるで5月に戻ったような寒い日である。それでも、畑からピーマン5個収穫。乾燥しきった野菜たちに丁寧に水やりをする。ピーマンは、『男の厨房学入門』をそっくりとりいれて、手で割き、牛肉の切り落としと一緒に炒める。自家製、チンジャオロース。塩コショウと醤油だけのシンプルな味つけだが、朝どりのピーマンがしっかりと役割を果たしている。バカのような思い込みだが、自分で作った野菜はおいしい。
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蔵王権現

2018年06月14日 | 日記


上山クワオルトで坊平高原を散策した。今日のガイドさんは、通常のコースにない御清水の上を案内してくれた。見事なブナの巨木、日本でも最も高いところにあるスギの大木。木の年齢は推定さえできないらしい。そこにあったのは、石に掘りつけた蔵王権現。鬱蒼と茂る巨木に囲まれて、蔵王権現の霊力はさらに巨大になっていくように思われる。一瞬、パワースポットのなかに置かれて、いまにも神秘な出来事が起こる予感さえする。

権現というのは、辞書にあたってみると、仏陀が化身してわが国の神として現れること、とある。つまり、仏陀が衆生を救うために現す仮の姿である。蔵王権現のそのひとつで、これを感得したのは、修験道の祖といわれる役小角である。魔障降伏の相をなし、右手には三鈷を持ち、左手は広げて腹を押し、右足を上げている。絵で見ると、まさしく悪を成敗する眼付と恐ろしい形相である。もとより、その本家は奈良県の吉野山に祀られているが、この蔵王山にも祀られている。ただ、この石に彫られてた蔵王権現は、少し迫力に欠けるような気がしないでもない。山伏が山中で修行する目的は、蔵王権現や不動明王と同化する力を得るためである。諸国をめぐり、民衆の求めに応じて、加持祈祷、調伏、憑きもの落し、符呪を行った。

そこを抜けるとすぐにスキーのゲレンデにでる。痩せたワラビがたくさん出ている。それらに交じって高山植物の花もあちこちに目にする。印象に残ったのはイチヤクソウ。ピンクの可憐な花だが、全草を乾燥させて煎じて飲めば利尿効果があり、漢方薬として用いらてきた。権現さまに、高山で採る薬草。山は人の暮らしに大いに役立ってきた。

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