(延暦十七年十二月)乙丑(十四日) 大雪が降った。諸司で雪掃(はら)いを行い、身分に応じて綿を下賜した。
(日本後紀〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)
十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首
み雪降る冬は今日のみ鴬の鳴かむ春へは明日にしあるらし
右一首主人三形王
うち靡く春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ
右一首大蔵大輔甘南備伊香真人
あらたまの年行き返り春立たばまづ我が宿に鴬は鳴け
右一首右中辨大伴宿祢家持
(万葉集~バージニア大学HPより)
いよのくにより十二月の十日ころに、舟にのりていそきまかりのほりけるに 式部大輔資業
いそきつゝ舟出そしつるとしの内に花のみやこの春にあふへく
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
同十二月十日法皇は五條内裏を出させ給ひて、大膳大夫成忠が宿所、六條西洞院へ御幸なる。同十三日歳末の御修法在けり。其次に叙位除目行はれて、木曾がはからひに、人々の官ども、思樣に成おきけり。平家は西國に、兵衞佐は東國に、木曾は都に張行ふ。
(平家物語~バージニア大学HPより)
(嘉禄元年十二月)十五日。夜より大風。朝、雪庭に積む。巳の時許りに陽景出づ。門の外の雪を見んと欲す。大風堪へ難し。猶予するの間、雪又消ゆ。未の時許りに浄照房来談。夜に入りて雪猶紛々たり。若し積まば、暁更に門を出づべき由、僮僕を召す。
十六日。夜半より月明に雪止む。地面猶斑(まだら)に雪積む。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)
十日 己丑 将軍家、馬場殿ニ出御シタマヒ、遠笠懸ヲ覧タマフ。相州、左親衛、参候セシメ給フ
射手
陸奥掃部助 北條六郎
城九郎 佐渡五郎左衛門尉
遠江次郎左衛門尉 信濃四郎左衛門尉
下野七郎 武田五郎
武藏四郎 小笠原與一
十六日 甲午 評定ノ後、御所ニ於テ、御酒宴有リ。左親衛以下数輩参候ス。是レ去ヌル十日御笠懸ノ御勝負ノ会ナリ。
(吾妻鏡【宝治元年十二月十日】【宝治元年十二月十六日】条~国文学研究資料館HPより)
十九日 己未。雪降ル地ニ積ムコト七寸 将軍家、鷹場ヲ覧タマハン為ニ、山ノ内ノ庄ニ出デシメ給フ。夜ニ入テ還御シタマフノ処ニ、知康御共ニ候ズ、而シテ亀谷ノ辺ニ於テ乗馬驚騒*沛留スルノ間(*沛艾スル)、忽チ以テ旧キ井ニ落チ入ル。然レドモ而命ヲ存フ。之ニ依テ御所ニ入御シタマフノ後、小袖二十領ヲ知康ニ賜ハル。
(吾妻鏡【建仁二年十二月十九日】条~国文学研究資料館HPより)
十九日 乙巳 雪降ル。将軍家、山家ノ景趣ヲ御覧ゼンガ為ニ、民部大夫行光ガ宅ニ入御シタマフ。此ノ次ヲ以テ、行光、杯酒ヲ献ズ。山城ノ判官行村等、群参シ、和歌管絃等ノ御遊宴有ツテ、夜ニ入テ還御シタマフ。行光、竜蹄ヲ進ズ〈黒。〉*(*ト云云)。
(吾妻鏡【建保元年十二月十九日】条~国文学研究資料館HPより)
同元仁元年十二月十二日ノ夜、天曇リ月暗キニ、花宮殿ニ入テ坐禅ス。ヤウヤク中夜ニ至リテ出観ノ後、峰ノ房ヲ出デテ下房ヘ帰ル時、月雲間ヨリ出デテ光雪ニ輝ク。狼ノ谷ニ吠ユルモ、月ヲ友トシテイトオソロシカラズ。下房ニ入テ後又立チ出デタレバ、月又曇リニケリ。カクシツヽ後夜ノ鐘ノ音聞ユレバ、又峰ノ房ヘノボルニ、月モ又雲ヨリ出デテ道ヲ送ル。峰ニ至リテ禅堂ニ入ラムトスル時、月又雲ヲ追ヒ来テ向ノ峰ニ隠レナムトスルヨソホヒ、人知レズ月ノ我ニトモナフカト見ユレバ、二首
雲ヲ出デテ我ニトモナフ冬ノ月風ヤ身ニシム雪ヤツメタキ
山ノ端ニ傾クヲ見オキテ、峰ノ禅堂ニ至ル時
山ノ端ニ我モ入リナム月モ入レヨナヨナゴトニマタ友トセム
(明恵上人歌集~明治書院・和歌文学大系)
冬残月
春ちかき廿日の月の望の夜になかはは消えて氷のこれる
(草根集~日文研HPより)
師走のもちごろ、月いとあかきに、物語しけるを、人見て、「誰ぞ。あな、すさまじ。師走の月夜ともあるかな」と言ひければ、
春を待つ冬のかぎりと思ふにはかの月しもぞあはれなりける
返し、(略)
(篁物語~岩波・旧日本古典文学大系77)
はての月の十六日ばかりなり。しばしありて、にはかにかい曇りて雨になりぬ。倒(たふ)るゝかたならんかしと思ひ出でてながむるに、暮れゆくけしきなり。いといたく降れば障(さは)らむにもことわりなれば、昔はと許おぼゆるに、涙の浮かびてあはれにもののおぼゆれば、念じがたくて人いだし立つ。
かなしくもおもひ絶ゆるか石上(いそのかみ)さはらぬものとならひしものを
と書きて、いまぞ行くらんと思ふほどに南面の格子も上げぬ外(と)に、人の気(け)おぼゆ。人はえ知らず、われのみぞあやしとおぼゆるに、妻戸おしあけてふとはひ入りたり。いみじき雨のさかりなれば、音もえ聞こえぬなりけり。今ぞ「御車とくさし入れよ」などのゝしるも聞こゆる。「年月の勘事(かうじ)なりとも、今日のまゐりには許されなんとぞおぼゆるかし。なほ明日はあなたふたがる、あさてよりは物忌などすべかめれば」など、いと言(こと)よし。やりつる人は違(ちが)ひぬらんと思ふに、いとめやすし。夜(よ)のまに雨やみにためれば「さらば暮に」などて、帰りぬ。
方(かた)ふたがりたれば、むべもなく、待つに見えずなりぬ。
(蜻蛉日記~岩波文庫)