徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

まざまざとよみがえる あの日の光景(東京オリンピック水泳最終日)

2016-08-10 14:04:13 | スポーツ一般
 リオ五輪第5日の9日、競泳男子800mリレーで日本チーム(萩野公介、江原騎士、小堀勇気、松田丈志)が7分3秒50で3位に入り、銅メダルを獲得した。この種目でのメダル獲得は、なんと東京オリンピック(1964)以来、52年ぶりだそうだ。
 このニュースを聞いたとたん、僕はその52年前の光景がまざまざとよみがえった。

 1964年10月18日。東京オリンピックの水泳競技最終日、僕は会場となっている代々木競技場のプールで大会スタッフのアルバイトとして働いていた。この日まで日本水泳陣は1個のメダルも獲れないでいた。いよいよ最終種目の男子800mリレー。日本にとってはまさにラストチャンスだ。スタートの号砲が鳴る。最終種目とあってか、会場はもの凄い声援の嵐。僕ももう仕事なんかそっちのけ、仮設スタンド脇の黒山の人だかりのすき間からレースを覗き見る。日本は福井、岩崎、庄司と繋ぎ、アメリカ、ドイツ(東西連合)に続き3番手でアンカーの岡部へ。悲願のメダルへ手が届きそうだ。その時だった。誰かが仮設スタンドの上から僕を呼んでいるのに気付いた。見ると外国人の男性客が僕にスタンドに上がって来いと言っているらしい。そして僕に手を差し伸べた。僕も躊躇している場合ではないと思い、手を差し出し、仮設スタンドの鉄パイプをハシゴがわりにして客席まで引っ張り上げられた。男性は何かしきりに英語でまくしたてたが、どうも「日本がメダルを獲りそうだから、ここからしっかり見ていろ!」と言っているらしかった。僕は「サンキュー」とだけ言ってレースに集中した。岡部は3番手の位置を保ったまま、最後のターンを終えた。するとそれまでにも増してもの凄い声援と指笛が大音響となって会場を包んだ。日本人、外国人関係なく会場すべてが日本を応援しているようだった。そして日本は3位でゴールインした。引っ張り上げてくれた男性やその周囲の観客たちが、僕に「コングラチュレーション!」の嵐。僕はその人たちと握手しながら「サンキュー!サンキュー!」というのが精一杯だった。そして僕はその時、スポーツの存在意義を実感した。


東京オリンピックで銅メダルを獲得した800mリレーチーム。左から岡部、庄司、岩崎、福井の各選手