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原作者の豊田正子は十七歳。ふっくらとした丸顔におさげ髪の感じの良い少女で、私は初対面で好感を持った。いや、貧しく生まれ育った境遇をありのままに、素直に、サラリと綴方に書く彼女の大らかな人柄に羨望と尊敬をおぼえたのかもしれなかった。彼女の明るい笑顔にはいつも愛らしいエクボが見え、貧乏人の屈折した影などみじんも感じられなかった。向こうはどうだか知らないけれど、私は豊田正子と会うことが楽しかった。
しかし、昔も現在もジャーナリストの中には浅薄無残なオッチョコチョイがいて、一見プチブル・スタイルの私と、めいせんの着物にヘコ帯姿の豊田正子との対照を、いかにも面白おかしく記事にして、それが読者へのサービスだと思い、捏造記事を書いて、陰でケケケと舌を出す人もいた。(中略)芸能欄のゴシップ記事などは読者の息抜きのお笑いぐさ、いちいち目くじらを立てるには当たらない。と、理性では納得ができても、実際に俎上にのせられている当事者の身になってみれば、とてもじゃないがたまったものではなく、私と豊田正子は、雑誌記者のケケケにひっかかって一年もたたぬうちに、お互いに誤解し疎遠になってしまった。
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おそらく今頃、お二人は旧交を温めておられるに違いない。合掌。