ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

『冷暖自知』・・・? ~夏のすれ違いから

2019-09-07 10:57:41 | 思い
 ▼ 目覚めと共に、空模様が気になる。
次に、私自身の体調と気力を問う。

 雨や強風でなければ、1つ目はクリアーだ。
2つ目はどうか。
 ゆっくりと時間をかけて、ストレッチをしてみる。
徐々に体が目ざめ、意欲が前向きになる。
 これで、オーケーだ。

 ランニング姿に着替える。
時には家内も一緒だが、最近は1人が多い。

 いつものごとく、1キロ過ぎまでは呼吸が整わず、
苦しさだけの走りだ。
 なのに、その内に背筋が伸び、最近は初秋の風に気づき、
心持ち樹木の緑が変化してきたとつぶやきながら、足を進めて行く。 

 通常は5キロ、時に10キロを走る。
その間に、何人かの方とすれ違う。
 登校中の子ども、自転車で出勤するスーツ姿、
愛犬と散歩する女性、そして、私を追い抜いていくランナー等々。
 その出逢いが、朝のジョギングをさらに楽しくしている。
 
 今まで何度も、その一瞬のふとしたやり取りに、心が動かされ、
時に励まされ、時に豊かさを頂いてきた。

 スローでも走っている私と、歩道で交わすわずかな会話だ。
それに、どんな思いがこもっているだろうか。
 違和感を覚える方もいるに違いない。

 まさに『冷暖自知』(れいだんじち)だ。
「冷たいか温かいかは、自分で触ってみないとわからない。」
 それと同様、私だけが知る体験なのかも・・。
でも、短い北の夏でのすれ違い。
 その1コマをスケッチする。

 ▼ その方は、暮れにはまだ早い、
そんな時期に決まって訪ねて来る。
 「郵便局のSと申します。
今年も、年賀はがきを買ってもらえませんか。」
 深々と頭を下げて、玄関ドアを開けるのだ。

 もう恒例のことなので、迷わない。、
インクジェット版のものを例年同様の枚数で注文する。
 彼は、破格の笑みで立ち去る。

 数週間後、必ずその年の年賀はがき発売初日に、
はがきの束と一緒に、いくつかの粗品までもってやって来る。
 「ありがとうございます。来年もよろしくお願いします。」 
支払いを済ませると、明るくそう言って帰って行く。

 今や、少ない我が家の年中行事の1つと言っていい。
だから、そのSさんの顔を私はしっかりと覚えている。

 半年以上も前になるだろうか。
郵便局前の通りをジョギングしていた朝だ。
 出勤途中だったのだろう、徒歩の彼に出逢った。

 明るい声で挨拶した私に、
彼は何か考え事の最中だったのか、
うつむいたまま、会釈だけ返してくれた。
 あの笑顔はなかった。
若干期待が外れた。
 それが心に残り、留まった。

 そして、夏のことだ。
再び、同じようなシチュエーションで彼に出逢った。
 やはり、うつむいたままの会釈だった。

 2度目の出逢いがこのまま過ぎるのがいやだった。
また期待外れが心に残る。

 すれ違いざまに言ってみた。
「Sさん、ですよね?!」。
 突然、彼は足を止め、私を見た。

 私は、走りながらふり向き、もう一度明るい声で挑戦した。
「Sさん?、ですよね!」。

 彼は、不思議な表情で、ぼう然としていた。
そして、私を見たまま軽くうなずき、
「だれ?」と唇が動いた。

 「ほら、毎年、年賀はがきを買ってる・・、ツカハラ!」。
後ろ走りをしながら、私は少し大きな声で叫んだ。
 不審な表情が、急にあの明るい顔に変わった。
私は、片手を挙げてから、再びジョギングに戻った。

 「ヤッター!」。
何故か、少年のような気分になっていた。

 我が家に着いて早々、家内に教えた。
「迷惑だったかも知れないよ。」
 「そうか」と思い直してはみたが、
また出逢ったら、同じことをするだろう。
 きっと、そうする。

 ▼ ノルディックウオーキングのストックを手に散歩する方に、
出逢うことが多い。
 何故か、高齢の女性ばかりだ。

 天気予報にはなかったのに、途中で雨が降り始めた。
それほど強い雨にはなりそうもない。
 そのまま走り続けたが、
朝なのに小ぬか雨が辺りをうす暗くしていた。

 よく走るお気に入りのコースの終盤だった。
右折して少し行くと、
しばしばすれ違う両手にストックの方と顔を合わせた。

 陽差しを避けた広いつばの帽子と、
これまた大きめのリュックを背負い、
一歩一歩しっかりとした足どりの方だった。
 私より一回りは上なのではないだろうか。

 いつもの挨拶に替えて、声をかけた。
「雨、降り出しましたね。大丈夫ですか。」
 すると、その方は、私に顔を向け明るく答えた。
「あと少し、頑張ります。」

 その力強い返事に、反応した。
「そうですか。頑張って、気をつけてください!」
 「ハイ!」

 雨でも、もう少し頑張って歩いて見よう。
てっきり、そんな意気込みだと思った。
 その強さに、少し元気をもらった。

 だから、ふとふり返って見た時に、
その後姿がなかったことに、驚いてしまった。

 「なぜいない。」
雨に濡れ、走りながら、姿が消えた訳を考え続けた。

 私が右折してきた道までは行ってないはず・・・。
ならば、どうして・・・?
 ヒントは、「あと少し」にあった。

 それは、あと少しでゴール、つまり自宅に着くと言うこと。
その意味だったのだ。
 それを私は、勝手に解釈した。

 小雨模様のジョギングの最中、
少しの時間、「狐にだまされた童話」の中にいた。





    ジョギング道に秋桜が満開

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