ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

晩秋に想いを馳せて

2023-11-18 12:52:34 | あの頃
 1週間前、目覚めてすぐ初雪が舞った。
見る見る間に、花壇じまいを済ませた庭が雪化粧した。
 冬へと季節が変わるその時を、
窓辺からしばらく見ていた。

 年々、冬到来と共に暗い気持ちが倍加する。
北海道では温暖といわれる当地だが、
それでも冬は、寒さで行動が規制される。

 年齢と共に体力が衰える。
だから、今のうちにやれることをと思う。
 しかし、春までのこれから4ヶ月は、それをさせてくれない。

 さて、今年の秋はあっという間だった。
ふと過ぎゆく晩秋に想いを馳せた。
 少しだけ私を温めてくれた。


  ① ナメコと豆腐の味噌汁 

 伊達に移住した最初の秋を
年賀状に添えた詩『微笑』の一節で、こう表した。

 落葉キノコは唐松林にしかない
 その唐松は針葉樹なのに
 橙色に染まり落葉する
 道は細い橙色におおわれ
 風までがその色に舞う
 そこまで来ている白い季節の前で
 私が見た
 北国の深秋の一色

 多くの人は唐松の紅葉を「黄金色」と言葉にするようだが、
私には橙色に見えた。
 その美しさを知る少し前だが、
家内と一緒にゴルフをした。

 ラウンド中にコース整備員が、
作業車で私たちのカートに寄ってきた。
 大きな両手に山盛りのキノコをのせて差し出し、
「食べるかい」と笑顔で言った。

 プレー中の予想外のことに驚きながらも、
笑顔で応じた。
 「すみません。頂きます」。
「そっかい。そこの唐松のところにあったんだ、
じゃ、みんなあげるわ」。
 整備員は、車にあった残りのキノコも、
カートの前カゴに入れ、足早に去っていった。
 見ると、コースの周りは唐松で囲まれていた。

 そのキノコが、高価な落葉キノコだと知ったのは、
ラウンドを終えてからだった。
 帰宅後、家内がネットで調べて味噌汁にした。

 私は、椎茸以外のキノコは、口にしなかった。
だから、大量のきのこ汁を見ても箸を付ける気にならなかった。
 それに対し、目の前の家内は、
「美味しい、美味しい」を連発し、
2度3度とおかわりをし私を驚かせた。
 そして、珍しいことに、
私に「食べてごらん」と何度も勧めた。

 嫌なら残すことを条件に、
お椀の味噌汁をすすり、落葉キノコも食べてみた。
 半信半疑だったが、残さなかった。

 翌朝も、その味噌汁が食卓に出てきた。
何も言わず、一杯だけ食べた。
 決して感想は言わなかった。
本当はいい味だと認めていた。

 その時から、徐々にキノコ類との距離が縮まった。
そして10年以上が過ぎた。
 最近の夕食では、当然のように「ナメコと豆腐の味噌汁」が出てくる。
私は、キノコ嫌いだったことをすっかり忘れ、
表情を変えることもなくお椀に口を付ける。


  ② こがらし

 先日、「東京地方に木枯らし1号が吹きました」と、
テレビの女子アナが言っていた。
 晩秋から初冬の間に吹く強い北風を木枯らしと言うようだが、
「木枯らし」と聞いて、学芸会の『かがし焼きどんど』を思い出した。

 教員になって3年目、初めて学芸会があった。
5年生が劇『かがし焼きどんど』を演じた。
 その劇を見て、学芸会の素晴らしさに胸が熱くなった。

 高学年を担任したら、いつか私もこの劇に取り組んでみたいと、
早速台本を譲って貰った。
 原作も脚本も作者不明だと知った。

 数年後、5年生を担任した。
ちょうど学芸会があった。
 学年は2学級で、キャスティングの人数も丁度よかったので、
もう1人の担任S先生に台本を見せた。

 劇は、主役の「かがし」と「こがらし達」とのやりとりが中心で、
伝統行事「かがし焼きどんど」で幕が閉じる展開だ。 

 終始、主役である「かがし」が劇の中心にいた。
「かがし」の演技力が劇の出来不出来を左右した。
 1人の子どもへの負担が大きい劇は、
当時も今も学芸会で敬遠される。
 それでも私はこの劇に惹かれた。

 山に置き忘れられた「かがし」と「こがらし達」の心温まるやりとり、
そして、1年間の役目を終え、
村人に見守られながら燃える「かがし」の宿命、
その温かくも悲しい劇に、子ども達と一緒に取り組みたかった。

 S先生は、私の想いに同意してくれたが、
すぐに「かがし」を演じられる子を心配した。
 やはりそこがこの劇のポイントだと確信した。

 早速、2つの学級から主役候補を数人あげた。
そして、その子らに台本を渡し、
「かがし」をやってみないかと打診した。

 数日後の返事は、どの子も尻込みするものだった。
台詞の多さがその理由だった。
 ただ1人、「すぐには覚えられないけど、
練習中にはきっとできるようなると思う。
 かがしをやってみたい」と名乗りでた子がいた。

 村の子供らが山に置き忘れたかがしを、
こがらし達は、かがしの願い通り元の畑に戻すことにする。
 しかし、畑に戻ったかがしは、焼かれる運命だと知る。
戻すのをためらうこがらし達に、
仲間と一緒に焼かれる道を選択するかがし。
 そして、「かがし焼きどんど」の日、
遠くから真っ赤に燃え上がるかがしを見つめるこがらし達。
 そこで、劇は終った。

 幕が降りたその時、見事に演じきったかがしは、
私と一緒に舞台袖にいた。
 一瞬暗転になった会場が明るくなると、
かがしは私に訊いた。

 「先生、山に置き忘れられたままでいるよりも、
一緒に焼かれて、かがしはそれでよかったんですよね!」。

 「そんなことに迷いながら、この子は沢山の台詞を覚え、
演じていたのか!」。
 私は驚きながら、そして迷いながらこう応じた。
「だから、この劇をやったんじゃないの」。

 遠い昔のことだ。
でも、今もそう思っている。




   ご 近 所 の 柿 ~2階の窓から  

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