「室の早早稲(むろのはやわせ)」という用語は日本国語大辞典・第二版では「室の中で苗を育てたため収穫の早い稲。《季・秋》」という語釈となっていますが、秋の季語というわけではなさそうです。日国用例として採られている「栄花物語」の和歌は、『平安朝歌合大成2』(1995年、同朋舎出版)1028ページに載っており、永承六年五月五日の内裏根合の際に詠まれた「早苗」題で夏の歌題の和歌です。
和歌の検索をすると、秋の収穫期の和歌もありますが、歌語として先に使用されたのは、苗を植える段階の夏の和歌のようです。
秋限定の用語ではないので、語釈としては「室の中で苗を育てたため収穫の早い稲。また、その苗。」とまとめたら、よいのではないでしょうか。俳句のための季語設定をしなくてはならないのならば、語釈を二つに分けなくてはならなくなります。
早苗 右
早乙女(さをとめ)の山田(やまだ)の代(しろ)に下(お)り立(た)ちていそぐ早苗(さなへ)や室(むろ)のはや早稲(わせ)
(146・永承六年五月五日 内裏根合、十巻本、6)
『平安朝歌合大成2』同朋舎出版、1995年、1028ページ
津の国の室の早わせ出でずとも注連をばはへよもると知るがね
(古今和歌六帖、第五)
『校註国歌大系 第九巻』国民図書、1929年、453ページ
みたやもり-てたまもゆらに-いそくなり-けふのさなへや-むろのはやわせ
(延文百首・00825)~日文研の和歌データベースより
秋の季語としての用例を挙げるなら、以下の和歌があります。
秋田 師継
我か門のむろのはやわせかりあけておくてにのこるひたの音かな
(わかかとの-むろのはやわせ-かりあけて-おくてにのこる-ひたのおとかな )
(宝治百首:秋・01456)~日文研の和歌データベースより