雨の日のノスタルジア
~紫陽花と雨と少年~
デジブック 『雨の日のノスタルジア』
学校帰りの駅舎
突然の雨に呆然と立ち尽くす少女。
傘はひとつしかなかったから、
少年はそっと、少女に差し出す。
「僕は家近いから、これ、使いなよ。」
って、ぶっきらぼうに言った。
「えっ!?」と驚く少女を残して
少年は脱兎の如く
激しい雨の中へ飛び出した。
「やっと、声をかけた。やっと、声をかけた。」
少年はずぶ濡れになりながらも、
にこにこしながら、走っていった。
道行く人が奇異な目で
見ることを厭わずに。
「いつか、あの傘さして
二人で歩けたら。」
「・・・なんて望まない。望まない。
夢のまた、夢だから。」
雨に濡れた紫陽花だけが
微笑むように咲いていた、あの日。
誰しも、あったような、なかったような
遠い “雨の日のノスタルジア”。
By あずき煮えた